統合失調症の病態には脳の炎症が関与するという見方がある.本研究は,精神科慢性期病棟に入院中の統合失調症患者98名の炎症マーカーの1つである血清アルブミン値を97名の健常対照群と比較するとともに,精神症状(CGI-SCHスケール),社会適応度(外出可能性)との関係を明らかにした.統合失調症患者群は対照群と比較して,血清総蛋白,アルブミン,A/G比が有意に低下していた(P<0.001,ANCOVA).両群とも加齢に従ってアルブミン値は低下するが,統合失調症患者では,対照群よりも早期からアルブミン値の低下がみられ,数十年以上「老化」が早発しているようにみえた.精神症状・社会適応度との関連をみると,血清アルブミン値は,陰性症状(rs=-0.224,P=0.027,Spearman)および認知症状(rs=-0.219,P=0.030,Spearman)と有意な負の相関を示し,アルブミン値が低いほど,これらの症状が強く現れる傾向があり,血清アルブミン値は統合失調症の中核症状と関連していた.さらに,社会適応度とも有意な負の相関が認められ,アルブミン値が低いほど適応状態が悪かった(rs=-0.486,P<0.001,Spearman).特に,血清アルブミン値が3.7 g/dL未満の患者35名は全員が単独外出できない状態であった(P=0.000,χ2).本研究の結果から,統合失調症慢性期患者において血清アルブミン値の低下が,病気の中核症状である陰性症状や認知症状,さらには社会適応度と密接に関連していることがわかった.このアルブミン低下は,神経炎症による炎症性サイトカインの働きにより,毛細血管からのアルブミン流出,合成低下,半減期短縮により生じると考えられた.フリーラジカルの作用も含めて,アルブミンの低下と統合失調症の中核症状,適応状態との関係を考察した.また,CRPなど他の炎症マーカーが急性増悪を反映する傾向があるのに対して,血清アルブミン値は,統合失調症の慢性進行性の病態との関係が深いと考えられた.慢性の統合失調症において血清アルブミン値が低くセットされる他の理由の探求が重要である.統合失調症患者の社会復帰を合理的に進めていくために,血清アルブミン値を参考にすることは有意義であると考えた.
2)新宿ゲートウェイクリニック
https://doi.org/10.57369/pnj.26-078
受付日:2025年10月18日
受理日:2026年3月3日
はじめに
統合失調症の病態を脳の炎症の観点から捉えようとする考え方がある.その際,炎症のマーカーとして,白血球の血液像のほかに,血清蛋白量やその組成を用いた研究が散発的に進められてきた.Goodman, M.ら8)は,1961年に統合失調症患者の血清アルブミン値が対照群と比較して有意に低下していることを報告した.当時,それと脳の炎症との関係は想定されなかったが,その後,1990年代から血清アルブミンは炎症に伴い変動する急性期蛋白(acute phase protein:APP)の1つであるとされ,統合失調症を炎症の視点から捉えた報告がみられるようになった.
われわれも精神科入院中の統合失調症患者の血清蛋白や白血球血液像に注目して,統合失調症患者の血清アルブミン/血清グロブリン比(A/G比)と知能指数(intelligence quotient:IQ)との関係13),症状悪化時の好中球/リンパ球比の上昇14),好中球/リンパ球比と入院期間の関係22),血液像と血清蛋白による統合失調症診断15)などについて報告してきた.
これら内外の統合失調症と炎症指標の研究は,主に急性期患者を対象に行われてきたこと,精神症状との関係を調べた報告は乏しいことから,今回われわれは,慢性期入院患者の血清蛋白について調査するとともに,アルブミン値と精神症状や適応状態との関係について検討した.その結果,血清アルブミン値は,慢性期患者で対照群より大きく低下しており,急性期患者よりも低いこと,認知機能,陰性症状などの統合失調症の中核症状や社会適応度との有意な関係が認められた.これらの症状や適応状態と血清アルブミン値が,炎症という動態のなかでどのようなメカニズムで結びつくのかを考察した.
アルブミンを中心とする血清蛋白質は,測定が容易で迅速に結果が得られ,統合失調症の病状評価や治療目標の設定,あるいは診断に関する有益な生物学的情報を提供するといえる.一方,実際の現場では,そのことが認知されておらず,ほとんど注目されていない.これらの現状もふまえて本報告を行った.
