Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第128巻第3号

特集 周産期メンタルヘルス領域における治療困難事例に対する新たな治療実践
周産期メンタルヘルスケアに役立つ対人関係療法
利重 裕子
名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学
精神神経学雑誌 128: 168-175, 2026
https://doi.org/10.57369/pnj.26-030
受付日:2024年12月15日
受理日:2025年6月16日

 周産期は,親としての役割を新たに担い始める時期であり,妊娠・出産に伴う生理学的な変化,私生活や仕事での環境や人間関係の変化などの心理社会的変化など,多くの変化を経験し,身体的・心理的負担が大きくなる時期と考えられる.世界的に周産期うつ病の有病率は高いことが報告されており,日本も例外ではない.また,日本では,出産後1年以内の妊産婦死亡の原因としては自殺が最多であり,産後うつ病との関連が指摘されている.周産期うつ病を防ぐためには早期かつ効果的な介入が求められる.対人関係療法(IPT)は,米国でうつ病のために開発され,現在の対人関係に焦点化することで症状改善をめざす短期精神療法である.うつ病においては,認知行動療法と並ぶエビデンスを有し,周産期うつ病に対しても,治療・予防の両面でシステマティックレビューおよびメタアナリシスにより有効性が確認されている.本稿では,IPTの概要について説明し,その後,周産期うつ病に対するIPTの詳細について紹介したい.

索引用語:周産期の女性, 対人関係療法, メンタルヘルス, うつ病, 不安>

はじめに
 周産期の女性の約10~20%が臨床的に有意な抑うつ症状や不安症状を抱えており7)11),これらの症状が併存しやすい主要な精神疾患にうつ病がある.日本において,妊娠期のうつ病の有病率は,妊娠中期で14.0%,妊娠後期で16.3%,産後うつ病の有病率は,出産後1ヵ月以内で15.1%,1~3ヵ月で11.6%,3~6ヵ月で11.5%,6~12ヵ月で11.5%と,妊娠期ならびに産後うつ病の高い有病率が報告され,産後うつ病の有病率は初産婦のほうが経産婦よりも高い46).DSM-5-TRによると産後うつ病の50%は妊娠中に発症している.妊娠期のうつ病の既往は産後うつ病の強い予測因子であると示されており31),早産や低出生体重児のリスクを増加させ16)17),産後うつ病は母親の心理的健康や生活の質に深刻な影響を及ぼし35),児童虐待につながる可能性も指摘されている10).日本において,出産後1年以内の妊産婦死亡の原因としては自殺が最多であることが示され,産後うつ病との関連が指摘されている27).2005年から2014年までの東京都監察医務院からの報告をもとに妊娠中から産後1年までの周産期女性の異常死を分析したTakeda, S. らの後ろ向き調査報告によると,63例の自殺があった(妊娠中23例,出産後40例)が,自殺した妊娠中の女性23例のうち35%がうつ病の既往があり,自殺した出産後の女性40例のうち,33%が産後うつ病,10%がうつ病の既往があった45).以上のように,周産期女性においてうつ病は有病率・危険性がともに高いため,早期かつ効果的な介入が求められる.
 妊娠中の女性と同じく,授乳を希望する母親は薬物療法よりも精神療法を好む傾向があるため2),精神療法の普及が期待される.精神療法のなかでも,対人関係療法(interpersonal psychotherapy:IPT)50)や認知行動療法(cognitive behavior therapy:CBT)3)は,周産期うつ病の治療・予防に対して効果が示されており37)38),米国予防医学専門委員会(U. S. Preventive Services Task Force:USPSTF)によって,周産期のうつ病の予防法として推奨されている6)28).著者が専門としているIPTでは現在の対人関係に治療の焦点を当てる.そのため,周産期うつ病の女性にIPTを実施する際には,周産期の女性の抑うつ症状や不安症状と強く関連しているソーシャルサポートの不足や夫婦間の不満などの対人関係の問題20)21)29)を扱いながら,母親の役割に適応できるようにサポートすることができる39)50).このように,IPTが現在の対人関係に焦点を当てる治療であることを考えても,周産期の女性のニーズに対応できる精神療法の1つであると考える.本稿では,IPTについて概説したうえで,周産期うつ病に対するIPTの治療内容について詳述したい.

