脊髄小脳変性症は,脊髄や小脳を中心とする多くの変性疾患の総称である.そのなかには非常に多数の遺伝性疾患が含まれており,その病態は十分に解明されていない.近年,小脳の非運動性機能が注目されると同時に,海外では脊髄小脳変性症に併発する精神症状の報告が散見されるようになったが,国内ではいまだに脊髄小脳変性症の治療ガイドラインにも十分な記載がないのが現状である.今回,脊髄小脳変性症と診断された数年後に情緒不安定,易怒性,衝動性亢進が出現し,臨床所見,神経心理学的検査などから,前頭葉機能低下が認められ,器質性パーソナリティ障害の併存と診断された症例を経験したので報告する.本報告は,さまざまな精神症状の発現に関連した小脳依存性病態生理の重要性について,新たな視点を提供すると期待される.
https://doi.org/10.57369/pnj.26-065
受付日:2025年12月28日
受理日:2026年2月6日
はじめに
脊髄小脳変性症(spinocerebellar degeneration:SCD)は,小脳を中心とし脳幹,脊髄あるいは大脳をおかす神経変性疾患であり,運動失調のほか,パーキンソン症候,錐体路徴候,末梢神経障害,認知症などさまざまな症候を呈する疾患群である20).SCDの歴史は古く,1861年にFriedreich型の運動失調症が最初に記載され,1893年,Marie, P. によってFriedreich病とは別のMarie型遺伝性運動失調症が報告された.その後も臨床病理学的検索により次々に種々の型の疾患が報告されている24).日本におけるSCDの有病率は人口10万人あたり18.6人と推定されており,そのうち約3分の2が孤発性,約3分の1が家族性(遺伝性)である20)28).家族性SCDは90%以上が常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性であり,常染色体顕性遺伝性脊髄小脳失調症(spinocerebellar ataxia:SCA)としてSCA1,SCA2などの各病型に分類されるものや,歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(dentatorubral-pallidoluysian atrophy:DRPLA)がある.本邦ではMachado-Joseph病(MJD;SCA3),SCA6,DRPLA,SCA31の4疾患で70~80%を占め20)28)29),その他病型は多岐にわたり報告されている25).報告施設により頻度に若干差が認められ,また,日本国内でも地域差が存在する4).
SCDの症状は個人差が大きく,発症時期や病状進行も多様である.常染色体顕性遺伝性SCDでは,中核症状の進行性小脳失調の他に,多彩な症状を合併しうる.錐体路徴候,眼球運動障害などの脳神経障害,不随意運動やパーキンソン症候を含む錐体外路徴候,認知機能障害,てんかん,視神経萎縮,黄斑変性,骨格筋筋萎縮,末梢神経障害,てんかん発作などが頻度の多い合併症候である17)21).精神症状に関してはSCD全体ではうつ状態,不安症,病型ではDRPLAにおける性格変化などが報告されている20).近年,SCDに精神症状を伴う報告が散見されているが1),国内ガイドライン20)における詳細な記載はない.
今回,SCDと診断されたのち,情緒不安定,易怒性,衝動性亢進などの精神症状がみられ,臨床所見,頭部CT所見,各種心理検査などから,SCDの経過中に前頭葉機能低下を呈し,器質性パーソナリティ障害の併存と診断された症例を経験したので報告する.なお,本症例報告は日本精神神経学会の倫理ガイドラインに沿って作成し,本人からは生前に,また家族からは症例報告と抄録の一般公開の同意を取得しており個人情報保護に配慮した.
Ⅰ.症例提示(40歳代,男性)
【主訴】
もう帰りたい,なぜこんなところにいるの
【既往歴】
SCD(遺伝子検査は未施行),気管支喘息
【家族歴】
父親,姉,祖父,父方伯母,曾祖母:SCD(遺伝子検査は未施行)(図1)
【生活歴】
同胞3名第3子として出生し,発育発達に特記事項はない.就学期を通して成績は下位で,最終学歴は高校中退であった.その後はガソリンスタンドやビデオ店店員などアルバイトを転々とした.X-13年に結婚し,1子をもうけた.友人は多く外交的で明るい性格であった.精神科既往歴はなく,明らかな気分エピソードもない.