I.対象と方法および倫理的配慮
急性期病棟を除いた浦和神経サナトリウム(以下,当院)の慢性期病棟(201床)に入院中のICD-10で統合失調症(F2圏)と診断され,炎症性疾患などの身体疾患に罹患していない患者に研究の主旨,いつでも同意を撤回できることを説明し同意を求めた.書面で同意が得られた患者に対して,2024年7月の定期血液検査項目から,血清総蛋白,血清アルブミン,A/G比の結果を研究に用いたほか,発病年齢,入院期間などの病歴,使用薬剤(抗精神病薬総力価を含む),適応状態(1)単独外出がいつでもできる,2)制限付きで単独外出ができる,3)職員または家族と外出ができる,4)外出はできない),精神症状Clinical Global Impression-Schizophrenia Scale(CGI-SCH)などを医師が調査して研究項目に加えた.採血はすべて午前中に行った.
当院職員のうち夜勤も行っている健康な医師,看護職員で同意が得られた者について,2025年1月の健康診断時に血清蛋白を含めた血液検査を行い対照群とし,統合失調症群と比較検討した.職員に対しても文書で研究計画を説明し,拒否する権利を提示したが,採血者全員から応諾を得た.統計解析には,Microsoft ExcelおよびBellCurve for Excel(version 4.08)を用いた.統計解析用のデータセットには個人名は使用せず,研究用のIDのみを用いて解析し,個人名とIDとの照合表は別途厳重に保管した.本研究は,浦和神経サナトリウム研究倫理審査委員会の審査により承認された(受付番号2024-01).
II.結果
1.対象者の特徴
統合失調症群は男44名,女54名の計98名,対照群は男39名,女58名の計97名であり,両群は性別の割合では有意な差はなかった.平均年齢±標準偏差は,統合失調症群が59.1±14.7歳,対照群は48.4±13.8歳であり,統合失調症群のほうが男女とも対照群に比べて有意に平均年齢が高かった(P<0.01,t-test).統合失調症群の入院形態は任意入院が26名,医療保護入院が70名,措置入院が2名で,医療保護入院が71.4%を占めていた.学歴は高校卒業が54名で55.1%を占め,次いで中学卒業が28名(28.6%)であった.発病年齢の平均±標準偏差は26.9±12.4歳,罹病期間は32.2±14.3年,入院期間は8.7±9.9年であった.
2.血清蛋白量の比較
2群の血清蛋白の平均値±標準偏差について調べて表1に示した.後述するように,アルブミンは,年齢の影響を受けやすく,しかも2群の間に年齢差があることから,年齢を共変量とする共分散分析(Analysis of Covariance:ANCOVA)を行った.その結果,総蛋白,アルブミン,A/G比とも統合失調症群は対照群より有意に低下していた(P<0.001).男女で有意な差異はなかった.グロブリン量は,統合失調症群でやや高かった(P=0.0097).統合失調症群では,アルブミン量が少ないことが主要な特徴であり,さらにグロブリン量が若干増加し,その結果,総蛋白が減少し,A/G比が低下していた.これらの血清蛋白量が抗精神病薬の影響を受けていないかを調べるために,アルブミン量と抗精神病薬総力価とのPearsonの相関関係を調べたが,有意な相関関係は見出されなかった.また,統合失調症群の2024年7月のBody Mass Index(BMI)の平均±標準偏差は22.3±4.2,Cholinesterase(ChE)は279.8±62.9 U/Lと共に正常範囲にあった.
両群のアルブミン値の分布を図1に示したが,統合失調症群は対照群に対して分布が大きく低値の側にシフトしていた.統合失調症群のアルブミンの中央値は3.85 g/dL,対照群のそれは4.50 g/dLであった.
