本稿は,日本における「ダブルケア」の概念と,それに伴う社会的・心理的課題,更年期女性の健康問題,医療職による支援の重要性を論じている.ダブルケアは,狭義には育児と介護の同時進行,広義には親密な関係内で複数のケアを担う状況を指す.日本では高齢化,出産年齢の上昇,平均寿命の延伸により,ダブルケアを担う人(以下,ダブルケアラー)が増加し,経済的・心理的負担が深刻化している.ジェンダー不平等も顕著で,女性の就労希望が阻まれる背景には性別役割分業や長時間労働慣行がある.家庭内でもケア労働は女性に集中し,男性は配偶者の支援を得やすい一方,女性は孤立しやすい.こうした構造は「母・妻・娘・嫁」といった多重役割を担うサンドイッチ世代の特徴であり,罪悪感や精神的逼迫を生む.更年期世代のダブルケアラーは,ホットフラッシュ,関節痛,不眠,不安,抑うつなどの症状を呈しやすく,QOL低下やうつ病リスクが高まる可能性もある.ホルモン補充療法(HRT)は身体症状改善に有効だが,うつ病への効果は限定的であり,精神科と婦人科の連携が不可欠である.支援策として,心理療法(カウンセリング,ACT),リラクセーション技法,家族カウンセリングが有効とされる.医療職は,家族を単なる介護支援者と見なさず,ケア負担の軽減に配慮し,正しい医療情報提供と心理的支援を行うことが求められる.そのなかでも,医療専門職による支援の場が,ダブルケアラーに合った情報提供や当事者同士によるピアカウンセリングの場としても機能している.セルフケアや受診のための時間確保が物理的にも心理的にも難しい更年期女性の心身を包括的に支える体制構築が,ダブルケア問題の緩和に不可欠である.
https://doi.org/10.57369/pnj.26-083
受付日:2025年11月30日
受理日:2026年2月24日
はじめに
2016年の内閣府男女共同参画局の調査報告書17)によると,2012年の統計調査による推計で,日本におけるダブルケアラーは約25万人と報告されており,30~40歳代が約8割を占める(注:未就学児を「育児」対象に限定した定義に基づく推計).その後の毎日新聞の調べでは,2017年の同じ統計調査による推計で29万人と報道されている11).2023年には,晩婚化・晩産化により初産年齢の平均は31.0歳9)に達しており,親世代の高齢化と重なってケアの同時進行が構造的に生じやすい背景がある.
ダブルケアは,育児と介護の同時進行を指すが,親密な関係の中で行われるさまざまなケアの重なりを表し,特定の家族成員に負担がのしかかることで起こる.その背景には,職場と家庭におけるジェンダー役割不平等31)が存在しており,(i)性別役割分業,(ii)長時間労働・雇用制度・雇用慣行,(iii)ジェンダー役割ステレオタイプ・ジェンダー役割期待,(iv)管理職のジェンダー役割態度の矛盾,(v)妻の伝統主義的ジェンダー役割態度とジェンダー化されたアイデンティティがその維持にかかわっており31),ダブルケアは,特定の家族だけの問題ではなく,現代社会が生んだ課題である30).
本稿では,ダブルケアの根底にあるジェンダーギャップを社会学的な観点から述べ,ダブルケアを担う中心的な世代でもある更年期女性の特徴を概説し,とりわけダブルケアラーの精神的な負担を軽減する医療職のかかわりを提唱する.
I.ダブルケアと社会的課題
1.ダブルケアの定義と概念
ダブルケアとは,横浜国立大学の相馬直子氏と英国ブリストル大学の山下順子氏が提唱した概念である30).ダブルケアの定義として,狭義と広義があり,狭義は,「育児」と「介護」の同時進行を指す.広義は,家族や親族など,親密な関係のなかで行われる複数のケア関係を表す30).例えば,病気や障がいのあるパートナーのケアと育児,障がいをもつきょうだいのケアと親の介護,何らかの支援が必要な子どものケアときょうだい児の育児,などであり,3つ以上複数のケアを抱えていることもある.さらに,親が必ずしも同居しているとは限らない17)ため,遠距離ダブルケアラーも存在している.
