私たちは前向きコホート研究と動物モデルを基礎に,早産児の睡眠・覚醒リズムの発達および身体・精神発達を生理学および小児・精神科学のアプローチから検討してきた.本稿では,最初に光環境が発達早期の生物時計「視交叉上核」に作用し,時計の周期・安定性などのスペックを決めること,そしてその結果,生物時計が制御する睡眠特性を変化させることを解説する.特に発達早期の光環境として,昼夜の区別のある明暗環境が安定した睡眠覚醒サイクルの形成に奨励されている.この明暗環境は,視交叉上核が刻むサーカディアン・リズムを整えることで,新生児・乳幼児の安定した行動リズムや睡眠・覚醒サイクルを誘導する.このしくみを医学的に利用したのが,新生児集中治療室(NICU)であり,導入された明暗環境が早産児のサーカディアンな行動リズムや身体発達を促すことが確認されている.一方,光環境などの人工環境が最適化されたNICUで育った早産児の成長を追跡調査すると,正期産児とは異なる行動・睡眠特性も明らかになってきた.1.5歳時において,早産出生の幼児は昼間の多動性,夜間の中途覚醒といった注意欠如・多動症(ADHD)に類似した行動・睡眠特性をもつことを確認した.そして,早産で出生した幼児がもつADHD類似特性に対しては,行動実況中継賞賛法・CARE・PCITなどの心理プログラム・心理療法を導入した早期療育,そして夜間の睡眠環境整備にも配慮した1日の生活をデザインすることが重要な視点である.CAREなどの心理プログラムは,ウェブを介したワークショップを実施することで,同時に多くの養育者にトレーニングが可能で,かつ早期療育,子育て支援として有効である.
2)金沢大学学校教育系特別支援教育グループ
3)金沢大学子どものこころの発達研究センター
4)三重大学大学院医学系研究科看護学専攻
5)九州大学大学院芸術工学研究院人間生活デザイン部門
6)金沢大学医学系精神行動科学
7)JCHO北海道病院小児科
https://doi.org/10.57369/pnj.25-073
受付日:2024年11月10日
受理日:2025年1月31日
はじめに
早産児が出生直後より治療を受ける新生児集中治療室(neonatal intensive care units:NICU)は,救急医療という性格上,光環境が乱れやすく,重症の早産児を治療する場合,常に照明が必要なケースも多い(恒明環境).すでに1980年代の臨床研究から,恒明環境で保育された早産児が,昼夜の区別のある明暗環境で保育された早産児より睡眠の発達が遅れ,体重増加が妨げられることが報告されていた.また,睡眠・覚醒リズムの発達および精神発達には,新生児・乳児期の睡眠環境が影響する可能性も指摘されている.
本稿では,1)睡眠・覚醒サイクルの発達過程を概観し,2)早産で生まれた幼児に認める昼間の多動性と夜間中途覚醒といった行動・睡眠特性とその対応について考える.そして,3)対応の1つの鍵となる心理プログラムChild-Adult Relationship Enhancement(CARE)とそのウェブ実施の重要性について概説する.
また,早産児は妊娠37週未満で生まれた赤ちゃん,正期産児は妊娠37週0日から妊娠41週6日までの間に生まれた赤ちゃん,と定義されている.そして,新生児期は出生から生後28日未満の期間を,乳児期は出生から満1歳未満の期間を,幼児期は離乳が終了する満1~2歳から小学校に就学するまでの期間を指す.