3.アルブミン値の加齢による変化
アルブミン値が年齢の影響を受けていないかを調べた.その結果,統合失調症群と対照群の両群で加齢とともに血清アルブミン値が低下していた.男女とも同じ傾向を示したが,男性の場合を図2に,女性の場合を図3に示した.統合失調症群では,対照群より早期からアルブミン値の低下がみられ数値が下方にシフトし,男女とも40歳未満の時にすでに対照群の60歳以上の値より平均値が低下しており,特に男性では低下の速度が顕著であった.アルブミン値を老化の指標としてみるならば,統合失調症群では対照群に比べて老化が数十年進行しているといえる.さらに,30歳未満の統合失調症患者は6名(男3名,女3名),対照群は10名(男5名,女5名)いたが,アルブミン値は対照群が4.8±0.3 g/dLであるのに対して,統合失調症群は4.1±0.4 g/dLと有意に少なく(P<0.01,t-test),アルブミン値の低下は平均的な発病年齢に近い30歳未満からすでに始まっていた.
4.血清蛋白と精神症状,適応状態との関係
統合失調症患者群のCGI-SCHの平均点と標準偏差を表2にまとめた.平均点は陽性症状が4.4と最も高く,陰性症状も4.1と高い.認知症状,抑うつ症状と続き,全体評価は5.1であった.
血清蛋白と精神症状や適応状態の関係について調べて表3に示した.アルブミン値と精神症状との関係が総蛋白やA/G比より明確であり,陰性症状,認知症状とアルブミン値との間に有意な負の相関関係がみられた.適応状態は,病院からの外出の程度を4段階に分け判定したが,総蛋白,アルブミン,A/G比の3種の検査値とP<0.01の有意な相関があり,蛋白量が少ないほど,適応状態が悪いことが示された.特にアルブミン値と適応状態とのSpearmanの順位相関係数は-0.486と比較的明確な負の相関関係が認められた(P<0.001).アルブミン量により3区分に分類して,外出の状態を図4にグラフ化した.その結果,アルブミン値が3.7 g/dL未満の患者は35名いたが,その全員が単独外出できておらず,付き添い外出のみ可能か外出不可であった(P=0.000,χ2検定).単独外出できる必要条件は,アルブミン値が3.7 g/dL以上であることであった.また,アルブミン値が3.7以上4.0 g/dL未満であると,図4のように,32名中7名(21.9%)は外出可能となり,4.0 g/dL以上だと,31名中16名(51.6%)が外出可能となっていた.このようにアルブミン値は外出の可能性で示される適応状態と明らかな関係性を有していた.以上のアルブミン3区分(低値群,中間群,高値群とする)の平均年齢を調べたところ,低値群と中間群,中間群と高値群の間の平均年齢に有意な差はなく,適応状態と年齢とのSpearmanの順位相関係数は-0.11.P=0.915と相関は認められず,適応状態(外出の可能性)は年齢の影響は少なく,アルブミン値と強い関係があることが明らかになった.
III.考察
1.従来の研究
上述したように,Goodmanら8)は1961年に40名の統合失調症患者と対照群を比較して,患者群の血清アルブミン値が有意に低下していることを示した.統合失調症患者では,一次的ないし二次的に代謝性の変化が起こるのだろうとした.一方,1971年に,Bock, E.ら2)は,16名の統合失調症の患者のアルブミン値を32名の健常者と比較し,アルブミン値は低下しておらず,アルブミンの低下は,低栄養,腎臓や肝臓の障害,感染症による不良な全身状態によるとした.彼らの取り上げた症例は,平均年齢が38歳と若く,初発が10名を占めていたため,血清アルブミン値の低下が少なかったのかもしれない.
一般的に血清アルブミン値は栄養障害の指標と捉えられがちだが,Evans, D. C.ら4)は,米国静脈経腸栄養学会(American Society for Parenteral and Enteral Nutrition:ASPEN)の公式見解として,血清アルブミン値は栄養状態の指標として適当ではなく,低値は炎症の存在を示すものだと警告している.
本研究の統合失調症群の2024年7月のBMIの平均値は,II.の結果で述べた通り,普通体重とされる範囲のほぼ中央であり,栄養状態を示すChEも正常範囲にあり,統合失調症群のアルブミン値の低下は栄養状態の低下によるものではないといえる.また,上述したように炎症性疾患などの身体疾患に罹患していない患者に限って調査の依頼を行っており,これらの身体疾患によるアルブミン値の低下によるものではない.
