Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第128巻第6号

特集 日常診療でゲーム・ネット依存に対応するために
香川県におけるネット・ゲーム依存症治療―「i Swing」を用いた地域モデル―
海野 順
医療法人社団光風会三光病院
精神神経学雑誌 128: 438-445, 2026
https://doi.org/10.57369/pnj.26-071
受付日:2024年12月21日
受理日:2025年12月5日

 近年,子どもたちを中心としたネット・ゲームの依存的使用が新しい社会問題として認識されるようになった.三光病院では,2017年に子どもたちのネット・ゲーム依存症を治療する専門外来を開設し,「S-NIP」と称する治療プログラムを行ってきた.2019年には,ICD-11に「ゲーム行動症」が収載され,2020年4月には,全国に先駆けて「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」が施行された.香川県ではこの条例に基づき,予防啓発,早期介入,連携ツールの開発,オフラインキャンプなどが実施され,医療・行政・教育・子育てにかかわる機関が協働的に行う全県的な取り組みとして,広く注目を集めている.条例施行前後において,ネット・ゲーム使用に関するルールを有する家庭は増加したものの,依存傾向を示す子どもたちもまた増加している.予防啓発のみならず,依存問題をもつ子どもたちに早期介入できる仕組みが必要である.香川県から委託を受けた三光病院は,回復プログラム「i Swing」を作成し,早期介入および連携ツールとして県内の関係機関に広く配布した.「i Swing」は,当事者向けの「i Swing変わるキミへ!」,支援者向けの「i Swingサポーターガイド」,低学年向けの「i Swing Lite」,オフラインキャンプで使用する「i Swing for OFFLINE CAMP」の4冊で構成される.初期介入を行えるツールが手元にあることは,依存症を専門としない支援者にとって有用で,介入の遅れから随伴しうる問題の深刻化を避けることが期待される.また,2021年から開催されているオフラインキャンプでは,子どもたちに精神的健康度の向上,ネット依存度の改善,ネット・ゲーム使用時間の短縮が認められた.しかし,毎年20名程度の子どもたちしか参加することができず,十分とはいえない.子どもたちへの支援がさらに広く行えるような体制づくりが求められる.

索引用語:ネット・ゲーム依存症, ゲーム行動症, オフラインキャンプ, i Swing, 認知行動療法>

はじめに
 ネット・ゲーム依存症は,子どもたちを中心に深刻化する新しい社会問題である.2019年には,ゲーム行動症(gaming disorder)が「国際疾病分類第11回改訂版(ICD-11)」に収載され,国内においても2020年4月には「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」(以下,ゲーム条例)が施行されるなど,その対策が急務となっている.本稿では,三光病院(以下,当院)が中核的な役割を担いながら香川県内で展開している包括的アプローチ,特に回復プログラム「i Swing」を活用した多角的な取り組みについて述べる.

Ⅰ.当院における集団プログラム
 香川県依存症治療拠点機関である当院では,2017年度より土曜午前にネット・ゲーム依存症の専門外来「こども外来」を設け,Sanko-New Identity Program(S-NIP)という集団プログラムを行っている.本人が強く望んで受診するケースは例外的で,周囲から問題視された本人が仕方なく訪れることが少なくない.そこでS-NIPは,必ず保護者も一緒に参加してもらい,親子間にみられがちな衝突や 葛藤を和らげるため,まずは朝食づくりやボードゲームなどを行うレクリエーションを行う.続いて,親子はそれぞれ別室に移動し,子どもたちはグループワークと交流会,保護者は家族教室と家族会に参加することとなる.

