Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第127巻第8号

特集 医学教育に活かす精神病理学
精神病理学を総合病院で役立てる
越膳 航平
国家公務員共済組合連合会虎の門病院精神科
精神神経学雑誌 127: 584-592, 2025
https://doi.org/10.57369/pnj.25-091
受付日:2024年12月12日
受理日:2025年4月25日

 総合病院臨床において精神病理学が有用だと症例提示を通じて示す.なお本稿で扱う精神病理学の範囲は,患者の心理・行動を先入観なしに記述し,それが感情移入できる体験であるのか,それとも正常心理とは質的に異なる病的な出来事なのかを鑑別しようとする,いわば「一般」精神病理学である.第一に,内因性うつ病とデモラリゼーションの鑑別の例を示す(症例A,B,C).内因性うつ病では,焦燥・制止や,特徴的な症状である悲哀不能(Nichttraurigseinkönnen),生気的悲哀(vitale Traurigkeit)を把握する.一見契機に見える葛藤的出来事が実際には心的エネルギーの水位が下がったために顕在化している可能性を考慮する.これらによって時期を失さずに薬物療法と休養の処方を開始できる.一方,デモラリゼーションでは共感的な理解,見通しの共有,励ましを通じた患者の自己統御感の回復が重要であり,薬物療法の効果は限定的である.第二に,「まとまらない」と表現される思考形式の障害のうち滅裂(Zerfahrenheit)と散乱(Inkohärenz)を鑑別する重要性を示す(症例D).滅裂は統合失調症で見られ,妄想に関連したつながりが見出されることがある.一方,散乱思考は意識障害に伴って見られ,個々の断片は全く脈絡を欠く.

索引用語:精神病理学, リエゾン・コンサルテーション, 内因性うつ病, デモラリゼーション, せん妄>
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