Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第126巻第8号

特集 今,再び支持的精神療法を―不安症,物質使用症,摂食障害,心的外傷を治療する―
包括的な介入法としての支持的精神療法―特化された精神療法の技法や治療的工夫の組み入れ―
山下 達久1), 宮岡 等2)3)
1)からすま五条・やましたクリニック
2)北里大学名誉教授
3)医薬品医療機器総合機構
精神神経学雑誌 126: 521-525, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-084

 支持的精神療法は,精神科臨床において最も広く用いられている精神療法である.支持的精神療法を実施するには,他の特化された精神療法のように専門的な訓練は必要とされてないが,適切に行うには熟練が必要である.支持的精神療法の目標としては,ストレス状況や危機において低下している患者の機能を以前の水準まで回復させることであり,その人のパーソナリティを根本的に改変することはめざさない.無意識的な葛藤やそれに対する防衛の意識化もしくは洞察は避けられ,その患者特有の防衛は支持される.支持的精神療法は,特定の治療理論によらないため,これまで多くの治療者が用いてきた豊富な手段を活用し,実証的に形作られている.そのため,近年では,力動的精神療法や認知行動療法など,他の特化された精神療法の技法や治療的工夫を統合的に組み入れ,包括的な介入法となっている.

索引用語:支持的精神療法, 特化された精神療法, 治療技法, 統合>

はじめに
 支持的精神療法は,精神療法の基本的なものであり,精神科臨床では最も広く用いられている5).精神科医として精神療法を行うようになったときに,まず学ぶ精神療法が支持的精神療法であり,その後も日常臨床のなかで実践し続ける.井村らによる精神療法の分類3)では,精神療法は,(i)支持療法(supportive therapy),(ii)表現法(expressive therapy),(iii)洞察療法(insight therapy),(iv)訓練(training)に分類されるが,支持的精神療法は(i)にあたる.
 支持的精神療法は,日常の対人関係において一般的に行われている支援のやり方と共通する部分を多く含む.支持的精神療法を実施するには,他の特化した精神療法に比べて,専門的な訓練が必要とされてないので簡単であるように思われがちであるが,適切に行うには熟練した腕が必要である.
 支持的精神療法は,日常生活でのストレスを処理する患者の適応的な能力を促進するために,さまざまな技法を用いて支援する心理的な治療である.患者の現実検討をより適切なものにし,自己評価や自我機能の維持や改善,適応スキルの再獲得,改善などを目的とする.
 支持的精神療法の訓練は,他の特化した精神療法のように逐語の面接記録をもとにしたスーパービジョンを受ける機会は少なく,指導医や同僚に自分の面接について相談して助言を受けたり,症例検討会のなかで面接のやり取りについて助言を受けたりするのが一般的であろう.上級医の診察にシュライバーとして陪席するなかで面接でのやり取りを「見て学ぶ」ことは,以前から行われている教育方法である.反対に,自分の面接を指導医に同席してもらい,後で指導を受けるという方法もある.最近では,支持的精神療法のDVDなどの教材を利用することもできる6)

I.支持的精神療法の目標と適応
 支持的精神療法の目標としては,患者のストレス状況や危機において低下している機能を以前の水準まで回復させることであるが,力動的精神療法のようにその人のパーソナリティを根本的に改変することはめざさない.無意識的な葛藤やそれに対する防衛の意識化もしくは洞察は避けられ,その患者特有の防衛は支持される.
 支持的精神療法が適応となる精神疾患としては,慢性的な自我の脆弱性または欠損をもつ患者,すなわち現実検討,衝動コントロール,不安耐性,言語化能力,自己の心理的な問題を認識する能力(psychological mindedness),治療同盟をつくる能力に問題がある場合である.これには統合失調症,気分障害,器質性疾患,パーソナリティ障害,発達障害が含まれる6)
 また,さまざまな人生の危機の渦中にいる個人,もしくは災害による被害などにより精神的な混乱にある人たちへの支援にも支持的精神療法は用いられる.

II.支持的精神療法の基本姿勢
 支持的精神療法において,治療関係が安定し,作業同盟が構築するための基本姿勢として,傾聴と受容,共感と理解が重要である.