I.胎児期のサーカディアン・リズムと睡眠の発達(胎児・早産児のサーカディアン・リズムと睡眠)
ヒト胎児は,体動や心拍数に約24時間のリズム(サーカディアン・リズム)をもつことが知られている22)31)34).早い胎児では,妊娠22週ですでに心拍数にサーカディアン・リズムが観察される.また,マントヒヒの胎仔に外科的に脳波電極・心電図電極を装着し,子宮内に戻して胎仔をモニターすると,心拍数にサーカディアン・リズムがあることも明らかになった42).さらにげっ歯類(マウス・ラット),霊長類(オマキザル)の胎仔においても,睡眠を制御する脳内の生物時計「視交叉上核」(図1)36)で,糖代謝,時計遺伝子にサーカディアン・リズムが存在することが報告されている27)29-31)35)40)41)45).そして,胎児の元となる胎芽が分化を開始した発生段階の細胞でさえも,妊娠中期の段階で生物時計が動き始めている50).
胎児の体動や心拍数といった「生理指標」に現れるサーカディアン・リズムは,母体が胎盤経由で伝達するホルモンや栄養のサーカディアン信号に依存している.特に母体脳の松果体から夜に分泌されるメラトニンは胎盤経由で「胎児」の視交叉上核に到達し,そのメラトニン受容体に結合することにより,生物時計の働きを調節することは興味深い.そのため,いったん赤ちゃん(早産児・正期産児)として子宮から娩出され,母体からのサーカディアン信号が途切れると,体動や心拍数に観察されていたサーカディアン・リズムは消失する.満期前に出生した早産児は子宮の外で生活する胎児の典型例であるが,胎児と異なり母体からのサーカディアン信号は到達しない.保育器管理される早産児の体には電極が装着され,心電図・呼吸数・血中酸素飽和度,そして時に脳波が24時間連続モニタリングできるが,これらの生理指標にサーカディアン・リズムを確認することはない8).その代わりに,約3~4時間周期のリズム(ウルトラディアン・リズム:24時間より短い周期をもつリズム)が観察される(図2).このように,子宮内で母体からのサーカディアン信号を受け取る胎児には,体動・心拍数にサーカディアン・リズムを認め,子宮から娩出された早産児・正期産児にはサーカディアン・リズムを認めない.
また,早産児の「睡眠」においてもサーカディアン・リズムは観察されない.妊娠24~26週の早産児には,睡眠・覚醒の特徴を十分に満たした状態を認めないが,28~30週になると睡眠・覚醒の区別が可能となる.最初に体動や眼球運動を特徴とするレム睡眠(動睡眠とも呼ばれる)が現れ,次いで呼吸や心拍が規則的なノンレム睡眠(静睡眠とも呼ばれる)が出現する.そして32週になると約40~90分周期の動・静睡眠のウルトラディアン・リズムを認めるようになる.比較的安定した睡眠のウルトラディアン・リズムが確立するのは妊娠36週以後で,40週でほぼ完成する44).また,子宮内の胎児を超音波で観察した結果でも,体動や眼球運動に早産児と同様のレム・ノンレム睡眠のウルトラディアン・リズムが認められ20),早産児の睡眠と類似している.一方,胎児は自立的なウルトラディアン・リズムと,母体信号に依存するサーカディアン・リズムという,2つの制御を受けており,その点が母体信号由来のサーカディアン・リズムの制御を受けない早産児と異なる.
II.新生児・乳児期の睡眠の発達
出生後の発達早期にもウルトラディアン・リズムとサーカディアン・リズムが混在する.失われた胎児期のサーカディアン環境を取り戻すかのように,生後,赤ちゃんは新しい環境に適応しながら,自らの体の中に,自立したサーカディアン・リズムを形成するしくみを急速に発達させる.しかし,全くゼロからのスタートではなく,前述したように,すでに一部の生物時計は約24時間のサーカディアン・リズムを出生時に刻み始めている(図3).
