Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第128巻第7号

先達に聴く
第121回日本精神神経学会学術総会
精神療法に関する最新の脳科学的理解―支持的精神療法,認知行動療法,精神分析的精神療法,マインドフルネス認知療法―
山脇 成人
広島大学脳・こころ・感性科学研究センター
精神神経学雑誌 128: 532-541, 2026
https://doi.org/10.57369/pnj.26-084
受付日:2025年10月27日
受理日:2026年1月22日

 本稿では支持的精神療法,認知行動療法(CBT),精神分析的精神療法,マインドフルネス認知療法(MBCT)などの精神療法に関して,うつ病を中心に最新の脳機能画像解析研究をレビューし,著者の考察を交えて精神療法の脳科学的理解を論じる.分子病態に作用する薬物療法と精神療法は併用されるが,精神療法の作用機序に関する脳科学的理解は不十分である.支持的精神療法は,うつ病で低下している左背外側前頭皮質(DLPFC)を活性化することで,腹側前帯状皮質(VACC)の活動を抑制して社会的痛みを軽減する.CBTは,うつ病で過活動であるネガティブな自己関連的処理にかかわる内側前頭皮質(MPFC)-VACC-扁桃体の機能的結合を抑制する.近年,うつ病にかかわる神経回路ネットワークとして,デフォルトモードネットワーク(DMN),顕著性ネットワーク(SN),中央実行機能ネットワーク(ECN)で構成されるTriple Network Modelが注目されている.精神疾患の病態に密接に関与する患者の生活史に基づく物語的自己の形成にDMNが重要な役割を果たしている.精神分析で焦点となる自我機能もDMNと自由エネルギー原理で脳科学的に説明されている.感情はSNの島皮質による内受容感覚変化の予測誤差検出(気づき)と能動的推論の知覚と捉えられる.うつ病ではSN(気づき)の機能不全によりECN(実行)への切り替えができず,DMN過活動による不安・抑うつ・反芻思考などの症状が出現する.MBCTは内受容感覚の呼吸に注意を向けることで島皮質を活性化し,SNの切り替えを介してDMN過活動を抑制することで反芻思考などのうつ病症状を改善する.

索引用語:精神療法, 脳科学, トリプルネットワークモデル, 内受容感覚, 自由エネルギー原理>

はじめに
 精神療法は,精神科治療のなかで最も精神科らしい個別化治療技法であるが,方法論や流儀が多様で,その有効性の科学的根拠を示すことが難しく,適切な治療ガイドラインも存在していない.モノアミン欠乏などの分子病態に基づいて開発された抗うつ薬治療も約3分の1の患者は治療抵抗性で,認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)などの精神療法が併用されるが,精神療法の脳科学的理解はいまだ不十分である.近年,機能的MRI(fMRI)などを用いた精神疾患の脳機能画像解析研究が急速に進展し,精神療法に関する研究成果も数多く報告されている.本稿ではうつ病治療を中心に,支持的精神療法,CBT,精神分析的精神療法,マインドフルネス認知療法(Mindfulness-based Cognitive Therapy:MBCT)などに関する著者らの研究も含めて最新の脳機能画像解析研究をレビューし,精神療法の脳科学的理解について概説する.

I.うつ病の病態における薬物療法と精神療法の作用点の違い
 うつ病の分子病態仮説としては,モノアミン欠乏仮説,神経可塑性異常仮説,神経炎症仮説などさまざまな仮説が提唱されてる.代表的な抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)は,分子病態の1つであるシナプス前部のセロトニントランスポーターを阻害することで,シナプス間隙のセロトニン濃度を増加させて抗うつ効果を示すとされている.一方,精神療法は,後述するようにうつ病の病態にかかわる神経回路ネットワークに作用して抗うつ効果を示すと考えられ,作用点が異なることから薬物療法との併用は合理的といえる.

II.うつ病にかかわる神経回路ネットワークモデル
 脳は,複数の領域が協調して働く「機能的ネットワーク」により,さまざまな精神機能を支えている.うつ病にかかわる代表的な神経回路モデルを紹介する.