その後,Wong, C. T.ら24)は,1996年に98名の統合失調症患者のアルブミン値を41名の健常者と比較し,寛解期群と慢性期群では,有意にアルブミンが低下していたものの,15名(平均38.8歳)の急性期群では健常者と有意な差はなかったとした.また,これらの血清蛋白は炎症による急性期蛋白であり,Shintani, F.ら19)の報告を挙げ,炎症性サイトカインであるインターロイキン-6(IL-6)が急性期反応を引き起こし,急性期蛋白であるアルブミンが減少するという説明をした.
Zhai, D.ら28)は,14歳から24歳の初発エピソードの統合失調症患者においてアルブミン値を調べたところ,治療前にはアルブミン値は対照群と変わりなく,治療後から有意に低下したと2018年に報告した.これらの報告から,血清アルブミン値は統合失調症の発病前後から低下し始めると想像される.本研究では,30歳未満の患者でもすでにアルブミン値の低下が始まっていたが,臨床症状の発現時期との時間的関係の明確化が望まれる.
2.精神症状との関係について
われわれも統合失調症の認知機能や血清蛋白の研究を行ってきた.2016年に統合失調症患者のWechsler Adult Intelligence Scale-Third Edition(WAIS-III)の処理速度,視写などの認知機能が将来の社会適応度と関連することを報告した12).2017年には,男性の統合失調症において,A/G比と全検査IQとがr=0.42で有意な負のPearsonの相関関係がみられ(P<0.01),A/G比が低くなるほど知的能力が低下していることを報告した13).これらの知見および本研究の結果から,統合失調症においては,アルブミン値,認知機能,社会適応度の三者に有意な関係があると予測できた.
2019年にMaeda, S.ら16)は,70~80歳代の日本人高齢者のモントリオール認知評価スコアでみた認知機能とA/G比が有意に負の相関を示すことを報告し,慢性炎症が認知機能に影響を与えるとした.彼らは,炎症に伴うサイトカインによる免疫グロブリンの増加,サイトカインの認知機能への傷害などをA/G比低下の理由に挙げた.脳の炎症が関与する場合,統合失調症に限らず,認知機能と血清蛋白値とが関係するといえる.
入院3ヵ月未満の急性期患者を対象とした,われわれの先行研究15)と本研究を比較してみると,急性期患者群はアルブミンの平均値は4.2 g/dLであり,今回の健常対照群4.5 g/dL,慢性期群3.7 g/dLの中間にあたる.慢性,重症になるほど,アルブミン値は低下していることがわかる.急性期群ではほとんどの患者が3ヵ月以内に退院しているのに対して,慢性期群ではほぼ全例が長期入院であることを考えれば,外出だけでなく,退院の可能性もアルブミン値から予測できる可能性がある.
アルブミン値と精神症状との関連についての報告は少ない.Huang, T. L.9)は,台湾人の統合失調症の入院患者106名のアルブミン値が32名の対照群より低下していること,妄想や暴力との関係はないことを2002年に示した.Chen, S.ら3)は,中国の漢民族の統合失調症患者34名の血清アルブミン値が対照者に比べて有意に低下していることを2018年に報告したが(P=0.000),血清アルブミン値は,PANSSの抑うつスコアと負の相関があったとした(r=-0.37, P=0.03).2022年に同グループのYin, X. Y.ら27)は,統合失調症患者34名の総蛋白,アルブミン,グロブリンのいずれもが,健常群136名より有意に低く,やはりPANSSの抑うつ気分スコアと負の相関があると報告した.Kaya, S.ら11)は,2023年に犯罪歴とアルブミン値の関係を調べたところ,犯罪歴のある統合失調症患者では,アルブミン値が有意に低いとした.これらの報告があるものの,アルブミン値と精神症状との関係は一貫しておらず,認知機能や適応状態との関係についての報告もほとんどない.
本研究では,表3に示したように,患者のアルブミン値は,陰性症状,認知症状,適応状態と負の相関が認められた.これらの症状は,統合失調症の解体型ないし破瓜型の特徴を示すものであり,徐々に進行する不可逆的な病的過程の程度を示しているようにみえる.つまり,血清アルブミン値の低下は,統合失調症の中核症状との関連を示すと考えられた.
3.アルブミン値と中核症状,適応状態の関係
統合失調症においてアルブミン値の低下がどのように生じ,アルブミン値の低下と中核症状,社会適応度がどのように関連するのかを考察して図5に仮説を示した.