【現病歴】
X-11年頃からふらつき,構音障害,書字障害が顕在化し,たびたび転倒するようになった.X-9年にA病院神経内科を受診し,病歴,家族歴,神経学的所見,小脳萎縮の画像所見から臨床的にSCDと診断された.X-7年頃より,発症前には認めなかった抑うつ気分,情動の不安定性,浪費,不眠,自傷行為が出現し,近医の精神科クリニックを受診し,器質性気分障害として薬物治療が開始された.症状は一進一退で,些細なことで興奮し,自ら警察に通報することもたびたびあった.X-2年に当院に医療保護入院した.退院後は近医のクリニックに通院していたが,X年4月頃より不穏になり,気に入らないことがあると情動不安定になり,妻や実子に向かって物を投げるなど粗暴行為が増えていた.同年7月上旬,実子が妻のスマートフォンを使って勉強していたところ,遊んでいると勘違いして激怒し,粗暴行為に至った.警察が介入し妻と同伴で当院受診に至り,妻の同意による医療保護入院となった.
【入院時所見】
診察時,入院告知に強い拒否感を示し,泣きわめき,周りにある物を掴み投げるなどの粗暴行為に至った.精神運動興奮,被刺激性の亢進,情動不安定,日時や場所が答えられないなど見当識障害を認めた.
【検査所見】
血液検査,心電図で異常を認めなかった.頭部CTでは小脳萎縮,両側シルビウス裂開大を認めた(図2).当施設にはMRIがないため実施していないが,X-1年にA病院神経内科で施行されたMRIにおいて,小脳萎縮,虫部および半球の脳回開大と橋の萎縮所見を認めた(図3).神経学的所見では,構音障害,バビンスキー反射陽性(両側伸展)を認め,指鼻指試験は左右ともに拙劣,膝踵試験も左右ともに拙劣で,歩行障害(ふらつき,転倒など酩酊歩行)を認めた.不随意運動(ミオクローヌス・舞踏様運動)や眼球運動の異常は認めなかった.
【治療経過】
SCDに対する直接的な薬物療法は存在しないため身体リハビリテーションで対応とし,随伴する認知・精神症状の改善を薬物療法の目標とした.薬物治療は前医処方を引き継ぎ,患者および家族に適用外であることを説明したうえで易怒性に対してバルプロ酸ナトリウム600 mgを,不安焦燥に対しては,抗不安・鎮静効果を期待してパリペリドン6 mg,クエチアピン200 mgを開始した.入院時血液検査にてバルプロ酸ナトリウム血中濃度27 μg/mLと低値であり,入院5日目にバルプロ酸ナトリウムを800 mgに増量した.最終的なバルプロ酸ナトリウムの血中濃度は64 μg/mLであった.また,日中傾眠傾向であったことからクエチアピン100 mgに減量,入院6日目にパリペリドンを9 mgまで増量した.薬物療法の結果,情動は次第に静穏化し,問題行動も認めなくなった.発症から当院退院までの経過を図4に示す.なお,当院入院前の投薬経過に関する詳細は不明である.
治療法のない難治性疾患に罹患している不安やストレスは了解可能であり,当初,抑うつ状態などの一連の症状は心因反応性と考えられた.しかしながら,繰り返し警察沙汰になるほどの過度な興奮と,被刺激性亢進をもたらす行動統制の欠如は心因反応のみでの説明は難しく,SCDに関連した何らかの器質的影響の存在も示唆された.前医では,不要な物品を即断で購入し,同種類の物を買い集める収集行動がみられ,家に物があふれる浪費をもたらした衝動性と易怒性の存在から躁病相と判断し,SCDに併発した双極性感情障害と診断されていた.しかし,SCD発症以前に気分エピソードを認めず,同障害の診断に重要な高揚感や睡眠欲求の減少,目的指向性行動の増加を認めなかった.一方,自身の感情をうまく伝えられないとき,要求が通らないときに感情失禁や退行的言動が頻出したことから,SCD発症後に出現した前頭葉機能低下の可能性を考えた.そこで,Mini-Mental State Examination(MMSE),前頭葉機能検査(Frontal Assessment Battery:FAB),および改訂日本語版Barratt Impulsiveness Scale-11(BIS-11)11)を施行した.