1.グループワーク・交流会
 アルコール依存症の場合,どれだけ多様なアルコール飲料があっても,依存物質はエタノールで共通している.しかし,ネット・ゲーム依存症において,当事者が嗜癖形成した使用パターンは千差万別である.当院では,背景にみられる個人要因,環境要因に加えて,ネット・ゲーム要因を検討し,多職種による治療チームでアセスメントを行っている.
 個人要因として,併存する身体疾患や精神疾患,発達特性などを認めた場合,治療的介入を行う.当然ながら,診断閾値以下の困りごとの相談にも応じる.家庭や学校などにおいて調整すべき環境要因が明らかになれば,保護者や学校側と対応を検討する.これらは依存症治療以外でも実施する,いわば「通常の支援」である.特徴的な点は,グループワークを通してネット・ゲーム要因を特定していく介入が,その後のアプローチを充実させるうえで役に立つということである.そこで,S-NIPにおいてネット・ゲーム要因を特定する介入の実際を,以下に詳述する.
 まずは子どもたちからネット・ゲーム使用に対して正の強化が得られた状況を聴取し,その嗜癖性の理解を試みる.それは,夢中になってきたゲームの内容などについて,これまでどのような魅力を感じて続けてきたのか語ってもらう,きわめてポジティブなやりとりである.そのためには治療者側においても,ネット・ゲームに関する最低限の知識は不可欠となる.アルコール依存症治療において治療者が「水割り」「飲み放題」といった言葉を知らなければ,診察室での会話が成り立たないだろう.子どもたちが発するネット・ゲーム用語のすべてを理解できなくとも,発言を遮るばかりにならない程度の聞き返しによって,会話がスムーズに成立するようにしておきたい.ネット・ゲーム要因として,「ログボ」「ガチャ」「イベント」「バトルパス」「ミッション」「ランキング維持」「無料アップデート」などといった用語が挙げられることは多い.子どもたち自身が大好きなネット・ゲームのコンテンツについて,ワクワクしながら聞いてくれる大人と出会えた「感激」を伴えば,リアルワールドに居場所を失いがちな当事者にとって,それだけでもよろこばしいことかもしれない.しかし,われわれ医療者は,単なる居場所機能を提供することだけが役割ではない.
 ネット・ゲームの長時間使用によって生じた生活上の問題について,自然と話題にできるようになるまでは,われわれは共同的な関係を築くことに徹すべきである.決して治療者側のタイミングで,一方的に助言や生活指導をしたり,解決策について情報提供を行ったりしない.積極的傾聴を続けることによって,自発的な動機で自身がおかれた望ましくない状況についての思いを子どもたちが呟きはじめたら,徐々に変化する方向性に焦点を当てていくことができる.現実回避的になりながら,ネット・ゲーム中心の生活を維持しようともしてきた両価的な部分に触れ,それらの思いや考えを整理することに随行する.そして,前向きな一歩を踏み出そうとする動機が育まれた時期に,どのようにネット・ゲーム使用を見直していけばよいか,具体的なアイデアを共に探索する.
 このとき,子どもたちに自分の言葉で「不適切な使用パターン」を定義してもらうのだが,ネット・ゲーム要因を特定しようとしてきたプロセスが,この段階で役に立つのである.例えば,「寝つきにくいときにショート動画を見始めると,余計に目が覚めて昼夜逆転した」「このゲームでサブ垢を作ってプレイすると,沼にハマる」「2つのゲームでどちらもランカーを維持しないといけないと思ってしまうから,イベントが重なるときには徹夜して体がつらい」「反応が面白くてSNS荒らしを始めると,やっているときは熱中しているから良いが,後で自分がしたことでいやな気分になる.そしてまた荒らしをやってしまった」といった具合である.自分が定義した「不適切な使用パターン」に陥らないネット・ゲーム使用の実現を治療目標とすることに対して,大きな抵抗を示す当事者はいない.認知行動療法をもとに,そのようないわば強迫的な使用パターンを起こすトリガーを特定し,依存症的思考や行動の把握を行い,決めた目標を達成できるようにフォローを行う.
 毎回のグループワーク後には交流会の時間を設けている.グループワークでは,特に参加経験が浅い時期の子どもが,治療者からの問いかけに対して,まるで模範解答のように大人が期待しているだろう返答に終始することがある.そんな子どもたちも,より自由な雰囲気の交流会では,卓球をしたりピアノを弾いたりしながらグループワークで扱ったテーマについて先ほどとは異なった正直な意見や経験を教えてくれることがある.
 このように,S-NIPは単なる集団認知行動療法ではない.安心して楽しめる空間の提供に始まり,動機づけ面接の実践によって変化への動機を高め,そして「不適切な使用パターン」をもとに行う目標設定は,チェンジトークを強めるプロセスに相当する.そして,その上に欲求や離脱症状に対するコーピング戦略を身につけるために認知行動療法を組み合わせて構成し,家族プログラムを並行して実施する複合モデルである.既存の研究によるエビデンスの蓄積は十分でないものの,認知行動療法や家族治療の有効性は指摘されている1)4)6)10)
 2020年4月から2021年3月までにS-NIPに参加した36例について,週あたりのネット・ゲーム時間は,初診時に平均67.4時間であったのに対して,約3ヵ月にわたる8回のセッション後に平均42.4時間に減少し,初期介入に一定の効果を認めた.なお,長期継続例については進学や転校,アルバイトの開始など生活環境に変化がある場合もない場合もある.生活環境の変化があり,それに適応できたケースではネット・ゲーム時間の減少が維持されていた.一方,そのような変化がなかったり,適応できなかったりしたケースでは,ネット・ゲーム時間の減少は必ずしも続かなかったが,「小遣い以上の課金」「暴言・暴力」「自室への引きこもり」「朝起きられない」「学校の半分以上の欠席」「不規則な食事」「学習意欲の著しい低下」といったゲーム関連症状の低減がみられた9).ネット・ゲーム時間は減らずとも,日常生活に適応的なネット・ゲーム使用ができれば,その時期における当事者にとって望ましい変化であるといえよう.膠着しがちな生活を変化させうるタイミングの訪れを,実際に一歩を踏み出せる準備が整った状態で迎えられるように,支援し続けることが重要である.