2.ダブルケアの背景とジェンダーに関する課題
1)背景
日本は高齢化率29.3%(2024年)16)と世界有数の超高齢社会であり,65歳以上の者がいる世帯は全世帯の50.6%(2022年)16)と約半数に達する.最初の子どもを産む年齢が,半世紀前は25.7歳(1970年)だったのが,現在は31.0歳(2024年)9)と5歳以上も上昇している.介護に目を向けると,日本人の平均寿命は,男女とも半世紀ほど前に比べて10年ほど長くなっている.出産する年齢が遅くなり,介護を受ける側の高齢者の寿命も延び,育児と介護を同時に行う時期の重なりが生じる.
2)育児・介護期間の延伸と経済的負担
さらに注目すべき点は,子育て期間の延長である.文部科学省の学校基本調査(2024年度)によれば,18歳人口に対する高等教育機関への進学率(87.3%)は前年度より3.3ポイント上昇し,過去最高を記録している14).このように,進学率上昇は,学費など経済面での子育て期間の延伸による影響も考慮する必要がある.
生命保険文化センターの調査によると,介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は,住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用の合計が平均47.2万円,月々の費用が平均9.0万円となっており,介護費用を公的年金や個人の資産で賄う期待がもてないという回答が3分の1ほどに達する28)ことから,子世帯が介護費用を負担せざるを得ないことが推察される.「親の介護費用の負担のため,子どもの進学費用を奨学金などに頼らざるを得ない」という声からも,子育てと介護を担う世帯における経済的負担の大きさが伺える.
3)ダブルケアにおけるジェンダー役割不平等
(1)ダブルケアを担う世代
前述の内閣府男女共同参画局17)の調査によると,ダブルケア人口はおよそ25万人といわれ,内訳は女性が約17万人,男性が約8万人である.ダブルケアラーの平均年齢は男女とも40歳前後であるが,この調査では,ダブルケアを行う世帯を「未就学児」の育児中と設定しているため,ダブルケアにおける子育ての定義に高等教育機関に通う子どもまでを含めると,ボリュームゾーンが40歳代後半~50歳代に上がると推測される.まさに「更年期世代」である.
(2)ダブルケアラー女性と就労
ダブルケアを行う女性の48.6%が無業であり,そのうちの約6割が就業を希望しているのに対して,男性の無業者は2.0%しかおらず17),ダブルケアを行う男女の就業状況には大きな開きがある.この点には,性別役割分業のかかわりと,時間外労働が可能な人材を登用する就労環境(長時間労働・雇用制度・雇用慣行)が挙げられ,とりわけ,育児や介護といった家庭内ケア労働と仕事の両立を望む女性の就労希望を阻んでいる.男女間,そして正規雇用と非正規雇用間の賃金格差は,家庭での男女の性別役割分業を固定化し,ジェンダー差を継続させる要因となる31)ため,ダブルケアラー女性は特に非正規や就労継続困難に陥りやすい.ソニー生命の調査29)でも,ダブルケアを理由に離職した経験をもつ有職者の割合は10%であり,男性では8.4%,女性では11.6%である.育児・介護における家計不安を訴える人は49%にも上るが,家計を支えたくとも正職員雇用で働き続けるハードルが高いことが伺える.
(3)ダブルケアにおける家庭内ジェンダー役割不平等
ダブルケアを行う男性は,配偶者から「ほぼ毎日」手助けを得ている者が半数以上となっているのに対し,女性では4人に1人にとどまっており17),家庭内ケア労働におけるジェンダー格差が顕在化するのが特徴である.ここには,男女差を強調するジェンダー役割ステレオタイプ,それに基づくジェンダー役割期待が,ジェンダー役割の態度や価値観や意識の形成に影響し,職場と家庭における役割のジェンダー差を維持する規定因となる31)ことが推測される.「育児は母親がするもの」「介護は嫁の役割」といった主に親類縁者からの規範の押しつけもあるが,それらの規範に自らも沿うような女性自身の伝統主義的ジェンダー役割態度とジェンダー化されたアイデンティティがその維持にかかわる31)ことも考えられる.つまり,ダブルケアは,特定の家族成員にケア役割が集中するという特徴があり,周囲から求められる規範の押し付けなどにより多重ケアを担わざるを得ない者もいるため,介入が必要なケースもある.
