代表的な精神疾患である統合失調症は,陽性症状,陰性症状,認知機能障害などの主要な症候があり,社会機能障害を生じる.本特集では,統合失調症の診断基準,補助診断法,ゲノムや脳画像を用いた病態解明研究,治療法について概説する.診断は症状によってなされ,ICDやDSMが用いられるが,そのなかでも若干の差異がある.この統合失調症の診断基準の現状と課題について,東京科学大学精神行動医科学分野の杉原玄一が1論文目にて執筆する.統合失調症に客観的な検査はなく,補助診断法の開発が求められている.統合失調症の判別について研究レベルでの成果は多数報告されているが,多くは研究レベルでの論文として報告されるのみであり,再現性の検討がなされることはなく,その後,臨床応用をめざした開発に成功したものはない.このような統合失調症の補助診断法開発の現状と課題について,東京大学医学部附属病院リハビリテーション部の森田健太郎が2論文目として執筆する.治療には主にドパミン受容体をターゲットとする抗精神病薬が用いられるが,病態に基づく治療薬の開発が求められており,分子遺伝学的な手法や脳画像を用いた手法がなされている.ゲノム研究では,全ゲノム関連解析(GWAS)や全ゲノムシークエンスやコピー数変異解析により,多数の関連遺伝子が見つかっており,このような臨床精神医学に活かす統合失調症のゲノム研究の現状と課題について名古屋大学大学院医学系研究科精神医学分野の池田匡志が3論文目にて執筆する.脳画像研究においては,多数のメタアナリシスが行われ,効果量は小さいが確かな健常者との違いが見いだされるようになっている.さらに発展してそこから層別化した研究が行われるようになってきており,このような統合失調症の脳画像病態研究の現状と課題について国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神疾患病態研究部の松本純弥が4論文目として執筆する.最後に,統合失調症の治療の現状と課題について,ガイドラインの作成とそれに基づく教育・普及・検証を中心に北里大学医学部精神科学の稲田健が5論文目として執筆する.本稿においては,これらの内容の概要とともに,その大前提となる患者・家族の視点からのPPIについての観点を加えて概説する.
2)やきつべの径診療所
3)糸魚川診療所
4)有沢橋病院
5)京都大学大学院医学研究科精神医学
https://doi.org/10.57369/pnj.26-093
受付日:2025年11月27日
受理日:2026年4月13日
はじめに
代表的な精神疾患である統合失調症は,精神科医にとって最も基本として学ぶ疾患であり,かつ難しい疾患である.また,精神疾患はその定義から,生物学的な違いが想定されるが,いまだその原因が同定されていないことから,いわゆる身体疾患と区別される.一方で,もともと精神疾患とされてきた疾患の病態研究の成果から,いわゆる神経疾患をはじめとしてさまざまな身体疾患が分離して精神疾患ではなくなっている.その結果,多くの疾患が精神科診療から他の診療科の病気になっていくという流れのなかで,統合失調症は精神疾患の代表としていまだ残り続けている.このように精神科医にとって最も大きな課題である統合失調症について,本稿では,最も本質的かつ重要な患者・家族の視点からの患者・市民参画(patient and public involvement:PPI)を皮切りに,統合失調症の診断基準,補助診断法,ゲノムや脳画像を用いた病態解明研究,治療法についてアップデートを行う(図).
I.当事者と家族として願うこと
1.当事者と家族が置かれている状況をわかってください
著者の一人が所属する家族会(全国精神保健福祉会連合会:愛称「みんなねっと」)の会員は,ほとんどが統合失調症の当事者を身内にもっている.会員に発病から現在までの経過を聞くと,初診時からいくつもの病名がつけられた挙句,十数年も経ってから「結局あなたは統合失調症です.もう治りません」と言われ,治療自体を諦められてしまうケースが非常に多い.長い闘病の末に残ったものは,大量に処方される薬と副作用に傷んだ身体,入院時のつらい記憶だけだ.困ったときに活用できる入院以外の支援策も,何も説明がされていない状況が多い.根治治療がいまだ見つからない現状では,医療だけではなく福祉の活用が不可欠なはずだが,そこに関心を向ける医師は少ない.家族会には比較的重度の当事者をもつ家族が多いので,治療者が治療に難渋するのは理解できる.すべての当事者の経過が上記のようだとは言えないが,家族会ではこうした現状は常識であり心が痛む.
医療者は統合失調症の良好な予後には「早期発見・早期介入,未治療期間の短縮が重要である」と繰り返し啓発しているが,そもそも医学が早期に適切な診断をしてくれなくては,当事者も家族もどうすることもできない.「言っていることとやっていることが違うではないか」と言いたくなる.最終的に統合失調症という診断をする場合も「もうこの診断名しか残っていないから」といった説明では,青年期の貴重な時間を闘病に費やしてきた当事者にはあまりにも酷である.