2.家族教室・家族会
 家族は,当院への受診に至るまでの間に,さまざまな心労を重ねていることが多い.そのような思いを十分に受け止めるための場の提供は不可欠である.
 家族教室では,依存症の理解を深めるための学習を行い,効果的な対応法について話し合う.良かれと思って行ってきた言動が,ポジティブなコミュニケーションを生むどころか,家庭内での衝突を引き起こすことは少なくない.親子の日常のやりとりを振り返るために,ストラテジーシート(図1)を用いて整理を行う.家庭内不和を引き起こしているケースでは,家族関係を好転させることがネット・ゲーム依存の問題の解決よりも優先されることが多い.
 家族会では,治療者は同席して場を見守る程度のかかわりにとどめ,運営自体を家族に任せている.似た苦労を重ねてきた家族同士だからこそ,治療者からの提案よりも他の家族から聞く助言のほうが,耳を傾けやすくスムーズに理解できることも多い.

図1画像拡大

Ⅱ.ゲーム条例とその施策
 香川県では,かねてより子どもたちの糖尿病リスクや脂質異常など,生活習慣病予備軍の多さが問題視されてきた.運動不足につながりやすいネット・ゲームの長時間使用は,特に注目を集め,2019年5~6月に実施された時事通信社と四国新聞社による合同世論調査において,「ゲーム依存対策が必要」と考える県内成人が84.1%に上ることが明らかとなった.このような世論の高まりを背景に,2020年4月,全国に先駆けてゲーム条例が施行された.その基本理念では,対策として「県,市町,学校等,保護者,ネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等が相互に連携を図りながら協力して社会全体で取り組むこと」(第3条)が明示された.つまり,このような新しい社会問題には既存の関連する支援者たちの連携なくして対峙できないため,地域ぐるみで包括的に取り組む方針が示されたのである.また,同時に家庭におけるルール作りが推奨された(第18条)ことは特徴的な点である.
 2020年度には,スクリーニングテストやルール作りについて掲載した啓発リーフレットが県内の全戸に配布された.それ以降,小学校および中学校で年1回,県教育委員会が作成した「ネット・ゲーム依存予防対策学習シート」を用いた授業が行われており,現在も続いている.このシートは,子どもたち自身がネット・ゲーム使用を振り返り,メリットとデメリットの整理を通して自分のルールを考えるという構成であり,自律性を尊重する工夫がみられる.こうした努力のもと,ネット・ゲームに関するルール設定を家庭内に有する児童生徒の割合は,2017年から2021年にかけて,小学4~6年生で87.3%から91.7%に,中学生で75.5%から80.6%に増加した2)
 また,条例に基づく事業として,当院が県の委託などを受けて実施した回復プログラムの作成,オフラインキャンプの実施,オンラインスペースの運営,ネット・ゲーム依存症家族会について,それぞれ次節以降で述べる.