1)Mini-Mental State Examination(MMSE)
21/30点.カットオフを下回っていることから年齢不相応の認知機能の低下が生じていることが窺われ,特に文章構成能力の低下が目立った.
見当識:時間については何年,季節のみ正答する.日にちについては1日ずれる.場所の見当識には地方名のみ「わかりません」と答え,他は正答.
記憶:即時再生および遅延再生はいずれも正答.
計算:93のみ正答.それ以降は「85,98,60,80」と回答.
言語能力:提示された日用品の名称,短文の復唱も正答.
構成能力:3段階の命令に従う課題では,指示を復唱しながら行動に移す.文章を読んで指示に従うことや重なり合う五角形を模写する課題も正答.文章を書く課題ではしばらく考えた後「パス,書けない」と回答せず.
2)前頭葉機能検査(Frontal Assessment Battery:FAB)
12/18点.前頭葉機能低下,特に知的柔軟性の低下が示唆された.
概念化課題:正答.テーブルとイスの共通点を「座るところ」と回答し,上位概念は答えられず.2/3点
知的柔軟性課題:「か」から始まる単語を答える問題であったが,「かくげん」と答えるのみ.他にはないか促すも「もんきー」と発語するのみ.0/3点
行動プログラム課題:検査者の真似をしながら連続した動作を行うことも,一人で連続した動作を続けることもできた.3/3点
反応の選択課題:ルールの説明を行うと理解はできるも,連続した課題のなかでは,1/10のみ検査者と同じ回数をタップすることがあった.2/3点
GO/NO-GO課題:ルールの変更は理解するが,連続した課題のなかでは,最初の問題では,変更前のルールに沿ってタップした.それ以降は,今回のルールに則ってタップすることが可能であった.2/3点
把握行動課題:指示に沿って検査者の手を握ることはなかった.3/3点
3)改訂日本語版(Barratt Impulsiveness Scale-11:BIS-11)
63点(カットオフ72点).全30の質問項目を行い,各質問に対し,〈まれ/決してない〉〈時にある〉〈しばしば〉〈ほとんどいつも/いつも〉の4択で回答し,質問項目ごとに1点から4点まで振り分けられる.全体に自己アセスメントが不良で,正しい評価は困難であったが,「いろいろな考えが頭の中を駆け巡っている」「衝動的に行動する」「衝動的に買い物をする」が〈しばしば〉または〈ほとんどいつも/いつも〉に該当し,「定期的にお金をためている」「じっくりと考える」が〈まれ/決してない〉,〈時にある〉に該当した.
以上の検査結果から全般的な認知機能および前頭葉機能低下を認め,自己洞察や衝動性の制御困難に加え,文章構成能力や言語的な知的柔軟性に顕著な低下を認めた.BIS-11は自己記入式であり,これのみでの診断は客観性を欠くため,主に家族からの聴取内容とFABの結果に従って抑制機能低下による衝動性亢進と診断した.衝動性の亢進からは,前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD)も鑑別に上がるが,発症年齢がFTDより若いこと,情緒的な冷淡さに起因する逸脱行動や無関心,食行動の変化,あるいは常同性や時刻表的生活を認めないこと,頭部CTおよびMRIにてFTDの衝動性亢進に特徴的な前頭眼窩面の萎縮を認めないことから,除外した.
SCD発症後の経過と認知機能検査の結果より,器質性パーソナリティ障害の診断基準である(a)我慢して行う能力の持続的な減弱,(b)情動の易変性,(c)欲求と衝動の表出を満たすため,「ICD-10 F07.0器質性パーソナリティ障害」と診断した30).
その後,家族の希望もありX年9月に自宅退院となった.近医のクリニックに外来通院を継続としたが,次第に身体が動かなくなり,退院3ヵ月後に誤嚥性肺炎にて死亡した.
Ⅱ.考察
SCDでは,症状の個人差が大きく,中核症状の進行性小脳失調の他に,多彩な症状を合併することが知られている.『脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018』の「Clinical Question 3-13:脊髄小脳変性症において精神症候が目立つ場合,どのような疾患を考えるか」によれば,精神症候として,うつ状態が高頻度に合併すると報告されているとし,その他不安症の併存が多く,ごく稀に統合失調症様の精神症状を伴った遺伝性SCDや多系統萎縮症の症例報告があると記載されている20).