1.Dual Network Model
 Mayberg, H. S. は,腹外側前頭皮質(ventrolateral prefrontal cortex:VLPFC)-眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex:OFC)-腹側前帯状皮質(ventral anterior cingulate cortex:VACC)-島皮質-扁桃体で構成される腹側(感情)ネットワークが,ある刺激に対して自動的にボトムアップで生じる感情の生成や自律神経反応に関与するのに対し,背外側前頭皮質(dorsolateral prefrontal cortex:DLPFC)-背内側前頭皮質(DMPFC)-背側前帯状皮質(dorsal anterior cingulate cortex:DACC)-海馬で構成される背側(認知)ネットワークが,上記の感情生成をトップダウンの意識的な認知制御に関与するという「Dual Network Model」(図1)を提唱した.また,うつ病患者では背側(認知)ネットワーク機能が低下し,腹側(感情)ネットワーク機能が亢進していることを報告した14).Drevets, W. C. らのPET研究8)をはじめ,2000年代初めはうつ病のDual Network Modelを支持する脳機能画像解析研究が数多く報告された.

2.Triple Network Model
 2010年代に入って,脳の局所ネットワークではなく,大規模ネットワークの機能的結合に焦点を当てた研究が隆盛となり,精神病理学の脳科学的理解は大きく進展した.Menon, V. は,図2に示す「Triple Network Model」を提唱した15)16).具体的には,中央実行機能ネットワーク(Central Executive Network:CEN):主としてDLPFCと後頭頂皮質(posterior parietal cortex:PPC)の機能を結合しており,認知制御,意思決定,目標指向行動などに関与する.デフォルトモードネットワーク(Default Mode Network:DMN):主に内側前頭皮質(medial prefrontal cortex:MPFC)と後帯状皮質(posterior cingutate cortex:PCC)の機能を結合し,角回,内側側頭葉を含む.DMNは反芻思考・自己関連・マインドワンダリング(雑念)などに関与する.顕著性ネットワーク(Salience Network:SN):主に前部島皮質(anterior insular cortex:aINS)と前帯状皮質(anterior cingulate cortex:ACC)の機能を結合しており,入力刺激の検知,気づき・ひらめきに関与し,DMNとCENの切り替えスイッチの役割を果たす.
 うつ病患者脳では,SNの活動が低下しており,DMNからCENへの切り替えが作動せず,DMN過活動によるネガティブ反芻思考,CEN低活動による認知機能障害,行動抑制などのうつ病症状発現に関与することが報告されている16)

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III.支持的精神療法の脳科学的理解
 支持的精神療法は共感・保証などによる基本的な精神療法である.著者らは共感的サポートによる脳機能変化について,MRI内で被験者と仮想プレーヤー2名がキャッチボールをする(サイバーボール課題)を用いて,受容条件(3名でキャッチボールしている),排斥条件(被験者にボールがこず仲間外れにされる),サポート条件(排斥条件下で「いやな思いをさせてすみません」などの共感的メッセージが提示される)における,社会的痛みスコアと脳活動の相関をfMRI解析した.その結果,図3に示すように,排斥条件では受容条件と比較して,腹側(感情)ネットワークのVACCの活動〔図1(iii)に相当〕が亢進し,社会的痛みスコアが上昇するのに対し,サポート条件では背側(認知)ネットワークの左DLPFC〔図1(i)に相当〕が活性化され,社会的痛みスコアが低下することを見出し,支持的精神療法のDual Network Modelに基づく脳科学的理解として報告した18)

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IV.認知行動療法(CBT)の脳科学的理解
 CBTは,Beck, A. T. が考案した,うつ病患者の自動思考と認知の歪みを修正して行動変容を促す認知療法と行動療法を融合した精神療法である1).CBTの抗うつ効果は抗うつ薬と同等で再発予防効果は抗うつ薬より優れていることが報告されている5).Siegle, G. J. らは,うつ病治療のfMRI研究において,抗うつ薬はうつ病の腹側(感情)ネットワークの扁桃体〔図1(iv)に相当〕過活動を抑制するのに対し,CBTは背側(認知)ネットワークの前頭皮質機能〔図1(i)に相当〕を活性化することを報告し,うつ病のDual Network Modelを支持している23).Beckらもうつ病の否定的自己認知(抑うつスキーマ)に関する脳機能モデルを報告している2)7)
 著者らは,うつ病患者では自己に関連したネガティブ語(無責任,軽薄など)課題に対して,Triple Network ModelにおけるDMNの内側前頭皮質(MPFC)〔図2(iii)に相当〕とACC〔図2(vi)に相当〕の活動が亢進することを報告した25)26).このネガティブ語自己関連付けに対するCBTの効果を検討した結果,図4aのようにCBTはうつ病スコア(Beck Depression Inventory:BDI)の改善とともにMPFCとACCの活動亢進を抑制した.一方,図4bのようにうつ病患者では,MPFC-ACC,MPFC-扁桃体,さらにMPFC-VACC-扁桃体間の機能的結合がいずれも亢進していたが,CBTはこれらの機能的結合亢進を抑制した.CBTはうつ病のネガティブ自己関連付けにかかわる脳機能異常を改善することを報告した27)