また,管理職のジェンダー役割態度の矛盾31)の存在で,男性が家庭内ケア労働を担いたくとも定時退勤しにくい,家族のために休暇を取得しにくいなどという職場内の規範により,ジェンダー差の根本的解消を困難にしている.このことが,男性がダブルケアに参画することを阻む理由にもなっている.
4)誰のケアを優先するか(理想と現実の乖離)とヤングケアラー化
ダブルケアの経験者調査29)では,「子育てを優先したい」という希望が強い一方,現実には親の介護が優先される状況が示されている.その理由は,日本の文化的背景として,儒教や家父長制の影響が大きい38)と考える.また,地域による社会的資源へのアクセス差や,質・量双方の不足といった課題があり,ダブルケア世帯の状況に合わせた利用が困難である.質的研究27)でも,学校行事への参加困難,家庭内の役割崩壊,慢性疲労からの体調不良が家族全体に波及する過程が描写されている.この過程で,親が複数の家族のケアを担う,母親の就労などの理由で,一人あたりのケアにかける時間や労力の捻出が困難になると,親に代わって子どもが介護を担わざるを得ない状況に置かれることもある.例えば,ダブルケアラーの母親とヤングケアラーの娘という構図であり,母親は親の介護と娘の育児を行うダブルケアラーであるが,娘は祖母の介護を行うヤングケアラーになる30).ヤングケアラーとダブルケアラーは,ケアの世代間連鎖―複合的ケア世帯―のなかに位置づけて一緒に考える必要があるため30),精神科医は,更年期のダブルケアラー本人のみならず家族単位の機能を評価し,とりわけその子どもに注意を払う必要がある.
5)海外の“Sandwich Care”と日本のダブルケアの特徴
前述のとおりダブルケアは,2012年に相馬氏・山下氏により提唱された和製英語である.欧米では,「サンドイッチ世代(sandwich generation)」と呼ばれ,年長の家族と若い家族の両方を同時に世話する,主に中年層の米国人の呼称であり10),親世代と子世代の間に挟まれる世代として概念化されてきた.さらに欧米では,育児と親世代のケアが重なる状況を“sandwich care/sandwich carers”として把握する研究が蓄積している1)12)13)40)43).特に英国では,成人人口の約2%前後が該当し,年代では30~40歳代が中心との報告がある13).また,Age UKの推計1)では約125万人がsandwich careを担い,その約7割が女性であり,就労とケアの両立負荷が示されている.
日本と英国の共通点としては,中心となる世代や女性へのケアの偏在である.また,英国では,20時間/週を超えるケアが労働参加や健康に不利益を及ぼしやすい40)と示されているのに対し,日本の研究では,英国のように明確な負担閾値は提示されていない11).しかしながら,日本においても,家庭内ケアと健康に関する研究が蓄積されつつある32)ことから,今後,国際比較が可能となる研究が望まれる.
相違点として,日本では,保育・教育(文部科学省+厚生労働省)と介護(介護保険・厚生労働省)が制度上明確に縦割りであり,ダブルケア当事者への横断的支援が届きにくい構造がある18).他方,欧州諸国を「家族依存の強さ」で比較する際には,supported familialism/supported de-familialization/public de-familializationといった区分が用いられ,英国は学術的枠組みにおいて“supported de-familialization(支援付き脱家族化)”の要素を有する国として論じられている37).英国では,地方自治体を中心としたケア提供の仕組みが整備され,Care Act 2014によりケアラー支援が制度的に位置づけられており,一定の横断性と包括性が担保されている3).しかしながら,日本は,脱家族化政策が施行されているのと同時に,家族のケア役割とジェンダー別役割分担が持続しており,ダブルケアの負担減少にはつながっていない42).近隣の韓国でも,日本と同様の研究結果が得られている.韓国と英国・スウェーデンとの比較研究8)によると,韓国は依然として「家族をケア資源と見なす文化」(家族依存性)が根強く,介護者支援制度(経済的支援,仕事と介護の両立支援)は存在するが,利用要件が厳しく,文化的な「家族がまず担うべき」という規範が利用を阻害している.そのため,政策が整備されても,実際にはダブルケア負担を家族が抱えやすい構造が続いている.