同ガイドラインの各論では,DRPLAにおける性格変化や幻覚,妄想などが挙げられている20).DRPLAは日本の常染色体顕性遺伝性SCD(AD-SCD)のなかでMJD/SCA3,SCA6に次いで頻度が高い疾患であり27),小脳性運動失調だけではなく,ミオクローヌスてんかん,進行性の知能低下が現れやすい.中央値は30歳で,精神症状の出現は成人例に多いとされる5).頭部MRIでは小脳および脳幹を中心とした萎縮が認められやすく,また,他のSCDと異なる特徴として長期経過した成人型症例を中心に,大脳白質に広範囲なT2高信号域がみられることがある20).
このように,国内ガイドラインではSCDに伴う精神症状において一部記載があるものの,発症メカニズムや実態に関する記載はなく,症例報告や疫学調査に関する記載も限られている.本症例のような前頭葉機能低下の症状に関する記載はない.
一方で,Karamazovova, S. らによる総説によれば,SCDなどの小脳萎縮を呈する病態では,歩行および四肢協調運動の進行性喪失,構音障害を特徴とし,錐体路および錐体外路徴候,眼球運動異常,その他の非運動失調症状,認知機能障害(主に実行機能,視空間認知機能,言語能力)だけではなく,感情や人格の変化,抑うつ状態,不安,脱抑制,衝動制御障害,易刺激性,無関心,強迫的行動,または幻覚,妄想などの精神病症状などを呈するとされている8).
SCDの経過中にみられる精神症状としては抑うつ状態が最も高頻度で認められるが18),定義の方法の曖昧さ,サブタイプ間の差異によるばらつきがあり,報告された推定有病率も7.7~75.0%と幅広い.Schmitz-Hübsch, T. らによる報告によれば,SCA1,SCA2,MJD/SCA3,SCA6患者526例を対象にPatient Health Questionnaire(PHQ)を用いてうつ状態を調査した結果,PHQの合計点10点以上を中等度うつ状態と定義した場合,22%にうつ状態を認め,病型による差はなかった23).MJD/SCA3は抑うつ状態の有病率および重症度が高く,希死念慮を呈する割合が有意に高い結果となっている(SCD患者300例を対象とした研究では,SCD全体で52%に対し,SCA3では65%)16).この違いは,SCA3に特有の大脳基底核内における前頭-皮質下回路の機能不全に起因するとの仮説が立てられている19).他方,SCA6は小脳外障害がほとんどまたは全くない純粋なSCDであると考えられているにもかかわらず,SCA2およびSCA3と比較してより顕著な抑うつ気分がみられると報告されており,小脳そのものの関与を示唆している10).
また,本症例でみられた被刺激性の亢進,情動不安定,衝動性の制御が困難などの前頭葉機能低下の症状については,SCA8単独,SCA17単独,SCA1,2,3,6,7の混合コホートを対象とした複数の研究が行われている12-15)26).それによれば,SCD患者の17.1%に精神運動興奮状態が観察され,易怒性(56.1%),脱抑制(51.2%),情緒不安定などの症状も認められた12)14).これらの症状は,質問紙形式を用いてSCDを呈する患者を評価した研究においても,患者自身および患者家族や友人などから高頻度に報告されている12).人格変化については,SCD患者のうち最大27%,とりわけSCA17患者の全例でみられたとの報告がある13)14).症例報告としては,Amokrane, N. らがSCAの発症数年後から衝動性,強迫性を呈した4症例を紹介しており,時間経過的にも本症例との類似性を認める1).また,BIS-11を用いた衝動性評価では,SCAではパーキンソン病でみられる衝動性に比べ,無計画性の行動が特徴的と報告されている3).
以上より,小脳の神経変性自体もしくはそれに関連して前頭葉領域における機能低下が生じ,易怒性や脱抑制,衝動性などの行動制御障害を呈する可能性が示唆された.近年,小脳が運動以外の高次脳機能にもかかわることが次第に明らかになりつつあり,小脳の機能不全が気分や衝動性制御にかかわる可能性も繰り返し指摘されている3)9).この場合,小脳そのものが前頭前野的な機能を分担しているのか,それとも前頭前野や頭頂連合野,辺縁系などの認知機能を担うさまざまな脳領域と連絡することで2),認知機能に関与しているのかは明らかになっていないが,小脳に主病変を示すSCDの少なくとも一部が,これまで前頭前野などの脳の他領域由来と考えられてきた精神症状や認知機能障害にも関与している可能性が示唆されている.