Gabay, C. とKushner, I.7)は,急性期蛋白に強い影響を与えるのは,感染,外傷,手術,やけどなどであり,軽度のものとして心理的ストレスを挙げた.統合失調症の素因のある場合,加わったストレスにより統合失調症における急性期反応が惹起されると考えられる.
Bloomfield, P. S.ら1)によれば,統合失調症患者では脳内の免疫細胞であるミクログリアの活性が上昇し,それは症状の重症度と関連するとし神経炎症が精神病の発現と関連することを示した.Monji, A.ら17)も統合失調症では,神経炎症によりミクログリアが活性化して,IL-6などのサイトカインを放出するとした.
その結果,Shintaniら19)が確認したように,統合失調症で炎症性サイトカインであるIL-6が増加する.IL-6は,CRPなどの急性期蛋白を変動させるが,急性期蛋白の1つであるアルブミンに対しても影響を与える.Soeters, P. B.ら20)によれば,身体疾患でアルブミンが低下するのは,炎症性サイトカインによって毛細血管の透過性が高まり,アルブミンが血管外の間質へ漏出すること5),肝臓での合成抑制,半減期の短縮と異化亢進の3つによるとしている.統合失調症でも同様の現象が生じてアルブミン値が低下すると考えられる.
一方,Murray, A. J.ら18)は,統合失調症の発病は,フリーラジカル(free radical)による酸化ストレスレベルの上昇と,それらに対抗する抗酸化防御の低下に影響されるとしている.Yao, J. K.ら25)によると,アルブミンは,抗酸化物質であり,酸化的な損傷に対して組織を保護している.Soriani, M.ら21),Chenら3)も同様のことを述べている.統合失調症患者において,IL-6の働きにより抗酸化物質であるアルブミンが減少するとフリーラジカルが活性化して,脳細胞への酸化的損傷のリスクが高まることになる.Yaoらは,酸化ストレスは老化プロセスに重要な役割を果たすとしたが,本研究の図2,図3で示したように統合失調症患者はアルブミン値からみると数十年老化が早期化していることと符号する.
糖尿病やリウマチなどの炎症がかかわる病態においては,フリーラジカルによる酸化ストレスがIL-6をはじめとする炎症性サイトカインの産生を誘導する.また,逆にIL-6は,血管内皮細胞などで,フリーラジカルなどの活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)の産生を誘導する.つまり,IL-6とフリーラジカルは負のサイクルを形成するとViezeliene, D.ら23)は述べている.また,Frossi, B.ら6)は,肥満細胞において,過酸化水素(ROSの一種)による酸化ストレスが,特定のシグナル回路を介してIL-6の産生を増強するとした.このように,フリーラジカルとIL-6は炎症の場において互いに増強し合っている.
Maedaら16)は,活性化サイトカインは,認知機能への傷害を与えるとするが,フリーラジカルも酸化ストレスにより脳細胞に傷害を与える.このようなメカニズムで,炎症性サイトカインやフリーラジカルは,統合失調症の中核症状の進展,適応状態の悪化とアルブミン値の低下の両者をもたらす.そのため,アルブミン値と精神症状,適応状態の間に相関関係がみられることになる.
4.他の炎症マーカーとの相違
われわれは,統合失調症における好中球/リンパ球比(neutrophil to lymphocyte ratio:NLR)についても注目してきた14)22).急性期患者において,入院当初に上昇していたNLRは,1ヵ月後には対照群と同等の値に回復していた22).炎症に伴い上昇したミクログリアの活性が抗精神病薬治療による鎮静化に伴い正常化し,IL-6が正常するためと考えられる.したがって,NLRは急性増悪にみられる陽性症状の程度を反映するが,対照的にアルブミン値は中核症状や陰性症状の程度を示していると考えられる.アルブミン値は陰性症状と同じように容易に回復せず,今現在起こっている炎症でなく,炎症の履歴や神経傷害の総和を示しているようにみえる.
Jacomb, I.ら10)は,急性期の統合失調症患者では,59.8%の患者でCRPが上昇していたのに対し,慢性の統合失調症患者では43%,対照群では20%に上昇がみられたとした.つまり,CRPもNLRと同様により急性期の炎症を反映する指標であると考えられる.CRP,NLRが急性期に,アルブミンが慢性期に特異的な理由は,それぞれの半減期の長短も関係していると考えられる.CRPの半減期は18~24時間,好中球は6~20時間と短く,それに対して,アルブミンは約3週間と長い.