家族に対しても,医療者はしばしば家族の「高EE:expressed emotion(患者に対する家族の感情表出に批判,敵意,過度の感情的巻き込まれなどが強くみられること)」の状態が患者の症状に影響すると説明するが,なぜ高EEになってしまうのか,治療する側は他人事ではなく振り返ってほしい.確固たる根拠も説明もなくコロコロと変わる診断名に振り回され,一向に改善しない症状への不安や治療への不満を,家族は治療者に向けることはできない.国は「公的扶助から私的扶助へ」と舵を切ったが,現在の日本では統合失調症の当事者が地域で自立して一人暮らしを続けることは現実には非常に難しい.家族はおせっかいや過保護,自己満足で当事者のケアをしているわけではない.
また,偏見の問題も,当事者・家族を苦しめている.「原因がわからない病気」ゆえに,一般の方から医学的に根拠のない思い込みをされることも多い.偏見は当事者のみならず家族にも向けられ,時には結婚や就職にも影響する.偏見がさらに高EE家族を生み出していく.
2.当事者・家族の願い
当事者・家族の願いは,「病気なら治してください」「治せないなら,せめてケアをしっかりしてください」である.「みんなねっと」では,2021年に4項目を柱とする精神科医療への提言を発出した.
1)市民のメンタルヘルスケアの充実,2)精神科医療の一般化の実現,3)薬物治療とともに心理社会的支援が当たり前に受けられる方向への転換,4)当事者の視点を大切にする精神科治療へ〔(i)薬物療法を受けた本人の意見の尊重と治療・研究への当事者・家族参加の推進,(ii)身体的ケアの重視,(iii)診断名による混乱の是正を―診断名の伝え方に配慮し診断体系の見直し―〕である.
この4項目には,精神疾患の啓発活動から病態解明までが並んでいる.われわれにとっては,そのどれもが「当事者・家族が尊厳をもって良い人生を歩むために」欠くことができない事項である.今現在,根治的な治療法がないなかで,当事者は懸命に生をつないでいることを理解していただき,提言の1)~4)を進めていただきたい.生物学的な研究をする人,臨床に従事する人,心理・社会学的な研究をする人が共に情報交換しながら,領域を超えてオールジャパンで研究を進めてほしいと願う.そしてその研究活動のなかに,当事者・家族も加えていただきたい.日本は2014年に『障害者権利条約』を批准した.「私たちのことを私たち抜きで決めないで(Nothing about us without us)」が世界中の障害当事者の合言葉になっている.われわれが抱えている病気の研究をするのであれば,その病気を最も知っているわれわれを研究の計画立案の最初の段階から仲間に入れてほしい.これは,ごく当たり前の願いである.研究へのPPIが研究費獲得のためのアピールとして使われることがあってはならない.そうした行為は結局は研究への当事者・家族の期待を裏切り,研究の発展を阻むであろう.統合失調症治療の行く末が,明るい未来であることを祈る.
II.診断基準
現在,統合失調症の診断には2つの国際基準,すなわちDSM-5-TRとICD-11がある.過去には,米国と英国で統合失調症診断に著しい相違が存在した.この経験をふまえ,国際的な調和が図られ,「症状の数と持続期間」に基づく運用基準が確立された.診断に必要な症状の持続期間などには依然として差異が残るものの,両基準は多くの領域で大きく収束しており,例えば妄想型や解体型といった古典的な亜型の廃止などが挙げられる.
しかしながら,これらの診断基準には根本的な限界がある.診断は症状の「記述」に基づいて定義されており,根底にある病態生理を直接反映していない.「統合失調症」という単一の診断名の下に複数の生物学的に異なる病態が共存しているにもかかわらず,この異質性は診断基準に反映されていない.さらに,身体運動,表情の変化,眼球運動,声の抑揚といった情報は,現行の診断基準では評価対象外である.これらは臨床現場では重要な手がかりとなりうるが,それらを体系的に記述する方法は確立されていない.
こうした限界を克服する取り組みが今必要とされている.例えば,統合失調症の単一の「本質」を一律に追求するのではなく,生物学的特徴が異なる特定の患者サブグループの病態生理を個別に解明するアプローチが考えられる.さらに,表情・姿勢認識,視線分析,自然言語処理,音声分析といったデジタル技術は,従来記述が困難だった症状を客観的に評価する可能性を拓いている.こうした取り組みにより,より精密な診断が可能となり,効果的な治療法の実現につながることが期待される.