これに関して,Schmahmann, J. D. らは小脳性認知情動症候群(cerebellar cognitive affective syndrome:CCAS)の概念を提唱している22).それによれば,CCASはSCDを含むさまざまな原因に基づいた小脳の損傷によって引き起こされる認知機能障害,感情障害,言語障害などの症候群であり,具体的には,遂行機能障害,視空間認知障害,言語障害,感情障害などが特徴的とされ,必ずしも運動症状の存在を必須とはしていない22).小脳は運動面での機能として,意図した運動と実際の運動の誤差を検出・修正することで運動を微調節するが(=内部モデル仮説6)),Schmahmannらは,小脳の非運動性機能,例えば思考においても同様の調整を行う,「思考の測定障害(dysmetria of thought)」仮説を提唱し,小脳損傷により運動失調と同じように思考の調整にも障害が生じることがCCASの発現機序であると考察している.また,特に認知機能に関与するとされる後葉(lobules Ⅵ, Ⅶ,およびⅨ)が重要と想定している22).Ito, M. も,注意機能やワーキングメモリー,長期的予測における小脳の関与から,小脳内の特定の領域が特に非運動性の認知機能にかかわる可能性を基礎医学の観点から提唱している7).現在,小脳内の神経核が単独で認知機能や精神機能を担っているとするより,小脳と連絡する前頭前野や皮質下,特に傍辺縁系などとの回路機能が侵される結果として症状が出現する,との仮説が有力である22).本症例は,経過からSCDの終末期に今回の入院に至ったと考えられる.認知・精神症状に関しては,発症当初以降の詳しい経過が不明で,加えてすでに倦怠感や集中困難を呈していたために上記以外の心理検査を施行できず,認知症状を網羅的に評価することも叶わなかった.しかし,おおむね上記のCCASの定義を満たしており,脳画像所見とも矛盾しないと考えられる.
本症例の家系では父方伯母が50歳代前半で発症し,姉は20歳代前半で発症しているなど,家系内で発症年齢に差がみられるため,表現促進現象の可能性も示唆される.しかし,父親を含む他罹患者の発症年齢情報が限られ,遺伝学的検査も未施行であるため,本症例では表現促進の有無を判断できない.しかしながら,患者本人における神経学的所見,病歴,家族歴,小脳萎縮の画像所見などから常染色体顕性遺伝性SCDである可能性が高いと推察される.SCDの各病型と多彩な認知症状の関係は明らかではないが,本患者の出身地付近の地域ではSCA3およびSCA6の発症が集積していることから,いずれかの可能性が特に疑われる.
SCDは精神科領域ではあまり遭遇する機会のない疾患であるが,他の器質性精神疾患に比べても多彩な高次脳機能との関連性を有する病態,およびその理解のためにさまざまな心理検査や脳画像検査を活用する必要性など,小脳の機能解明が進み,CCASの概念が定着しつつある昨今において,非常に学ぶべき点が多い疾患と考えられる.
一方で,治療法が未確立であることに加え,遺伝性を有する点など,患者およびその家族が抱えるストレスの大きさは想像に余りある.臨床家にとってもこのような大きな課題と対峙することは,精神科医として何を,どこまでできるかについての試金石ともいえる.
おわりに
SCDの病態メカニズムは,病状や病型の多様さに加え個人差が大きく,いまだ解明されていない部分が多い.今回,SCDの経過中に前頭葉機能低下を呈し,器質性パーソナリティ障害と診断した1例を経験した.近年,SCDの経過中に前頭葉機能低下を伴う症例報告が増えており,今後,SCDに併存する精神症状により注目すべきと考えられ,今後の症例の蓄積が期待される.また,SCD以外にも,さまざまな小脳関連障害でCCASを生じる可能性があることから,精神科臨床一般においても,常に留意すべき病態の1つと考えられる.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 本症例の学会発表および論文作成において,貴重なご教授をいただいた吉田光宏先生(国立病院機構北陸病院),橋本隆紀先生(同)に深謝いたします.
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