以上より,日本のダブルケアは国際的に共有される課題(女性への負担集中・就労との両立困難・健康影響)を有しつつ,ジェンダー役割規範と制度設計の特性が複合して負担の集中・可視化の遅れを強めていることが示唆される.特に日本人女性は,母・妻・娘・嫁といった多重の役割を同時に担いがちで,地域活動や職場内の役割と重なり二重・三重の責務を受け止めざるを得ない構造がある.この構造的背景は,ケア責任から「逃げられない」というダブルケアラーの言葉に表れることがある.精神療法的介入の場では,役割の棚卸しと負担の可視化がかかわりの第一歩となる.
II.更年期女性の心理・身体症状と鑑別
更年期女性の身体的・精神的特徴,鑑別診断などは既知の事実が多いため,ここでは要点をまとめることとする.
平均的な閉経の年齢はおよそ50歳といわれており,閉経の前5年,後5年の計10年間を「更年期」という21).更年期に入ると卵巣機能が低下し,女性ホルモンである「エストロゲン」の分泌が急激に減少する.更年期に起こるさまざまな症状が日常生活に支障をきたす場合を「更年期障害」という21).更年期障害の症状は個人差が大きく,複数の症状が重なったり,日によって症状が異なったりするのが特徴である21).
エストロゲン欠乏に伴い出現する症状として,月経異常(希発月経,機能性出血),自律神経失調症状(血管運動神経症状,vasomotor symptoms:VMS)としてのぼせ(ホットフラッシュ)・発汗・めまい,性交障害や尿失禁などの泌尿生殖器の萎縮症状,肩こりや関節痛などの痛み19)があり,日常生活に影響を与え,QOLを下げる要因35)になりうる.
また,脂質異常症・心血管系疾患,骨粗鬆症が現れやすい.脂質異常症は動脈硬化から心血管疾患(cardio vascular disease:CVD)発生の可能性を高め死亡リスクを上げる33)35).骨粗鬆症による大腿骨頸部骨折は,寝たきりの原因にもなり,人生のQOLを下げ,生命予後にも影響を及ぼす33).
精神神経症状として,倦怠感,不眠,不安,抑うつ気分,記銘力低下などが出現する21)33)35).更年期は,活動性の衰退感,喪失体験の連鎖,限界感が生じやすいライフイベント期でもあり,精神・心理的な要因や社会・文化的な環境因子などが複合的に強く影響し,更年期女性には多様な精神症状が出現する可能性が高い.
更年期にうつ症状をきたした女性は,その多くが更年期障害を疑い,更年期外来を受診する33).更年期女性のうつ症状が,更年期障害の精神神経症状であると診断された場合,ホルモン補充療法(hormone replacement therapy:HRT),漢方療法,向精神薬による薬物療法,カウンセリングを含む心理療法などが行われる19).
鑑別として,甲状腺機能異常(亢進・低下),肝機能障害,貧血,メニエール病,薬剤誘発性頭痛,関節リウマチ,変形性関節症,椎間板ヘルニアなどの身体疾患を系統的に除外する34).精神神経症状の場合は,更年期障害なのか,DSM-5のうつ病診断基準を満たすものなのかにより判断され36),希死念慮の評価は常に優先される.