I.対人関係療法(IPT)
 IPTは,Klerman, G. L. トWeissman, M. M. によって,うつ病治療のために開発された短期精神療法である.IPTは,うつ病に対して最も強力なエビデンスをもち,CBTとならぶ精神療法である.1973年にWeissmanらが実施した急性期うつ病患者に対するIPTの最初の臨床試験では,IPT単独が抗うつ薬単独療法と同等の効果を示し,さらに両者の併用が最も高い効果を示した49).その後,米国国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health:NIMH)が実施した多施設うつ病治療研究プログラムでは,IPTがCBTと同等の抗うつ効果を示した9).急性期うつ病に対するIPTは,発症前の予防・急性期・再発予防のいずれの段階においても有効であることが示され,現在では急性期うつ病に対するIPTのエビデンスは確立している5).さらに,IPTはうつ病のみならず,心的外傷後ストレス症(post-traumatic stress disorder:PTSD)1)23)や神経性過食症・むちゃ食い症15),双極症24)など,うつ病以外のさまざまな精神疾患,年齢層,治療形式(グループ,遠隔,短期)に適用され,効果が確認されてきた.
 IPTのマニュアル50)は,愛着理論と対人関係理論に基づき,既存のさまざまな精神療法の効果的な技法(心理教育,感情学習,コミュニケーション分析,ロールプレイ,決定分析,問題解決など)を取り入れて作成されている.精神疾患の発症・維持には生物・心理・社会的な多因子が複雑に影響するという立場をとるため,初期段階で,生物学的介入である抗うつ薬などの薬物療法についても積極的に検討を行う.そして,対人関係上の状況で精神疾患が発症・維持すると考え,精神疾患の発症に関連の強いライフ・イベントを同定し,「悲哀」「対人関係上の役割をめぐる不和」「対人関係上の役割の変化」「対人関係の欠如」という4つの対人関係問題領域から1~2つ選択し,それぞれの対人関係問題領域に応じて介入をしていく.
 IPTがうつ病以外のさまざまな精神疾患,年齢層,治療形式(グループ,遠隔,短期)に適用される際にさまざまな修飾が行われているが,通底する治療戦略は同一であり,主たる2つの治療戦略がある.1つ目は,患者は病気に罹患しており,それは治療可能なものであると捉える医学モデルを採用し,患者に「病者の役割」を与えることである.これは,病気が医学的状態だけでなく社会的役割でもあるという考え方で,患者は仕事や家事などの通常の社会的責務が免除される代わりに,症状改善に向けて治療を受ける役割を担うことを明示する.この心理教育を行うことで,患者の罪悪感のみならず,周囲の人達の患者への不満を軽減し,患者と周囲の人達が協力して治療に取り組むことができるようにする.2つ目は,精神疾患と対人関係が相互に影響を与える治療モデルを念頭におき,対人関係と感情・症状との関連に焦点を当て,現在の対人関係問題に対処できるようになることで,症状の改善をめざすことである.
 IPTの治療構造は週1回につき50~60分/回,全12~16回であり,治療プロセスは初期(3~4セッション),中期(9~11セッション),終結期(2~3セッション)に分けられる.各治療プロセスでの治療内容について簡潔に述べる.
 初期では治療の基礎作りをする.診断の確定をしたうえで,医学モデルを採用し,患者に「病者の役割」を与える.また,対人関係についての詳細な質問をしながら,対人関係と症状の発症・維持との関連を過去から現在まで振り返りつつ,精神疾患の発症・維持において関連の強いライフ・イベントを同定する.そして,4つの対人関係問題領域から1~2つを選択する.そのうえで,フォーミュレーションおよび治療方針を患者と共有して,治療契約を結ぶ.中期では選択した対人関係問題領域における「現在の対人関係」に取り組む.つまり,対人関係上の出来事を聞き,それに関連する「気持ち・症状」を探索し,「対人関係」と「気持ち・症状」を関連付ける.そのうえで,「気持ち・症状」と関連する「現在の対人関係」において,どのような対人関係上の選択肢があるかを検討し,患者が対人関係上の選択肢を選び,実行できるようにサポートする.終結期では地固めと将来への準備をする.治療過程全体の変化(対人関係上の変化,症状など)について話し合いながら,対人関係上の問題を解決して症状改善に役立ったスキルを振り返る.また,再発予防についても話し合う.終結についての患者の気持ちを探索することも重要である.