III.補助診断法開発
先に述べたように統合失調症の診断は今も主に「症状の観察」に基づいて行われている.そして,統合失調症は生物学的な側面がとても多様であるため,原因の解明が難しい状況が続いている.神経の働きを調べる指標,脳画像,遺伝情報,デジタルデータなど,主なバイオマーカー候補について検討したところ,客観的な診断補助として比較的強い研究結果が得られているのは,脳画像で見られる「脳室拡大」や脳の反応を調べる「ミスマッチ陰性電位」などである.しかし,これらの指標は診断の精度がまだ十分でなく,研究ごとの結果のばらつきである異質性が大きいという共通の問題がある.このように,客観的な補助診断法となりうるバイオマーカーの開発が期待されているが,実際の医療現場で使えるレベルに達した手法はいまだない.臨床応用を進めるうえでの課題には,(i)病気そのものの多様性,(ii)病態メカニズムの不明確さ,(iii)統計的なエビデンスが増えても実際の診療で使える形に落とし込むのが難しい,という点がある.これらを乗り越えるためには,マルチモーダル・メガ解析を推進し,そのうえで病気を生物学的な特徴によって細かく分類する「バイオタイプ」のアプローチが必要と考えられる.
IV.ゲノムによる病態解明研究
全ゲノム関連解析(genome-wide association study:GWAS)による効果サイズの小さい感受性多型や,全エクソーム/全ゲノムシーケンス(WES/WGS)による効果サイズは大きいが頻度の低いリスク変異の同定が精力的に進められている.しかし,これらの手法によって得られた一つひとつの遺伝子の統合失調症のリスクが小さかったり,非常に稀であったりするため,精神疾患の基盤となるメカニズムの解明には役立つかもしれないが,直接的に診断や治療法の開発に結び付けるには不十分である.とはいえ,これらの知見を活用することは臨床精神医学にとってきわめて重要である.例えば,多遺伝子リスクスコア(polygenic risk score:PRS,多数の小さな効果をもつ遺伝的多型が加算的に疾患に寄与するモデルを用いたスコア)は,疾患リスクに対する予想外に大きな効果サイズを示しており,精神疾患の診断に新たな視点を提供している.薬物応答性や副作用に関連する遺伝子を特定する薬理ゲノミクス研究も,直接的な臨床応用が期待される.このようなゲノムによる病態解明研究が統合失調症の診断と治療に寄与するための課題を特定するとともに,これらの障壁を克服する戦略を探求することで,ゲノム医療の基盤を確立することができると考えられる.
V.脳画像による病態解明研究
統合失調症の脳画像所見について,平均値を比較した研究では有意な差異が繰り返し報告されてきたが,その差は小さく再現性に懸念が生じていた.国際的なENIGMAコンソーシアムや日本の生物精神医学研究COCOROコンソーシアムが主導するそれぞれ数千例を用いた大規模多施設共同研究において,大脳皮質・皮質下構造・白質微細構造における健常者との違いについて再現性をもって見出した2)4).これらの違いはゲノム研究と同様に確実であるものの小さいため,病態としての意義はあるものの診断や治療には直結しないという課題があった.そこで,14ヵ所の大脳皮質下体積を用いて統合失調症,双極症,うつ病,自閉スペクトラム症,健常者を合わせて5,604例をデータ駆動型に分類すると4つのバイオタイプがあることが判明した5).そのうちの1つである大脳辺縁系の著しい縮小と重度の認知・社会機能障害を特徴とする脳バイオタイプに焦点を当てた新たな研究では,側脳室容積に基づく層別化に加え,中等度以上の認知障害の有無を補足した.これにより,脳波異常の高頻度,統合失調症診断,ゲノムにおける稀な病的コピー数変異を有する群が同定された7).このように,脳画像のデータ駆動型解析が統合失調症を超えて新たな精神疾患診断の発見につながることが示唆されている.
VI.治療とその均てん化
精神科医療の質の向上が必要なことは言うまでもない.この医療の質の目安としてエビデンスに基づいた診療であるevidence-based medicine(EBM)がある.EBMに基づいて作られる診療ガイドラインは,「健康に関する重要な課題について,医療利用者と提供者の意思決定を支援するために,システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し,益と害のバランスを勘案して,最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義される.しかし,あらゆる診療科で診療ガイドラインと実臨床の乖離があることが知られていて大きな課題となっており,精神科医療もその例外ではない.
この医療の質の評価指標がquality indicators(QI)と呼ばれており,本邦では世界に先駆けて統合失調症におけるQIを『統合失調症薬物治療ガイドライン』に基づいて作成した.そこでわかった実態は,ガイドラインに推奨されているにもかかわらず,(i)統合失調症の薬物治療において抗精神病薬の単剤処方率は高くない,(ii)統合失調症に対するクロザピン治療率は高くない,(iii)統合失調症治療において抗コリン薬の処方率は低くなく施設間格差が大きい,(iv)睡眠薬の処方率は低くないといったことが明確になった.