実際,生後1ヵ月相当の正期産の赤ちゃんには,睡眠・ホルモン分泌にウルトラディアン・リズムを認める一方で,体動計で計測される行動量にはサーカディアン・リズムを認めるという,周期の異なるリズムが混在する18)39).この原因の1つとして,この時期の赤ちゃんの脳の他の部位や臓器が視交叉上核からのサーカディアン信号を受け取る準備が十分できていないことが挙げられる.つまり,視交叉上核ではすでにサーカディアン信号を発信しているが,他の組織・臓器が未熟なため,視交叉上核からのサーカディアン信号を受け取ることができないという仮説である.例えば,正期産の赤ちゃんの血中メラトニンにサーカディアン・リズムの安定が認められるのは,生後3~4ヵ月以降である.そのため,メラトニンを産生分泌する松果体と視交叉上核の間の神経連絡が構築され,かつ松果体でメラトニンを十分に分泌する能力を獲得するのに,3ヵ月間かかることが予想される.
一方,出生直後の赤ちゃん(早産児・正期産児)の未熟な生物時計のシステムを,胎児期の母体信号のようにサポートする方法はいくつか存在する.最も影響が大きいと考えられるのは光環境である.霊長類に属する私たち「ヒト」は,げっ歯類よりも眼球網膜の光センサーの発達が早く,妊娠後期の妊娠30週前後から光を感知することができる2)17).そのため,出生時にはすでに昼夜の明暗環境を知覚することができ,この明暗環境が眼球から視神経を介して,視神経に直結する生物時計「視交叉上核」の働きを調整する.マウス新生仔の実験から,恒明環境が新生仔の生物時計を細胞レベルで乱すことが明らかになった.マウスでは生物時計の本体である「視交叉上核」は約2万個の神経細胞の集合体である(ヒトの場合,約4万個).この神経細胞一つ一つは,明暗環境ではサーカディアン・リズムをもち,24時間周期で活動レベルの上昇・下降を一斉に繰り返している.ところが,恒明環境では,この神経細胞間の協調が崩れ,個々の神経細胞がバラバラのタイミングで活動し始める.つまり,新生児の生物時計に安定した24時間のリズムを刻ませるのには,明暗環境を整えることが必要である28)29).
そして,新生児期(ヒトの生後1ヵ月以内に相当)に経験する光環境が,生物時計「視交叉上核」の特性を決める「光インプリンティング現象(光環境の刷り込み現象)」も動物モデルで報告されている.これは新生仔マウスを対象とした研究で,昼16時間・夜8時間という昼間の時間が長い光環境で保育されると,生物時計が刻む周期が短くなるという結果だ.この周期は新生仔マウスが大人になって,昼と夜の長さが同じ明暗環境(昼12時間・夜12時間)で生活しても,昼より夜が長い光環境で生活しても(昼8時間・夜16時間),新生仔期に形成されたものと同じ短い周期が維持される6).また,新生仔期に24時間明るい恒明環境で保育された新生仔マウスは成人期に昼と夜の長さが同じ明暗環境(昼12時間・夜12時間)で生活しても,睡眠・覚醒リズムが不安定になることも報告されている29).このように新生児期の光環境は,睡眠を制御する生物時計「視交叉上核」のスペックを決め,その後の睡眠の発達あるいは睡眠習慣が関連する肥満・高血圧といったさまざまな症状に影響を与えているのかもしれない.
その意味で,昼夜の区別のあるサーカディアンな光環境(明暗環境)を整え,赤ちゃん(早産児・正期産児)の睡眠発達を促すことは重要である.正期産児では,出生直後からウルトラディアン・リズムの睡眠覚醒サイクルを認め,生後3~6週の期間にサーカディアンな睡眠覚醒サイクルが出現し始める.しかし,NICUの光環境を制御しない状態で保育された早産児ではこのサーカディアン・リズムの発達が遅れることが報告されている47).一方,早産児を明暗環境のNICUで育てることで,活動リズムのサーカディアン・リズムの発達や体重増加を促進することが報告されている2)26).Rivkeesら37)は,NICUにおいて明暗環境で保育した早産児では退院後1週間ほどで活動リズムにサーカディアン・リズムを認めたが,常に暗い光環境(恒暗環境)で保育した早産児では,退院後3週間経過しないとサーカディアン・リズムを認めなかったという.つまり,明暗環境は早産児の睡眠のサーカディアン・リズムの発達を促進した可能性が示された.ただ,この研究で睡眠判定に使用されたデバイスは体動計であり,脳波計ではなかった.そのため,眼球運動や脳波を使ったポリグラフ計測から睡眠深度や睡眠のウルトラディアン・リズムの変化を正確に評価していない.また早産児を対象に異なる光環境が睡眠のウルトラディアン・リズムに与える影響をポリグラフ評価した研究も現在のところ報告されていない.
