Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第128巻第7号

学会誌への手紙
精神科医の働き方改革における対話の重要性―日本精神神経学会 男女共同参画委員会ワークショップ「医師の働き方改革であなたの現場はどう変わったの?―男女共同参画の観点から―」開催報告―
高橋 優輔1), 篠原 清美2), 本屋敷 美奈3)
1)東京大学医学部附属病院精神神経科
2)セブンメンタルクリニック
3)東京医科大学病院メンタルヘルス科
精神神経学雑誌 128: 550-551, 2026
https://doi.org/10.57369/pnj.26-086
受付日:2025年11月24日
受理日:2026年2月17日

索引用語:働き方改革, 男女共同参画, ダイバーシティ, インクルージョン, 組織文化>

 2024年4月に医師の時間外労働の上限規制が施行され,精神科医療においても持続可能な診療体制の構築が急務となっている1).精神科では長期にわたる治療関係やチーム医療を前提とする点に特徴があり,またバーンアウトを防ぎ,育児や介護などのライフイベントとキャリア形成を両立することは,男女を問わず重要な課題である.こうした課題は,ジェンダー平等や多様な働き方を推進するうえで避けて通れない論点でもある.こうした背景のもと,日本精神神経学会男女共同参画委員会は,第121回日本精神神経学会学術総会(2025年度)において,精神科における働き方改革と男女共同参画のあり方を検討する対話型ワークショップ「医師の働き方改革であなたの現場はどう変わったの?―男女共同参画の観点から―」を企画・実施した.本稿では,そこで挙げられた論点を共有し,今後の議論のたたき台として意見提起を行う.なお,ワークショップにおける発言内容は個人や施設が特定されない形で整理しており,本稿では一般化した論点のみを扱っている.
 当該ワークショップは,第121回日本精神神経学会学術総会会期中に開催され,多様な立場の精神科医約40名が参加した.前半では,4名のシンポジストによる話題提供が行われた.清水俊宏氏(埼玉県立精神医療センター)は,日本若手精神科医の会の調査結果に基づき,働き方の価値観や生活背景の多様性をふまえ,業務範囲の認識のすり合わせや急な不在を補完し合う仕組みの重要性を提言した.木下真也氏(大阪医科薬科大学病院)は,自施設医局の実情を例に,専門医取得後のキャリアパスの多様化と長時間労働文化が若手の将来像に与える影響を指摘した.工藤由佳氏(特定医療法人群馬会群馬病院,慶應義塾大学精神・神経科学教室,University College London)は,英国の精神科医の働き方を紹介し,平日日中の会議設定やEquality, Diversity and Inclusion研修など,日常業務や組織運営に組み込まれた実践が組織文化を変え,働きやすさに寄与していることを示した.植田紀美子氏(関西大学人間健康学部)は,行動科学の観点から仕事への態度を「やりたい」「やらねば」「やれる」の3つの側面で捉える枠組みを提示し,現在の働き方改革が法令遵守という「やらねば」に偏りすぎると,専門職としての納得感や成長実感が損なわれうると論じた.
 後半のグループディスカッションでは,各グループ5~8名の参加者とファシリテーターで構成し,KJ法をベースとしたシナリオをもとに,各参加者が職場で感じている課題や解決策について意見を出し合った.事前準備では,安全に発言ができる場となることを最も重視し,発言内容が評価や批判の対象とならないことの事前確認,グラウンドルールの設定,少人数グループの編成などの工夫を行った.結果として,制度が整いつつある一方で,長時間労働や夜間の会議・酒席などの業務外交流を当然視する組織文化,家庭内の役割分担,ロールモデルの乏しさなど,組織や個人レベルでの目に見えにくい要因が依然として大きな影響を及ぼしているとの認識が共通して挙がった.また,自施設の状況を言語化し他施設の工夫を知ることで負担感が相対化され,将来像を具体的に描きやすくなったとの声も多く聞かれた.働き方改革を制度変更のみで完結させず,異なるライフステージや価値観をもつ専門職同士が対話を通じて調整していく継続的なプロセスとして位置づける重要性が示唆された.
 以上を踏まえると,多様な勤務形態を可能にする制度整備,ジェンダーやライフイベントをめぐる暗黙の前提を見直す組織文化づくり,相互の状況や価値観を共有する対話の場の継続が重要と考えられる.精神科はメンタルヘルスや多様性への感度と配慮が特に求められる領域であり,自らの働き方を問い直すことは専門職としての信頼性を高める試みとも位置づけられる.学会として,全国的な実態調査や好事例の収集・共有,学術総会などにおける継続的なワークショップの開催などを通じて,これらの取り組みを後押しすることが期待される.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

 謝 辞 本稿の執筆にあたり,ワークショップにて多角的な視点をご提示いただいたシンポジストの諸先生方,ならびに熱心にご議論いただいた参加者のみなさまに深く感謝いたします.また,本企画の立案・運営にご尽力いただいた,渡辺雅子委員長(当時),布施泰子先生(現委員長)はじめ,日本精神神経学会男女共同参画委員会のみなさまに心より御礼申し上げます.

文献

1) 厚生労働省医政局医事課医師等働き方改革推進室: 医師の働き方改革について. 令和3年度 第1回医療政策研修会及び地域医療構想アドバイザー会議 資料. 2021

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