図4画像拡大

V.精神分析的精神療法
 Freud, S. による精神分析の力動論では,過去のトラウマ体験(自伝的エピソード記憶)の無意識への抑圧が神経症や不適応行動の原因とされ,自由連想法によりトラウマを意識化させる(気づく)ことで直面化させ,その対処法の精神療法的介入により症状を改善する.患者自身の過去のトラウマ体験に焦点を当てた個別化医療の先駆けであるが,科学的根拠を示すことが難しいことが課題であった.本稿では,精神分析的精神療法を脳科学的に理解するためのエポックとなる研究を紹介する.

1.物語的自己形成とDMN
 Menonが提唱したTriple Network ModelのDMNが,個人の内なる物語的自己(Narrative Self)の形成に関与するという精神病理学の脳科学的解釈は,精神分析の脳科学的理解に大きな貢献をした17)図5aは脳の外側面,内側面からみたDMNを構成する脳部位を示す.5bのごとくMPFC,後帯状皮質(PCC),左右の角回(angular gyrus:AG)は,相互の機能的結合が自己関連評価,社会的認知,自伝的エピソード記憶,言語の意味的記憶などに密接に関係しており,これらを統合して個人の体験を反映し首尾一貫した物語的自己を形成すると報告している.この理論は,精神分析の力動論におけるトラウマ形成の神経基盤を説明しうる有望な理論モデルあるが,今後の実証研究が期待される.

2.自由エネルギー原理―感覚・認知・行動の適応理論―
 「自由エネルギー原理」とはFriston, K. が提唱した感覚・認識・行動の適応理論であり,「生物は感覚入力の予測しにくさを最小化するように内部モデルおよび行動を最適化し,環境に対する予測可能性を上げる」という脳の理論である11).この理論では,ヒトは未来を予測しながら認知・意思決定・行動しているが,脳は過去の体験をもとに,感覚情報を予測符号化し,ずれ(予測誤差)が生じた原因を能動的推論により,予測誤差を最小化するように脳の内部モデル(神経活動・シナプス結合)を更新して行動すると説明している19)

3.自我機能のデフォルトモードネットワークと自由エネルギー原理モデル
 神経病理学者でもあったFreudは,精神分析の根拠となる脳機能をφ,ψ,ωニューロンで説明しようと試み科学的心理学草稿に投稿しているが10),当時の脳科学レベルでは解決できなかった.Friston, K. J. らは,Freudの自我機能はDMNと自由エネルギー原理で脳科学的に説明可能であると報告している3)図6に示すように,精神分析の局所論における「自我」に対して,DMNが関与する快楽原則に基づくエスからのボトムアップの圧力を一次プロセス,「現実」と道徳原則に基づく「超自我」からの束縛エネルギーの圧力とのギャップ(予測誤差)を,自由エネルギー原理に基づいて最小限に調整して現実に適応する中枢機能を二次プロセスと呼び,自我機能を脳科学的に説明している.健常者では,予測誤差の原因を能動的に推論し,健康なはけ口としての行動をとるのに対し,神経症やうつ病患者では歪んだ認知(信念)に基づく不適切な予測誤差処理による防衛機制による行動を取るという自由エネルギー原理モデルであるが,今後の臨床に基づいた実証研究が期待される.