III.早産で出生した幼児には昼間の多動性と夜間の中途覚醒を認めやすい
1.早産児は幼児期にどのような生活リズム特性をもつのか?
私たちは早産児を対象に前向きコホート研究を行い,1.5歳時点における生活リズムの特性を調査した3).対象となったのは,出生体重1,500 g未満(妊娠27週~30週相当)の早産児97名と正期産児97名の2群で,前述のRivkeesら37)と同様に体動計を用い,24時間の活動量を1週間連続モニタリングした(図4).
その結果,早産で出生した幼児では,正期産児に比べ昼間の多動性と夜間の中途覚醒時間が長い傾向を認め,早産が幼児に注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)に類似した特性をもたらす可能性が示唆された(図5).また,早産児101名を対象とした前向きコホート研究では,起床時刻のばらつきが小さいほど(朝の起床時刻が安定しているほど),知的発達が良いことも明らかになった1).
この結果は,私たちと同様に早産の乳児に体動計を使用した過去の研究で10),早産児が正期産児に比べ,ADHD様症状を高い割合で認めたことと一致している.2歳以降の早産の未就学児に対してADHD様症状をスクリーニングする試みが養育者へのアンケート評価にて行われ,乳幼児期においてもADHD様症状が早産児は正期産児より有意に高い割合で検出された14)16).また,学童期の早産児においても不注意,多動・衝動性などのADHD症状をより多く認め,正期産の学童児の2.5~10倍の高い割合でADHDと診断される5)16)21).つまり,私たちが行った1.5歳時点の早産児コホート研究3)は,早産児のADHD類似特性の一面を体動計の使用により,従来のスクリーニング検査より早期に,定量的に確認できる可能性を示している.
2.なぜ早産で生まれた幼児はADHD類似特性をもつのか?
早産の主要な原因の1つは感染に伴う子宮内炎症である.子宮内炎症は一連のカスケードを通して早産の引き金となるサイトカインを上昇させる.具体的なサイトカインとして,IL-1β,TNH,IL-8,IL-6,IL-10が報告されている.以前より,子宮内炎症に伴うサイトカインが自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)を誘導する可能性が指摘されていた19).また,最近報告された「浜松母と子の出生コホート研究」から,出産後,母親から採取した臍帯血のTNF-α,MCP-1,IL-6などのサイトカイン濃度が高いほど,8歳児のADHD症状の出現率が上昇することが明らかになり,子宮内炎症がASDだけでなく,ADHDを誘導する可能性も示された43).一方,なぜ周産期におけるサイトカインの曝露が,ADHD,ASDなどの神経発達症を生む脳の神経構造・ネットワークを構築するのか,その分子生物学的メカニズムは不明である.
3.早産で出生した幼児の昼間の多動性と夜間の中途覚醒にどう対応するのか?
昼間の多動性や夜間の中途覚醒がADHD類似特性に由来するのであれば,睡眠の治療に重点をおくのではなく,神経発達症全般の症状に対して早期療育を行う戦略を選択することが適切かもしれない.ASDの診断は3歳以上,ADHDの診断は6歳以上が標準的である.米国小児科学会は,認知機能が標準範囲で,明確な症状を確認できない小児に対しASDを3歳前に診断することは難しいと判断している15).また,米国では6歳未満の未就学児へのメチルフェニデートによるADHDの治療は承認されているが,米国小児科学会はその科学的根拠は不十分としている.そのため,6歳未満の未就学児に対するADHDの診断および投薬治療は,その副作用と治療を開始しない場合のデメリットを慎重に比較することを強調し,積極的には奨励していない49).