II.周産期うつ病に対するIPT
 IPTは周産期うつ病の治療・予防に対してシステマティックレビューおよびメタアナリシスにより有効性が示されている38).加えて,周産期うつ病の治療においてIPTがCBTよりも効果的であると示されたメタアナリシスや,周産期の抑うつ症状の治療においてIPTがカップルセラピーなどの関係性に基づく介入よりも効果的であると示されたメタアナリシスも存在する4)36)
 また,IPTの治療における焦点を考えても,周産期の女性のニーズに合った有益な治療選択肢となり得ると考えられる.その理由を2つ,具体的に説明したい.1つ目の理由としては,周産期の女性が母親という新しい役割を担う際には,その新しい役割への適応が求められるが,IPTでは対人関係問題領域の1つとして「役割の変化」が存在しており,この対人関係問題領域に焦点を当てて介入することができるためである39)40)50)
 周産期うつ病治療に対するIPTにおいて,「役割の変化」に焦点を当てる際の具体的な治療戦略については,下記1~5のとおりである26)40)50)

1.古い役割のポジティブ・ネガティブ両面について検討する
 ほとんどの女性は,妊娠が計画的であったとしても,ある程度アンビバレントな感情を抱きながら,妊娠に臨んでいる.妊娠と出産に伴う不安によって,慣れ親しんだ古い役割の理想化が強化され,新しい役割に否定的な感情を抱きやすい.そのため,母親になる以前の古い役割についてポジティブな側面とネガティブな側面の両方を検討し,それぞれの役割を広い視野で捉えることができるようにサポートする.

2.古い役割について悲嘆プロセスを促進する
 慣れ親しんだ以前の古い役割をしっかりと終えることができるように,寂しさや怒りなどのさまざまな感情表出をサポートしながら,古い役割についての悲嘆のプロセスを促進する.

3.新しい役割において自分でコントロールできる領域を見つける
 「役割の変化」の最中では,霧の中で遭難しているような,自分が進んでいく方向がわからなくなっている状態となる.そのため,新しい役割において妊産婦自身が「コントロールできている」と感じられる領域を見つけることが重要である.例えば,「体力が落ちないように毎日散歩をするようにしている」「毎晩子どもに本の読み聞かせをしている」「妊婦健診/乳幼児健診には欠かさず行っている」など,妊産婦自身が「コントロールできている」と感じられることであれば,どのようなことでもよい.

4.変化そのものについての感情表出を励ます
 変化に適応できるようにサポートするためには,変化についての感情を引き出すことが重要である.この時,どれほど最善で計画的な状況での妊娠であっても,妊娠するとアンビバレントな感情を抱くことは当然のことであると保証されることで,感情を表現しやすくなる.例えば,キャリアで成功を収めてきた女性であれば,妊娠して幸せである一方で,自分の人生の重要な要素を失うことを恐れることや,地位を失うことを嘆くかもしれない.また,「幸せな母親」であるべきという責任感から,罪悪感も抱いている可能性もある.このような時,治療者が,周産期の女性がこのようなアンビバレントな感情を抱くのは当然であることを保証しながら,感情表出を励ますことが重要である.

5.新しい役割で必要とされるスキルを獲得し,ソーシャルサポートを構築する
 母親という新しい役割を担うことについて,妊産婦が「自分はできる」という感覚をもてるように,新しい役割で必要となるスキル(例:育児スキル,援助要請スキル)を獲得できるように励ます.また,周囲の人たちに支えられている感覚をもちながら新しい役割を担っていくことができるように,妊産婦の気持ちを確認しながら,パートナーや家族,友人との間で妊産婦自身が必要としているソーシャルサポート(例:育児分担/サポート,家事分担/サポート,心理的サポート)を適切に育むことができるように励ます.さらに,うつ病に罹患している場合には,前述の「病者の役割」をパートナーや家族と共有したうえで,患者の負担の軽減などについても話し合うことが重要である.

 IPTが周産期の女性にとって有益となり得る2つ目の理由としては,周産期の女性の抑うつ症状や不安症状は,ソーシャルサポートの不足や夫婦間の不満などの対人関係の問題と密接に関連しているが,IPTでは症状が発症して維持される対人関係の状況に焦点を当てて介入することができるためである20)21)29).パートナーなどとの不和も症状の発症・維持に関連すると考えられた場合には,「役割の変化」に加えて「対人関係上の役割をめぐる不和」も2つ目の対人関係問題領域として選択して,焦点化することができる.その場合には,抑うつや不安といった症状と関連する“すれ違い”を特定し,すれ違いを解決するために期待やコミュニケーションを調整していく.
 妊娠中のうつ病に対するIPTを実施する際には,特別に,「役割の変化」の亜型といわれる「複雑化した妊娠」が先の4つの対人関係問題領域に加えて第5の対人関係問題領域として存在しており,望まない妊娠,多胎妊娠,妊娠に伴う医学的問題,産科的合併症などが,症状の発症・維持に関連する場合に選択することができ,それらの対人関係問題に重点的に介入できる30)40).「複雑化した妊娠」を選択した場合には,「役割の変化」の治療戦略に加えて,それらの出来事に伴うつらさへの対処法を学ぶことや,そのつらさに関連する期待やコミュニケーションを調整することで,抑うつ症状や不安症状の軽減をめざしていく.なお,2023年に妊娠中のうつ病に対する8セッションの短期IPTの効果が示されたが,対人関係問題領域として「複雑化した妊娠」が一番多く選択され,次に多く選択されたのは「対人関係上の役割の変化」であった14)