Ⅲ.回復プログラム「i Swing」
 当院では,県委託事業として2020年度に「i Swing変わるキミへ!」「i Swingサポーターガイド」,2023年度に「i Swing Lite」,2024年度に「i Swing for OFFLINE CAMP」を作成した(図2).これらは当院がS-NIPで実施してきたグループワークの内容を,県内の関係機関の連携ツールとして活用することを目的に,依存症支援の専門家でなくとも使用しやすいよう再構成したものである.そこで,「inter-community version of S-NIP workbook for internet & gaming addiction」の頭文字から「i Swing」と名付けた.
 依存症支援の最大の問題点は,支援を必要とする当事者が早期に支援に結びつきにくいことである.状況がより悪化してから専門医療機関に辿り着くという事態を避けるため,すでに信頼関係がある身近な人がサポーターとなり,早期に支援を開始できるような体制を構築すべきである.「i Swing変わるキミへ!」と「i Swingサポーターガイド」は,県内すべての小中高校,小児科・精神科・児童精神科を標榜する医療機関,行政の相談窓口,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカーなど,およそ1,000ヵ所に配布された.それまで専門的な介入ツールが手元になかった支援者にとって,子どもと一緒にこの冊子を開いて読み進めていけば,すぐに支援を開始することができる.また,当院におけるプログラムを事前に体験でき,受診する際の心理的ハードルを低減させることにも役立つ.

1.「i Swing変わるキミへ!」
 「i Swing変わるキミへ!」はS-NIPのグループワークで使用している冊子であり,当事者向けプログラムである.全14回で構成され,おおむね小学5年生以上を対象とする.順番通りに実施することを標準とするが,治療動機が低いケースでの使用法である,重要な項目を5回で実施するショートバージョンも提案している.第1章は依存症の心理教育,第2章はネット・ゲーム使用を振り返る内容,第3章は適切な使用方法を考えて日常生活での実践とモニタリングを行う内容である.前述したように,変化への動機を高めながら「不適切な使用パターン」を特定し,スモールステップの目標づくりを行い,それを実践していくという流れが特徴である.学校では全児童生徒にスクリーニングテストを実施した後,該当者だけに個別で活用したり,また学年全体でショートバージョンを実施したりする事例がある.

2.「i Swingサポーターガイド」
 「i Swingサポーターガイド」はS-NIPの家族教室で使用している冊子である.当事者である子どもたちを取り巻くすべての大人を「サポーター」と考え,第1章はネット・ゲーム依存症の基本的な説明,第2章は行動変容ステージモデルや動機づけ面接など,当事者との効果的なかかわり方,第3章は地域連携やサポーター支援についてまとめている.巻末にはネット・ゲーム依存症関連用語集を収載し,この領域に馴染みがないサポーターでも子どもたちのカルチャーが理解できるよう配慮した.県内の各学校には1部ずつ配布されたが,さらにこの冊子の内容を再編集し,学校現場での対応例などを追加した「学校現場におけるネット・ゲーム依存予防対策マニュアル」が香川県教育委員会によって作成され,県内の学校教員すべてに配布された.

3.「i Swing Lite」
 「i Swing Lite」は小学校低学年あるいは知的な遅れから「i Swing変わるキミへ!」の使用が難しい子どもを対象にした全5回からなる冊子である.特にそのような子どもの場合,依存症状態に至っていなくとも,さまざまなネットトラブルに関連して受診するケースが多いため,基本的なネットリテラシーについても扱っている.