一方,神経発達症などの確定診断前の3歳未満の早期療育が神経発達症特性を効果的に改善することが知られている.また,神経発達症リスクに対する早期療育のポイントが子どもの問題行動に対する対応にあるため,確定診断がなくても早期療育の導入が予後の改善に有効である.実際,3歳以前に行動実況中継賞賛法・CARE・parent-child interaction therapy(PCIT)などの心理プログラム・心理療法が早期療育として導入され,その効果が確認されている12)33)38).
早産の乳幼児の夜間の中途覚醒については,もともと昼間の多動性から子どもが十分遊んでいる可能性があり,昼間の遊びがもたらす疲労が夜間睡眠の質を改善しないかもしれない.そのため,正期産児と同様に,就寝2時間前には,テレビ・スマートフォン由来の光刺激を子どもから避け,生物時計がスムーズに入眠に移行できる睡眠環境を整えることが重要である4).また,就寝1~2時間前の入浴も就寝時には子どもの体温が十分下がり,寝つきが良くなることが期待される11)25).特に,早産で生まれた乳幼児のなかには夜間中途覚醒が連日1~3時間持続するケースも存在する.その結果,養育者が睡眠不足に陥り,さらにはうつ状態・うつ病に発展して,子育てに障害が出ることもある13).そのような場合,養育者に対するうつ病治療に加え,子どもへのメラトニン投薬などによる睡眠治療の検討も必要である.
睡眠改善のための乳幼児へのメラトニン投薬は,国外においては以前より行われている.特にASDの小児では血中メラトニン濃度が低い傾向があり,メラトニン補充により睡眠潜時の短縮や中途覚醒の減少を認めたとする報告がある9)23)48).そして,ASDの小児に対するメラトニン服薬の安全性についても,過去の報告に対する考察からコンセンサスがある程度得られているという考え方が多い7).一方,長期間にわたるメラトニンの副作用を検討した臨床研究は報告されていない.成人女性において,7.5~300 mgのメラトニン服薬が排卵抑制や黄体形成ホルモン低下を誘導するとの報告がある.そのため,女児に対する長期間のメラトニン投薬が性腺ホルモンの発達に与える影響を丁寧にモニタリングする必要があるかもしれない46).
IV.早産で出生した幼児への早期療育としてCAREを導入する
1.子育て支援心理プログラムCARE
私たちは早産で生まれた幼児に対してCAREを導入し,発達リスクに対する対応と養育者の育児ストレスの軽減を試みている.対象は1歳半~7歳の幼児を育てる養育者で,子ども自身ではない.心理プログラムCAREは子育て支援の側面をもち,養育者が遊びを通して子どもとの良好な関係を築き,親子間のコミュニケーションを促すことで,子どもの言語発達の促進や問題行動を減らすことを目的とする.CAREのプログラムでは,「子どもとおもちゃを使って遊ぶ」場面をロールプレイで実践して,養育者が子どもに対して取るべきスキルと避けるべきスキルをワークショップで学ぶ.このワークショップは2部構成で,「前半」では養育者が良い親子関係を築くコツを学ぶ.子どもが主導するおもちゃ遊びのなかで,養育者が取るべき3つのスキル「行動の実況中継,子どもの発語の繰り返し,具体的賞賛」を学び,ロールプレイのなかで実際に養育者が試してみることでその重要性を体感する.このロールプレイは参加している養育者同士で行い,自身の親の役を演じるだけでなく,子どもの側の役も演じることで,適切なかかわりを受けたときの子どもの気持ちも疑似体験する.同様にロールプレイのなかで,避けるべき3つのスキル「質問,命令,禁止」などの子どもが主導する遊びの楽しさを妨げる行動を避けることをトレーニングする.次にワークショップの「後半」では,子どもが養育者の指示に従いやすい状況をどう作るか,そのスキルをトレーニングする.例えば,子どもにわかりやすい指示を出すポイントや,子どもの問題行動を望ましい方向に変えるために養育者が取るべき行動について学ぶ.このCAREをベースにした5分間の遊びを毎日家庭で続けることで,子どもの言語発達を促進させ,問題行動を減少させることが確かめられている38).早産児では言葉発達のスピードが遅かったり,就学時に言語能力に問題があるケースも報告されている51).その意味でもCAREをベースとした早期療育は早産児の言語発達にも効果的である可能性が高い.また,CAREは,親子遊びのなかで行う戦略的な声かけにより,遊びに対する子どもの集中力を維持,高めることが知られている.ADHD特性をもつ幼児の遊びに対する注意持続効果も報告されている24).そのため,私たちの研究からADHD特性が示唆された早産児においても遊びに対する注意持続に貢献し,療育効果を高めることが期待される.