III.周産期の喪失を経験した女性に対するIPT
 流産や死産という周産期特有の喪失の場合には,「悲哀」の対人関係問題領域を選択する場合もある.周産期の喪失を契機としたうつ病を含む,死別関連うつ病に特化したIPTの研究はまだ少ないが18)48),役割の変化や対人関係上の役割をめぐる不和などを含む複数の文脈で発症したうつ病に対して,システマティックレビューおよびメタアナリシスによりIPTの有効性が示されていることを根拠にして,多くのIPT治療者によって死別関連うつ病に対してもIPTが実施されている.「悲哀」を選択した場合には,喪のプロセスを促進し,女性自身が自分の感情を支えられる興味や人間関係を再構築するのをサポートする50).この介入は,Stroebe, M. らが提唱した悲嘆への対処法である,喪失志向と回復志向を行き来することで悲嘆が統合されていくという二重過程モデルに合致している.
 周産期の喪失を経験した女性のうつ病に対するIPTを実施する際には,周産期の喪失の特徴や,周産期の喪失を経験した女性ならではの感情に留意してサポートしていく必要がある.周産期の喪失の特徴の1つは,女性はその喪失を「本当の」喪失として経験することが多いが,必ずしも文化がそれを認めるとは限らないことである12).そのため,周産期の喪失を経験した女性は,自分自身の感情への対処法だけでなく,他者の反応への対処法も学ばなければならない.日本においても,流産や死産を経験した女性への心理的サポートの重要性が認識されつつあるとはいえ,流産や死産はいまだにタブー視されやすいのが現状である.次に,流産や死産などの周産期の喪失の際には,「満たされなかった期待と,ライフサイクルの正常な秩序の喪失」に基づく独特な喪失感を伴いやすい42).そのため,この妊娠中に起きたことについて自分の過失があったのではないかという疑問や,この予期せぬ出来事が自分にとって何を意味するのか,パートナーとの関係にとって何を意味するのか,自分の将来にとって何を意味するのかなどの疑問を感じるとともに,この出来事は予測可能であったのか公平なのかなどの疑問も引き起こされる42).また,健康な児を出産したことを契機として,過去の周産期の喪失経験が全く異なる意味をもつようになることもある43).さらに,女性が再びさまざまな活動を始めて,児との死別について考えることが少なくなると,罪悪感を抱いたり,死別した児とのつながりが失われていくように感じたりする女性もいる18)
 さらに,著者は,対人関係問題領域の「悲哀」を選択し,喪のプロセスを促進する際には,日本文化を考慮しながら介入することが有益であると考えている.日本では,死後の儀式は仏教の様式で行うことが多く,仏教の場合には,四十九日や納骨などの故人を偲び弔う機会がある.また,毎日の生活のなかでも,お墓参りや仏壇に手を合わせることがあり,故人に思いをはせる機会がある.さらに,日本の伝統的な死生観から,仏壇やお墓の前で故人に日常生活の出来事を報告したり,普段の悩みを話しかけたりする機会や,ご飯などをお供えする機会もある32).著者は,遺族がどのような死生観をもち,どのような気持ちを抱きながら死後の儀式や慣習を行っているのかを尋ねるようにしている47)
 周産期特有の喪失を契機として,うつ病のみならず,PTSDや遷延性悲嘆症(prolonged grief disorder:PGD)を併発することがあることにも留意が必要である.一般的に,遺族は,うつ病・PTSD・PGDの症状を併発するという報告がある19)34).PTSDに対して強固なエビデンスを有する持続エクスポージャー療法や認知処理療法といったトラウマ焦点化精神療法(trauma-focused psychotherapy)であっても,(i)トラウマに焦点を当てた治療に取り組むことを望まない人がいる,(ii)ドロップアウト率が高い,(iii)少なくとも退役軍人では30~50%が臨床的に有意な改善を示さず,約3分の2が治療後もPTSDの基準を満たした,という限界が存在するため,トラウマ焦点化精神療法とは治療の焦点が異なるPTSDに効果的な精神療法が必要とされている1)41).PTSDに対するIPTは,トラウマ記憶を惹起させるものに直面したりすることよりも,「トラウマが対人関係にもたらした結果」と「感情再調律」に焦点を当てる.PTSD患者は周囲の人たちへの「信頼」がテーマとなっているため,感情は周囲の人達が信頼できるかどうかを判断する指針となると心理教育をしながら,感情を表現できるようにサポートする22)23).なお,IPTではPTSDと診断された後の治療の過程でトラウマ記憶を直接扱うことはないが,PTSD症状が軽減するにつれて自発的にトラウマ記憶の想起に取り組むようになる.また,複雑性悲嘆(現在は,PGDという診断名に置き換わっている)に対するIPTは,IPT・CBT・動機づけ面接法を統合して構成された複雑性悲嘆に特化したcomplicated grief therapy(CGT,現在は,prolonged grief disorder therapyと呼ばれている)と,ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)において比較され,CGTのほうが有意に高い有効性を示した33).とはいえ,PGD治療においてIPTの要素は欠かすことのできない重要な構成要素であることに変わりない.