III.HRTと精神症状―連携のポイント―
HRTは,VMSに対してきわめて高い有用性が示され,うつ症状の軽減に資する場合がある一方,更年期のうつ病そのものへの効果にはコンセンサスが得られていない22).また,デンマークのコホート研究39)によると,50歳未満での全身投与のHRTの開始はうつ病リスクの上昇と関連し,局所投与の場合は54歳以上の女性におけるうつ病リスクの低下と関連しているという報告がある.しかしながら,HRTは,泌尿生殖器症状や骨粗鬆症予防などに有用性が高く,更年期女性のQOLを向上させる側面が大きいことから,婦人科との双方向連携で適応と禁忌(乳がんの既往,血栓リスクなどの評価は婦人科側が実施)23)を明確にし,精神科側は抑うつ・不安・不眠といった症状の治療計画を整合的に進める必要がある.精神科外来に更年期女性が受診した場合,「まずは婦人科へ」という案内が患者にとって心理的ハードルになる場合があるため,精神科外来から紹介・予約(同日に採血など)までをワンストップ化できると受診中断を防ぎやすいと考える.逆も然りで,婦人科から精神科へ紹介する際には,患者がかかりつけ医に見捨てられたという気持ちをもたぬように,婦人科医と精神科医が協力して心身両面を支えるという姿勢が重要24)である.妊娠期・産褥期も同様であるが,更年期というホルモンバランスが大きく変動する時期を精神科医と婦人科医の協働により心身両面から支えられることが,女性の人生のQOL向上にもつながるものと思われる.
IV.ダブルケアを行う更年期女性の健康支援
1.ダブルケアラーの抱く罪悪感や精神的負担とその対応
1)親や子どもの世話を十分にできない罪悪感
金井7)の文献検討によると,育児と介護の板挟みで,優先できなかったほうへ罪悪感を抱く.また,ダブルケアを行うなかで,親(被介護者)や子どもに対して罪悪感を抱き,そのなかでも,親(被介護者)への抑えられない怒りの言動が子どもの人格形成に及ぼす影響の危惧を示す結果が得られている.他にも,相馬・山下は,育児に十分時間が費やせないため,その余裕のなさが子どもに悪影響を与えていると懸念する親の声や,介護で環境が変わり,子どもが精神的に不安定で一時保育に預けられないなどの子どもへの影響を心配する声を報告している41).ダブルケアにおいては,前述29)のように,子どもを優先したいと考えているものの,現実は思うようにできず,子どもへの悪影響を懸念しているといえる.
2)ダブルケアラーの抱く精神的負担
ソニー生命の調査29)によると,ダブルケアで負担に感じていることの第1位は,「精神的にしんどい」であり,30歳代は39.5%,40歳代は46.1%,50歳代は54.8%と,とりわけ更年期世代のダブルケアラーが精神的な負担を抱えている.「一手に全部抱えたことで,涙が止まらなくなり自分が死んでも何とかなるのではといった,普通じゃ考えられない気持ちになってきた」という声41)に表われているように,精神的にもかなり逼迫した状況下におかれていることがわかる.また,精神的負担への対処方法がわからないという研究結果7)もあり,具体的には,ストレスのやり場がない,いつも気を張っていて自分自身を休める方法がわからないという困りごとがある.
3)育児を優先することの臨床的含意
全国データを用いた研究32)では,育児のみの女性は,育児も介護も行っていない女性より主観的健康観(self-rated health:SRH)の不良の可能性が低い一方,介護のみまたはダブルケアを行う女性ではSRHの低下がみられた.さらに,ダブルケアは介護のみと比較して相乗的な追加リスクは確認されなかったと報告されている.このことから,前述のソニー生命によるニーズ調査結果29)にあった「介護より育児を優先する」ことは,ダブルケアを担う女性の健康面でプラスになる可能性がある.そのため,面接で「育児を優先してよい」と許可を与えることは,罪悪感の緩和と自己効力の回復に寄与しうると考える.介護は,家庭外の社会資源で代替可能だが,子どもの発達課題は時期性が高く不可逆な局面があるという臨床的事実について,家族会議や家族のいる場で共通認識を図るとよいと思われる.