図5画像拡大
図6画像拡大

VI.マインドフルネス認知療法(MBCT)
 マインドフルネスは,内受容感覚である呼吸に集中するストレス低減のための瞑想技法として急速に普及し,うつ病治療としてもMBCTの有効性が報告されている12)13).内受容感覚とは,呼吸だけでなく,心拍や胃腸の動きなど,身体内部の生理的状態を感じ取る感覚である.マインドフルネスでは,そのなかでも最も注意を向けやすい呼吸を手がかりとして,この感覚への気づきを高める.最近注目されている,前述の自由エネルギー原理に基づいたSeth, A. K. とFristonらによる感情生成に関する内受容感覚の能動的推論モデル22)について著者の解釈を加えて説明する.
図7aに示すように,現在の感情は,過去の体験(エピソード記憶)に紐づく無意識の内受容感覚の変化(隠れた原因)を能動的推論により生じる知覚である.例えば,ネガティブなエピソード記憶と紐づく場合は,胸騒ぎなどで表現される不安や憂うつなどの感情を知覚する.未来を予測する場合は,過去の体験で構築された内受容感覚の内部モデル(信念)と比較し,ずれが予測誤差として検出され(気づき),この予測誤差を最小化することでストレスによる自律神経系の乱れを修正する.著者らは内受容感覚の予測・予測誤差検出に島皮質〔図1(ii),図2(v)に相当〕を頂点とする脳-内受容感覚ネットワークモデルを報告した9)
図7bに示すように外受容感覚(五感)入力刺激があると,同時に無意識レベルの内受容感覚も反応し,感情的インパクトのあったエピソードは文脈的内受容感覚の変化(動悸など)と紐づいた自伝的エピソード記憶として,海馬などに蓄積される.未来を予測する場合,無意識レベルの内受容感覚の変化が動悸として表出され,島皮質が文脈的内受容感覚の変化の隠れた原因(過去のエピソード)を能動的に推論して,感情が知覚される.うつ病患者では,ストレス負荷に対する島皮質による内受容感覚の予測誤差検出能力が低下しており,予測誤差を修正することができないために,不適切な能動的推論による不安・抑うつ・反芻思考などの感情障害に加えて,内受容感覚を調整する自律神経系も障害され,食欲低下,倦怠感,不眠などのいわゆる不定愁訴を呈すると考えられる.
 Dickenson, J. らは,fMRIを用いた健常者の内受容感覚(呼吸)集中時の脳活動を計測した研究において,呼吸集中前は,反芻思考,マインドワンダリング(雑念)にかかわるDMNの活動優位であったのに対し,呼吸集中時は島皮質を含むSNの活動亢進を報告した6).Wiebking, C. らはうつ病患者の内受容感覚(心拍)集中時の脳活動は,うつ病相で島皮質の活動が低下し,寛解期に回復することを報告した28).Datko, M. らは,MBCT治療後では島皮質の活動が有意に亢進していることを報告した4).この他にもMBCT治療効果にDMNと内受容感覚の予測誤差検出(気づき)にかかわる島皮質が密接に関与しているエビデンスが蓄積されている20)21)24)

図7画像拡大

おわりに
 本稿では科学的根拠が乏しいとされてきた支持的精神療法,CBT,精神分析的精神療法,MBCTに関する最新の脳機能画像解析研究をうつ病を中心にレビューし,著者の私見も含めて脳科学的理解について解説した.昨今の医療界においてもDXや生成AIを用いた個別化医療は急速に進展しており,精神科医療も取り残されてはいけない.精神疾患の病態解明はいまだ道半ばであるが,最近の膨大なゲノム,分子生物学,脳科学研究の進展により病態理解は深まりつつあり,精神科医も知識をアップデートしておく必要がある.精神疾患の病態に必須である物語的自己形成にDMNが重要な役割を果たしていること,DMNと自由エネルギー原理による自我機能の理解,内受容感覚変化の予測誤差検出(気づき)と能動的推論による感情制御などの理論は,これまで困難であった精神療法の脳科学的理解に多くの示唆を与えている.著者は,脳科学に基づく内受容感覚の予測機能の可視化技術開発が精神医療のイノベーションを引き起こす可能性があると期待している.

 編  注:山脇成人先生には初校の校正までお目通しいただきましたが,去る2026年6月8日にご逝去されました.つきましては,再校以降の確認および校了までの作業は編集委員会にて行いましたことを申し添えます.謹んでご冥福をお祈り申し上げます.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

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