2.ウェブを利用したCAREをベースにした取り組みと「デジタルおもちゃ」の開発
医療資源が都市部に集中しておりCAREワークショップ受講のために地方から医療機関への長時間移動が必要な場合,あるいは新型コロナ感染症蔓延時のように集団参加による医療機関での受講が難しい場合,ウェブを利用したCAREの自宅受講が効果的である.例えば,私たちの研究グループの1つ秋田大学では,この2つの理由でウェブによるCAREワークショップを2019~2023年に計11回実施し,約150名の養育者が参加した.また私たちは,ウェブによるCAREをベースにした早期療育プログラムを効果的に行う目的で,ディスプレイ上の親子遊びに使う拡張現実化した「デジタルおもちゃ」32)を開発した(対面では,ポテトヘッドなどの実際の人形を使った親子遊びでワークショップを実施する)(図6).この「デジタルおもちゃ」を使い,自宅での早期療育を行うことにより,幼児の言語発達が促される可能性を確認した.
おわりに
睡眠にサーカディアン・リズムを認めない生後3~4ヵ月間は,赤ちゃん(新生児・乳児)にとって子宮の外の新しい環境に適応するための移行期といえる.この移行期に,赤ちゃんは自立したサーカディアン・リズムを獲得するための仕組みを自分の体の中に急速に発達させ,子宮の中の安定したサーカディアン環境を取り戻そうとしているようにもみえる.その鍵となるのが,妊娠後期からすでに機能を開始し,約24時間のサーカディアン信号を発信する生物時計「視交叉上核」である.誕生した後に「視交叉上核」と「睡眠中枢」との連絡が完成する以前の生後3~4ヵ月の期間は睡眠にウルトラディアン・リズムのみが存在し,一度「視交叉上核」と「睡眠中枢」との連絡が完成すれば,睡眠にサーカディアン・リズムが出現するというのが,背後に隠れている生物学的なストーリーなのかもしれない.
また,早産で生まれた幼児は昼間の多動性,夜間の中途覚醒というADHDに類似した特性をもつ.このような子どもの特性に対しては,睡眠の視点のみから対応しても問題を解決できない可能性がある.むしろ昼間のADHD類似特性に対応する行動実況中継賞賛法・CARE・PCITなどの心理プログラム・心理療法を導入した早期療育,そして夜間の睡眠環境整備にも配慮した1日の生活をデザインすることが重要な視点である.このような生活デザインにより,子どもの問題行動を減らし,睡眠の質を改善することで,子どもと養育者の両者の不安・疲労感を和らげ,より安心した生活を提供できるかもしれない.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 本研究班の研究に参加して頂いたご家族の皆様に感謝申し上げます.また研究成果(図6)はJST研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)産学共同(育成型)JPMJTR22R4により支援されました.
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