精神医学(psychiatry)と神経医学(neurology)は歴史的にさまざまなかかわりがあり,オーバーラップしている部分も少なからずあるものの,現在はそれぞれが独立した診療科として臨床が行われている.かつては精神医学と神経医学,そして脳病理学はほぼ同義であり,顕微鏡を用いて観察可能な物質の解明が研究の唯一の方法論であった.この方法論によって老人斑やレビー小体の発見など,神経変性疾患では着実な進展があったが,精神疾患においては発見できた物質はなく,精神疾患の研究においては,精神病理学や精神分析学といった方法論が主流となっていき,20世紀の中盤以降に精神医学と神経医学は次第に袂を分かつことになった.しかし,その後も精神医学と神経医学の境界領域は常に存在し,器質性疾患や脳損傷,神経疾患に出現する行動変容・精神症状,身体疾患に伴う精神症状などを中心として学問的関心を集めていた.実際のところ,神経疾患や神経症状の知識は精神科臨床でも重要になり,脳を侵す神経疾患では必然的に多くの精神症状や行動変容を呈しうることから,両者の境界域にある病態や臨床の理解を深めることは,より良い「脳の臨床」へとつながると考えられる.本稿では,第119回日本精神神経学会学術総会で行われたシンポジウムをもとに,両者の境界域にある病態や臨床を取りあげて,精神神経医学(neuropsychiatry)について再考する.
「精神神経医学」を再考する―精神医学と神経医学のボーダーランド―
1)東京慈恵会医科大学精神医学講座
2)東北医科薬科大学脳神経内科
3)国立精神・神経医療研究センター臨床検査部
4)愛知医科大学精神科学講座
2)東北医科薬科大学脳神経内科
3)国立精神・神経医療研究センター臨床検査部
4)愛知医科大学精神科学講座
精神神経学雑誌
126:
577-588, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-094
受理日:2024年4月15日
https://doi.org/10.57369/pnj.24-094
受理日:2024年4月15日
<索引用語:精神神経医学, てんかん, 認知症, 多発性硬化症, 神経病理>