IV.国内普及に向けた課題と今後の展望(著者の私見を含む)
 IPTは,周産期女性に対して有効な治療法であることが示されているものの,国内における普及は依然として途上にある.主な要因としては,IPTの訓練を受けた治療者の数が限られていることに加え,日本ではIPTが医療保険の適用対象となっておらず,治療費が高額になりやすい点が挙げられる.このような状況をふまえ,IPTという有効な介入を,より広く,かつ利用しやすい形で提供するためには,IPT治療者の育成の推進に加え,保険収載を見据えたRCTの実施,およびデジタル技術を活用した新たな介入手法の検討が重要であると考えられる.
 治療者育成の観点では,国際対人関係療法学会(International Society of Interpersonal Psychotherapy:ISIPT)と連携するIPT研究会が定期的に開催しているワークショップへの参加が推奨される.また,2025年4月よりスーパービジョン体制が整備されており,所定の条件を満たすことで,スーパービジョンを受けることも可能となっている(詳細はIPT研究会ウェブサイトを参照).また,IPTの保険収載を実現するためには,国内でうつ病に対するIPTの有効性を明らかにするRCTを実施し,科学的根拠を蓄積することが求められると考えられる.加えて,近年のデジタル技術の進展を活用したIPT提供方法にも注目すべきである.実際,米国では遠隔IPTの提供が広がっており,看護師による電話でのIPTが産後うつ病に有効であることがRCTで示されているだけでなく8),うつ病に対する遠隔IPTが対面でのIPTと同等に効果的であることも,RCTによって明らかにされている44).さらに,CBTやIPTに加えて,行動活性化療法(behavioral activation therapy:BAT),弁証法的行動療法(dialectical behavior therapy:DBT)など,複数の心理療法を組み合わせた処方専用のデジタル治療アプリであるMamaLift PlusTMが,産後うつ病の治療を目的として米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)に承認され,臨床現場で用いられている.国内においても,このような先進的なIPT提供方法の導入が期待される.

おわりに
 周産期の女性の精神療法へのニーズは高く,周産期うつ病の治療・予防の両面においてIPTのエビデンスは豊富にあり,周産期の女性が選択できる精神療法の1つとしてIPTの普及が望まれる.IV.では,IPTの国内普及に向けた課題と今後の展望について著者の私見を含めて述べたが,それに加えて,周産期の女性は,時間的な制約やスティグマ,育児の問題などさまざまな障壁のために,周産期うつ病の治療・予防にアクセスする可能性が低いという問題がある13).これらの障壁を克服するために,周産期メンタルケア領域においてデジタルヘルス技術の活用が特に注目されている.近年では,遠隔医療やスマートフォンを使ったショートメッセージサービス(SMS),電話,ビデオ通話,さらには治療用・非治療用アプリケーションなど,さまざまな形で精神療法とデジタルヘルス技術が融合しつつあり,周産期メンタルヘルスケアの新たなアプローチとして発展してきている25).今後,周産期の女性が,エビデンスに基づいた精神療法に,より身近に,そして適切なタイミングでアクセスできる環境が整うことが強く望まれる.

 編  注:本特集は第120回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに竹内 崇(東京科学大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野)を代表として企画された.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

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