2.医療職によるダブルケアラー支援の実際と今後の展望
1)医療職によるダブルケアラー支援の意義
(1)正しい医療知識の提供
医療職は,医療を受けている(主に)被介護者の状況が瞬時に理解できるため,ダブルケアラーの要望や意見に的確に返答できる.例えば,精神疾患患者や在宅酸素療法中の患者などのケアを行うダブルケアラーに対しては,かかわった経験のある者しかわからない生活の大変さへの理解とともに気遣いができる.また,医療職がかかわることで,誤った知識を修正できるメリットもある.竹下ら37)は,在宅・医療ケアにおける倫理的問題として,間違った医療知識を信じ込んでいる家族の話に触れているが,患者家族の立場からすると,多忙な専門職への尋ね方がわからないという戸惑いがある.このことは,専門職の助言を受け入れず,不適切なかかわりを継続するなど,被介護者が不利益を被る可能性があるため,医療職がコミュニケーション技法を活用し,受け入れやすい形で正しい知識を提供することは,倫理的問題の解決の一助となる.
(2)ダブルケアラーである家族介護者への心理的支援
日本の中高年のメンタルヘルスについて分析した研究26)によると,他のどの要因よりも高齢者介護が精神的苦痛を引き起こす.それほど負担感が強いにもかかわらず,医療職が患者家族とかかわる場合,家族を患者の「支援者」としがちであり,ケアを担う役割を暗に押しつけている可能性がある.家族がその患者以外の者のケアも担っている可能性を念頭に,過剰な負担を強いてないかの確認が求められる.医療職は,家族との話題も患者に関することが多いと推察されるが,ケアを担う家族に対して配慮する言葉がけだけでも救われるという声もある.外来では,同席している家族にも目を向け,育児や介護負担に対する話を聞き,必要に応じて心理職のカウンセリングにつなぐ,更年期外来の受診を勧めるなど,適切な医療専門職への橋渡しをお願いしたい.
2)ダブルケアラーの抱く精神的負担への対応
(1)心理療法
ダブルケアラーの精神的負担の軽減にはカウンセリングが有効と思われる.ダブルケアラーは,自分自身を見つめ直す時間が確保しにくいが,カウンセリングを通して自己と向き合う時間が確保できる.更年期女性のカウンセリングの基本は,女性自身が自分の心身の変化に気づき,受けとめ,迷いながらも自分で安定できる力,決められる力をもてるように支援することである20).ダブルケアラーは,自分以外のケアに追われ,他者を優先する日常を送っており,自己犠牲を払い,育児よりも介護を優先するなど,内面化している規範や価値観の影響も大きい.認知行動療法(cognitive behavioral therapy:CBT)であるアクセプタンス&コミットメント・セラピー(acceptance and commitment therapy:ACT)は,現在,更年期症状や更年期女性に対するエビデンスが蓄積されつつある15)ため,有効であると考える.橋口・武藤の研究6)は集団療法であることから,療法の場自体がピアカウンセリングの場になる可能性もあり,ダブルケアをはじめとするケア責任を担う更年期女性を対象にした研究の蓄積が望まれる.
精神的負担への対処方法がわからない7)というダブルケアラーには,ストレスマネジメントとしてリラクセーション技法を取り入れ,症状緩和を図る20)のもよいと考える.
また,前述のように,ダブルケアは,特定の家族成員に負荷がかかるうえ,更年期障害の要因には家族関係が複雑に絡み合っていることもあるため,家族カウンセリングによる支援28)も検討されたい.
(2)当事者・支援者の資源の活用―DC NETWORK―
著者は,日本ではじめての医療専門職によるダブルケアラー支援団体DC NETWORK2)を2021年2月に立ち上げ,活動している.団体メンバーは20名強であり,保健師・助産師・看護師を中心に,薬剤師,臨床心理士・公認心理師,弁護士も所属し,社会福祉士や精神保健福祉士,介護支援専門員などの福祉系資格所持者も複数在籍している.また,個々の専門性を生かし,精神疾患・認知症・がんや慢性疾患を抱える家族をケアするダブルケアラーのためのチームや,ヤングケアラーチーム,男性ケアラーチーム,就労ダブルケアラーを支える産業保健チームがある.他にも,周産期や乳幼児,医療的ケア児をとりまくダブルケアラーの課題と向き合うチーム,広義のダブルケアラーを支援する地域チームがある.