4.「i Swing for OFFLINE CAMP」
 「i Swing for OFFLINE CAMP」はオフラインキャンプ中に行う心理プログラムで使用する冊子である.オフラインキャンプには自発的な参加意欲をもつ子どもが多く,そもそも介入への抵抗は少ない.全5回の短期間のうちに発表会の準備までを行う構成である.毎日の活動終了後に,他の参加者との交流を内観3項目に沿って振り返り,これからの自分のあり方を考えてもらうため,「スマイルレビュー」という記録内観のページを設けている.

図2画像拡大

Ⅳ.オフラインキャンプ
 2021年度には「S-NIP OFFLINE CAMP」を初開催したが,コロナ禍のために,3日間連続のデイキャンプとして,宿泊を伴わない形式に縮小せざるを得なかった.宿泊を伴う本来のオフラインキャンプの開催は,翌年度以降となった.香川県内にある五色台少年自然センターおよび周辺会場において,2022年度は4泊5日,2023年度は5泊6日,2024年度は6泊7日で,夏休み期間中の8月に開催した.ネット・ゲーム使用を見直したい県内の小学5年生から18歳までの青少年を対象とし,メインキャンプの他に,1ヵ月前には選考会を兼ねたオリエンテーション,3ヵ月後には1日間のフォローアップキャンプを行った.
 およそ20名の参加者は4名1チームに分かれ,大学生メンター2名が各チームに配置されて伴走する.天体観測やキャンプファイヤーなどの自然体験活動,うどん作りやバーベキューなどの調理活動,そして毎日1時間の心理プログラムに参加する.メインキャンプの初日と最終日は,保護者に対して「i Swingサポーターガイド」を用いた家族プログラムを実施する.そして最終日には,キャンプ中に感じたことや今後の生活における目標を,保護者を含めた参加者全員の前で発表する.
 キャンプ参加者を対象に,抑うつ(Depression Self-Rating Scale for Children:DSRS-C),自己効力感(特性的自己効力感尺度),精神的健康度(General Health Questionnaire 12:GHQ12),ネット依存度(Diagnostic Questionnaire:DQ日本語版),ネット・ゲームの使用時間について,オリエンテーション時(プレ)をベースラインとして,メインキャンプ終了時(ポスト),3ヵ月後のフォローアップキャンプ時(フォロー)における各指標を比較し,Wilcoxonの符号付順位和検定を行った.2022年度には,プレ—ポスト間での精神的健康度の向上(P=0.001),プレ-フォロー間でのネット依存度の改善(P=0.030),ネット・ゲームの使用時間の短縮(P=0.013)に有意差を認めた.また,有意差は出なかったが,プレ-ポスト間での抑うつは減少し,自己効力感は上昇した7).個別の変化を検討したところ,チームごとに競う得点競技のプログラムを複数実施していたが,思うように良い成績を残せなかったチームのメンバーが不全感を募らせやすかったこと,普段から運動不足の子どもにとって身体的疲労が蓄積しやすかったことが推察された.そのため,2023年度には競争を促すプログラムは廃止し,プログラム全体にゆとりをもたせたことで,前年度と同じ指標での効果に加え,プレ-ポスト間での自己効力感の上昇(P=0.008)にも有意差を認めた8)
 国内の他機関が開催する同様のオフラインキャンプにおいても,参加後には自己効力感の改善がみられ,キャンプで得られた回復への動機を維持しながら,継続的なかかわりにつなげていくことへの期待が報告されている3)
 人が変化を起こす際には,1)現在の生活状況における問題を把握し,このままではいけないと思うことができる「準備」,2)変化させることの必要性に気づいた後に,自分が変わらなければいけないと思える「意志」,3)変化するための方法を見つけ,うまくやれそうだと思える「自信」が備わっている必要がある.これらは,動機の3要素である5).オフラインキャンプでは,その期間中にさまざまな活動に挑戦を重ね,やればできるという成功体験を多くもつことができる.今後の自分の生活においても,がんばって動き始めたらきっとうまくいくだろうという感覚をもちやすく,日常診療と比べて,特に「自信」を育むためには効果的な機会であろう.
 今後,このような取り組みが広がっていくことが望ましいものの,「S-NIP OFFLINE CAMP」は毎年20名程度の子どもたちしか対象とすることができない.そこで,2024年度に作成した「i Swing for OFFLINE CAMP」の冊子を活用して,例えば学校などが行う宿泊学習など非日常体験が得られる別の機会に,心理プログラム部分のみを提供することでの有効性について検討を始めている.効果的なオフラインキャンプを拡張していくために,今後の重要な研究課題の1つである.