他の炎症マーカーの1つであるS100カルシウム結合蛋白質B(S100B)は,Yelmo-Cruz, S.ら26)によれば,アストロサイトの活性化と脳機能障害のマーカーとして有用であるとし,統合失調症患者のS100B濃度が健常者より高いことは多くの研究で一致するとしている.ただし,S100B濃度と陽性または陰性の精神症状との相関関係は必ずしも一致していないとしている.S100Bの半減期は,30~90分と短く,より急性期の炎症を反映すると考えられる.これらから考えても,統合失調症の不可逆的かつ慢性の中核症状の進行程度の予測にはアルブミン値が適していると考えられる.
血清グロブリン値も統合失調症の病態を反映している.グロブリンの平均値は対照群の2.8 g/dLに対し,急性期群で2.7 g/dLに低下し15),今回の慢性期群で2.9 g/dLに増加していた.慢性関節リウマチなどの炎症性疾患では,炎症の持続とともにIgGを主とするグロブリン値が上昇していくが,統合失調症の場合も類似のメカニズムがあるのかもしれない.そのため,経過が長引くと,アルブミン値が低下しグロブリン値が上昇して,認知能力とA/G比に相関がみられるようになる13)16)と考えられる.
5.臨床への応用と課題
統合失調症の治療において,社会適応は急性精神症状の改善と同様に最も重要とされる目標である.しかし,社会適応に関連する生物学的マーカーは従来ほとんど示されていない.精神科病院では,急性期症状が寛解したのち,社会適応をすすめるための一段階として,病院からの外出をすすめることがある.しかし,ある患者に同伴なしの外出許可を与える場合,主治医の見立て以外に判断する材料は乏しい.
本研究では,図4に示したように,外出の必要条件はアルブミン値が3.7 g/dL以上であることであった.もちろん,病院の治療方針や外部環境に左右されることは言うまでもないが,社会復帰を進めるうえでの1つの目安となるであろう.一般に単独外出の許可は,社会心理学的に判断されるが,治療者の認識が及ばないだけで,実は生物学的に規定されているともいえる.もし,このような生物学的要因を無視して判断すれば,患者に不利益を与えることになろう.
本研究の限界として以下の問題点が挙げられる.アルブミン値が低下しない事例もあり,その差異の理由を解明する必要がある.炎症時にアルブミンとグロブリンは異なる変動をするが,サイトカインの働きを含めてその詳細がわかっていない.さらにアルブミン値と中核症状や社会適応が関連するとしたが,中核症状の進行しない双極性障害やパーソナリティ障害,あるいは社会適応が主な問題であるひきこもりでのアルブミン値は未知である.
また,本研究の対象者のアルブミン値は抗精神病薬の治療によっても回復していない.それは,軽度の炎症状態が持続している可能性もあるが詳細は不明である.さらに,アルブミンを輸液などで正常化させれば,フリーラジカルが減り,病状が回復するかであるが,一般的に身体疾患でアルブミン製剤を輸液しても病態が継続する場合,アルブミン値が維持されないことが多く,統合失調症患者においても同様の可能性が高い.むしろ,近年IL-6を抑制するIL-6阻害薬が製造されており,これらが統合失調症に有効であるか興味深い.
炎症の持続により進行してしまった中核症状に伴い,アルブミン値は低めの平衡状態にセットされているようにみえるが,これは,図5で示した3つのアルブミン低下の理由だけでは説明するのは困難である.アルブミン値が長期に低くセットされる他の理由が,統合失調症の病態の本質と関係している可能性が高く,その探求の意義は大きいと思われる.
おわりに
本論では,統合失調症患者の主に血清アルブミン値を調べ,健常対照者に比べて低下していること,認知機能や陰性症状などの統合失調症の中核症状と関係が深いこと,特に適応状態と相関しており,症状評価や治療に有効な情報を与えることを示した.近年,精神科医療においても科学的根拠に基づいた治療戦略が求められている.一般の精神科医療機関で臨床マーカーとして利用されることを期待する.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 本研究にご協力いただいた患者様,職員の皆様に感謝申し上げます.
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