活動の中心は,「ダブルケアカフェ」と呼ばれるダブルケア当事者の集まる場づくりであり,毎月第3金曜日夜にオンラインにて「DC Café」を開催している.被介護者の状況が似ているため,参加者同士が共感を得やすく,ピアカウンセリングの場としての機能もある.また,専門性の高いメンバーが運営しており,家族として医療職にかかわる際の難しさなどの相談に応じている.また,ニーズに応じて,ダブルケアラーのための更年期講座を開催するなど,知識の提供や行動変容を促す場にもなっている.
3)更年期ダブルケアラー女性への健康支援―受診行動の促進とストレスマネジメント―
ダブルケアを担う更年期女性は,自分のために時間やお金を使うことへの罪悪感から受診が遅れやすい.しかしながら,「疲労から体調不良が起こり,他の家族も体調が不安定になる」という研究結果27)もあることから,女性の健康維持は,「自分のため」だけではなく「家族のため」になる点を強調したい.そのため,外来では,「家族のための受診」というフレーミングで対応し,「あなた一人の責務ではない」と,ケアの分散を医療者が推奨し言語化する.前述のように,本人の時間の確保そのものを治療目標として掲げることが,抑うつ・不安の改善につながる可能性も高い.ただし,来院のための時間確保も難しいため,制度の範囲内でオンライン面接・処方の活用も検討する必要がある.
ストレスマネジメントとして,スマートフォンのアプリを利用したCBT4)5)も,セルフケアの時間確保が厳しいダブルケアラーには手軽でよいと考える.今後は,Okuyama, J. らが研究25)を進めている女性に特化したアプリでの検証を進め,ダブルケアラー女性への支援を拡充させたい.
おわりに
ダブルケアを担う更年期女性には,身体的・心理的・社会的側面からの支援が求められる.精神的支援を含めた症状の治療のみならず,身体的側面の支援として婦人科と連携し,社会的側面の支援として,産業保健や地域包括ケアシステム,当事者支援ネットワークなどとつなぎ,ケアを担う女性の罪悪感の軽減と受診アクセスの向上を図る.さらにケア役割の分散とダブルケアラー本人の回復力の両立をめざし,家族全体の健康をゴールに据えたかかわりを実装していく必要がある.
編 注:本特集は第121回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに奥山純子(尚絅学院大学総合人間科学系)を代表として企画された.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 本論考の一部は,JSPS科研費JP23K10164の助成を受けたものである.
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16) 内閣府: 令和7年版高齢社会白書 (概要版) 高齢化の状況. 2025 (https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/gaiyou/pdf/1s1s2s.pdf) (参照2025-11-18)
17) 内閣府男女共同参画局: 育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書. 2016 (https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/wcare_research.html) (参照2025-11-18)
18) 内閣府男女共同参画局: 令和6年版 男女共同参画白書. 2024
19) 日本女性医学学会編: 女性医学ガイドブック 更年期医療編2019年度版, 第2版. 金原出版, 東京, p.166-170, 2019
21) 日本女性医学学会: ホルモン補充療法の正しい理解をすすめるために. 2023 (https://www.jmwh.jp/n-hrt_book.html) (参照2025-11-18)
22) 日本産科婦人科学会, 日本女性医学学会編: ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版. 日本産科婦人科学会, 東京, p.27-28, 2017
23) 日本産婦人科医会: 更年期障害に対するホルモン補充療法 (HRT). 2025 (https://www.jaog.or.jp/note/%ef%bc%882%ef%bc%89%e6%9b%b4%e5%b9%b4%e6%9c%9f%e9%9a%9c%e5%ae%b3%e3%81%ab%e5%af%be%e3%81%99%e3%82%8b%e3%83%9b%e3%83%ab%e3%83%a2%e3%83%b3%e8%a3%9c%e5%85%85%e7%99%82%e6%b3%95%ef%bc%88hrt%ef%bc%89/) (参照2026-5-25)
24) 日本うつ病学会監, 気分障害の治療ガイドライン作成委員会編: うつ病治療ガイドライン, 第2版. 医学書院, 東京, p.1-38, 2017