Ⅴ.その他の主な取り組み
 2023年度より公共施設の会議室において,ネット・ゲーム依存症家族会および動機づけ面接勉強会を毎月開催している.これは,当事者の治療動機が低く医療機関につながらないケースなどで,保護者だけが参加して家庭での対応を相談できる場として設置した.スクールカウンセラーなどの支援者,さらにはすでに当事者が回復して大学などに進学した後も参加し続けてくれる「先行く家族」も同席し,自助グループのような相互作用が生まれている.また,2024年度からはDiscordを使用したオンラインスペース「こもりさんの秘密基地」の運営を始めた.ひきこもり経験のある当事者が,「ひきこもっていたときに,こんな場所があったらよかった」と振り返ったことがきっかけであり,当時の思いを込めて命名してくれた.通院継続したくても対人疲労が強く,自宅にいながら支援につながり続けたいというニーズに応じたもので,治療チームの職員1名が参加して月2回ペースで開催している.

おわりに
 ネット・ゲーム依存症に対する有効な治療法は確立されていない.しかし,子どもたちを中心とした多くの人やその家族が,ネット・ゲームへの耽溺によって生じるさまざまな問題に悩んでいるのも事実である.現時点において,われわれは他の依存症治療における経験をふまえ,有効と考えられる手法を組み合わせた複合モデルで対応していかざるを得ない.今後,この分野における予防や治療に関する研究が進み,各療法の介入効果やそれに適した患者像について整理されていくことで,子どもたちの健康増進に寄与されることが大いに望まれる.

 編  注:本特集は第120回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに館農 勝(特定医療法人さっぽろ悠心の郷ときわ病院)を代表として企画された

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) 樋口 進: ゲーム行動症の治療. 医学のあゆみ, 283 (6); 649-653, 2022

2) 香川県教育委員会: スマートフォン等の利用に関する調査について 令和4年9・10月実施 報告書. 2023 (https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/15443/r4sumaho.pdf) (参照2025-04-22)

3) 松﨑尊信: インターネット/ゲーム依存者に対する治療キャンプの効果について. 青少年教育施設を活用したネット依存対策推進事業報告書. p.5-6, 2023 (https://koueki.net/user/niye/110373511-1.pdf) (参照2025-04-22)

4) 三原聡子: ゲーム障害の認知行動療法. 医学のあゆみ, 271 (6); 591-595, 2019

5) Miller, W. R., Rollnick, S.: Motivational Interviewing: Preparing People for Change, second edition. Guilford Press, New York, p.10-11, 2002

6) Nakayama, H., Mihara, S., Higuchi, S.: Treatment and risk factor of Internet use disorders. Psychiatry Clin Neurosci, 71 (7); 492-505, 2017
Medline

7) 三光病院: 令和4年度 香川県委託事業「ネット・ゲーム依存の回復に係るオフラインキャンプ等の有効性の検証業務」報告書. 2023 (https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/54361/r4report.pdf) (参照2025-04-22)

8) 三光病院: 令和5年度 香川県委託事業「ネット・ゲーム依存の回復に係る効果的なプログラムの実施業務 (オフラインキャンプ)」報告書. 2024 (https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/54361/houkoku.pdf) (参照2025-04-22)

9) 海野 順: 三光病院におけるネット・ゲーム依存症に対する取り組み. 日本精神科病院協会雑誌, 41 (7); 621-627, 2022

10) Young, K. S.: Treatment outcomes using CBT-IA with Internet-addicted patients. J Behav Addict, 2 (4); 209-215, 2013
Medline

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