そこでガイドラインの講習を行い,その効果をEGUIDEプロジェクト1)にて検証するために,ガイドラインの講習受講者に講習前後でガイドラインの理解度を調査したところ,理解度は有意に上昇した6).さらに,講習を受講した医師が担当した患者(受講群)では,抗精神病薬単剤治療率,他の向精神薬の服用を伴わない抗精神病薬単剤治療率,抗不安薬・睡眠薬の非処方率が受講群で経年的に向上するが,講習を受講していない医師が担当した患者(非受講群)では変わらないことが明らかになった3).これは,ガイドライン講習の受講が診療ガイドラインと実臨床の乖離の解消に貢献することを示す.
ガイドラインでは,治療抵抗性統合失調症に対して,クロザピンによる治療を行うことが推奨されているが,クロザピン治療率は諸外国と比較して極端に低い.治療抵抗性統合失調症の診断検討記載率を高めることは,ガイドラインの推奨するクロザピンの使用につながり,診療ガイドラインと実臨床の乖離の解消に貢献することも報告されている.
最後に,精神疾患の個別化医療の標準的な指標であるガイドライン一致率について述べる.患者個人の現在の処方内容がガイドラインの推奨治療とどの程度一致しているのかを示すことは,診療ガイドラインと実臨床の乖離の可視化に貢献する.このガイドライン一致率が高いと,精神症状が軽く,記憶力が良く,労働時間が長いなどのエビデンスも得られており,ガイドラインの推奨する治療に近づけることは診療ガイドラインと実臨床の乖離を解消し,患者の生活の質の向上に貢献するものと考えられる.
診療ガイドラインは,患者と医師の意思決定支援のためにある.エビデンスはあくまでも意思決定を行うための参考情報であり,エビデンスをふまえてエビデンスでは測れない人と人のかかわりが医療において重要であることはいうまでもない.ガイドラインの推奨する治療と現在の治療の一致率は診療ガイドラインと実臨床の乖離の可視化であり,可視化された診療ガイドラインと実臨床の乖離を解消するためには,患者と医療者が協議して,治療方針を決定していくことが望まれる.現在の医療においては,共同意思決定(shared decision making:SDM)は全医療領域で推奨されている.診療ガイドラインと実臨床の乖離を解消していくには,SDMを行うことが求められ,ガイドライン一致率をSDMに活用することは,診療ガイドラインと実臨床の乖離の解消に貢献する.
おわりに
本稿では統合失調症の現状について概説した.今後は,診断基準の背景や意義をふまえて,さまざまな種類のデータを統合した大規模解析を進めることに加え,研究成果に基づくガイドラインを普及させ,当事者や市民が研究に参加し共に精神医学・医療を推進する仕組みを整えることが重要である.そうすることで,科学的に信頼できるだけでなく,患者にとっても意味のある指標を作り,実際の臨床判断を支えるツールとして発展させ,当事者目線の治療法を開発することが期待される.
編 注:本特集は第121回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに橋本亮太(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神疾患病態研究部)を代表として企画された.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
1) EGUIDE (https://byoutai.ncnp.go.jp/eguide/) (参照2026-02-15)
2) ENIGMA (https://enigma.ini.usc.edu/) (参照2026-02-15)
3) Hasegawa, N., Yasuda, Y., Yasui-Furukori, N., et al.: Effect of education regarding treatment guidelines for schizophrenia and depression on the treatment behavior of psychiatrists: a multicenter study. Psychiatry Clin Neurosci, 77 (10); 559-568, 2023![]()
4) 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究部: COCORO (https://byoutai.ncnp.go.jp/cocoro/) (参照2026-02-15)
5) Okada, N., Fukunaga, M., Miura, K., et al.: Subcortical volumetric alterations in four major psychiatric disorders: a mega-analysis study of 5604 subjects and a volumetric data-driven approach for classification. Mol Psychiatry, 28 (12); 5206-5216, 2023![]()
6) Takaesu, Y., Watanabe, K., Numata, S., et al.: Improvement of psychiatrists' clinical knowledge of the treatment guidelines for schizophrenia and major depressive disorders using the "Effectiveness of Guidelines for Dissemination and Education in psychiatric treatment (EGUIDE)" project: a nationwide dissemination, education and evaluation study. Psychiatry Clin Neurosci, 73 (10); 642-648, 2019![]()
7) Yasuda, Y., Ito, S., Matsumoto, J., et al.: Proposal for a novel classification of patients with enlarged ventricles and cognitive impairment based on data-driven analysis of neuroimaging results in patients with psychiatric disorders. Neuropsychopharmacol Rep, 45 (1); e70010, 2025![]()