25) Okuyama, J., Seto, S., Motokawa, T., et al.: Digital support for female students in physical education universities in Japan. Sci Rep, 15 (1); 16777, 2025![]()
26) Oshio, T.: The association between involvement in family caregiving and mental health among middle-aged adults in Japan. Soc Sci Med, 115; 121-129, 2014![]()
27) 佐藤美樹, 中山美由紀, 井上敦子: 思春期の子どもの子育てと老親介護のダブルケアをする家族の体験―ダブルケア当事者の語りを通して―. 家族看護学研究, 30; 87-98, 2025
28) 生命保険文化センター: 2024 (令和6) 年度「生命保険に関する全国実態調査」 (https://www.jili.or.jp/research/report/9849.html) (参照2025-11-18)
29) ソニー生命: ダブルケア (子育てと介護の同時進行) に関する調査2024 (https://www.sonylife.co.jp/company/news/2023/nr_240125.html#sec1) (参照2025-11-18)
30) 相馬直子: ダブルケアとは. 子育てと介護のダブルケア―事例からひもとく連携・支援の実際― (渡邉浩文, 森安みか, 室津 瞳ほか編). 中央法規出版, 東京, p.1-25, 2023
31) 鈴木淳子: ジェンダー役割不平等のメカニズム―職場と家庭―. 心理学評論, 60 (1); 62-80, 2017
32) Suzuki, Y., Honjo, K.: The association between informal caregiving and poor self-rated health among ever-married women in Japan: a nationally representative survey. J Epidemiol, 32 (4); 174-179, 2022![]()
33) 高松 潔, 小川真里子: 更年期の諸問題―更年期障害とその対応―. 予防医学, 58; 91-100, 2016
34) 高松 潔, 小川真里子: 更年期障害. 内分泌症候群, 第3版, III (別冊日本臨牀 領域別症候群シリーズ). 日本臨牀社, 東京, p.243-251, 2019
35) 高松 潔, 小川真里子: 女性更年期外来診療マニュアル―TDCメソッド―. 日本医事新報社, 東京, p.2-21, 2020
37) 竹下 啓, 長尾式子, 堂囿俊彦ほか: 在宅医療・ケアに携わる専門職が直面している倫理的問題と望まれる倫理支援. 臨床倫理, 11; 16-33, 2023
38) 寺田由紀子: ダブルケアラーの出産・乳幼期の子育ての課題と支援のポイント. 子育てと介護のダブルケア―事例からひもとく連携・支援の実際― (渡邉浩文, 森安みか, 室津 瞳ほか編著). 中央法規出版, 東京, p.194-199, 2023
39) Wium-Andersen, M. K., Jørgensen, T. S. H., Halvorsen, A. H., et al.: Association of hormone therapy with depression during menopause in a cohort of Danish women. JAMA Netw Open, 5 (11); e2239491, 2022![]()
40) Xue, B., Lacey, R. E., Di Gessa, G., et al.: Do mental and physical health trajectories change around transitions into sandwich care? Results from the UK household longitudinal study. Public Health, 239; 224-229, 2025![]()
41) 山下順子, 相馬直子: ダブルケアと構造的葛藤―なぜダブルケアは困難なのか―. 大原社会問題研究所雑誌, 737 (3); 1-16, 2020
42) 山下順子, 相馬直子: ケア責任への脱家族化政策の影響―ダブルケア調査からの一考察―. 日本労働研究雑誌, 769; 15-27, 2024
43) Yamashita, J., Soma, N.: More than the sum of multiple care: ambivalence in sandwich care. Br J Sociol, 76 (3); 635-644, 2025![]()