1.耳を傾けること(傾聴)と受容
 患者のいかなる訴えに対しても真摯な態度で,素直にありのままに聞く.自分の価値観や判断をすぐに述べてしまうのではなく,まずは患者が考えていること,感じていることを話してもらい,受け止めることが大切である.

2.共感とわかろうとすること(理解)
 「自分が患者の立場にあるとしたら,どのような気持ちになるだろうか」と想像しながら,患者の気持ちになって,患者の語りに耳を傾ける.患者の内的な状態を知的に理解するとともに,情緒的に受け止めることが大切である.治療者が患者に関心を示し,理解しようとすることで,患者も治療者を理解しようとする.患者が面接で話したことを治療者が覚えていることも,理解されているという感覚を患者に与える.カルテを記載しながらの評価,診察前のカルテ確認などは不可欠であろう.このような繰り返しの患者とのかかわりのなかで感情の交流が起こり,患者との心理的な距離が縮まり,治療関係が生じる.

III.支持的精神療法の基本的な技法
 支持的精神療法の技法は,治療同盟の構築,自己評価の維持・改善,スキルの構築と適応行動の回復,不安の減少と予防,気づきの拡大のための技法に分類される6).以下に,支持的精神療法の主な基本的な治療技法を挙げる.

1.指 導
 日常生活における適応上の問題について,患者が適切で合理的な判断ができ,より良く問題解決ができるように,助言,指示,忠告を与える.しかし,一方的な押し付けではなく,問題解決のためにどの方法を用いるかは,患者自身に任される.

2.保 証
 患者の問題について十分に説明を与えることで,不安や恐怖,緊張を和らげ,安心させる.安易に「大丈夫」と言うのではなく,患者に不安について十分に話してもらい,それを受け入れ理解することが大切である.

3.説 得
 病気に関する誤った考え,適応的でない行動パターンや習慣などを指摘し,改めるように説く.問題が表面的なものである場合や,治療者に対する陽性感情が強い場合,受け入れられ適応が良くなるが,治療抵抗が強まり治療中断につながることもある.その場合,患者の誤った考えや態度の背後にある欲求や感情について明らかにしてゆく表出的(力動的)なアプローチが必要となるかもしれない.表出的精神療法では,治療関係の分析を行い,患者本人が気づいていない感情や思考,要求,葛藤の役割の理解を深める.その作業をとおして,患者は意識的にそれらの葛藤を解決し,より良く統合しようと試みる2)

4.暗 示
 治療者が与えた言葉や指示を,患者が無批判に受け入れることにより,不安や緊張がなくなったり,症状が軽くなったりする.強い陽性転移のもとでの治療者から与えられた言葉は,かなり暗示的な効果をもたらす.精神療法において,治療者が意図したかどうかにかかわらず,暗示的な作用が働いている場合は少なくない.

5.称賛と是認
 称賛とは,「よくできましたね」「すごいですね」と行為について明確に賛同することで,患者の行為を強化する.是認とは,患者の意見もしくは行為を支持することで,「なるほど」「確かにそうですね」といった応答を必要とする.

6.再教育
 患者の生活史や病歴などについてよく話し合い,不適応の背後にある問題点や障害が形成されたメカニズムを整理し,患者に説明して理解してもらう.そのうえで,新しい適応の仕方や目標を教えていく.自己洞察へ導くための解釈ではなく,教育的な指導や助言が与えられる.この場合も一方的な押し付けではなく,患者が主体的に学んでいくことを支援していくことが望ましい.

7.環境調整
 困難な生活,失業,負担の多い職業,葛藤の多い恋愛など,患者にストレスとなっている社会的な生活条件を改善したり,周囲の人々の患者に対する理解を深め,対応を改善したりしてもらうことで,再適応を取り戻させる.その際に最も問題となるのは対人関係の調整である.患者の周囲の人物が強い影響力をもっている場合,その病因的な人物から隔離したり,その人物に態度を変えたりしてもらわなくては,改善がみられないこともある.

IV.支持的精神療法での特化された精神療法の技法の取り入れ
 支持的精神療法は,特定の治療概念や理論によらない.これまで多くの治療者が用いてきた豊富な手段を活用することによって,人々がどのように変化するかを理解するものである.支持的精神療法は実証的に形作られている4)とされている.したがって,支持的精神療法をプラットホームとして,種々の特化した精神療法の技法や工夫を組み込むことで各疾患や精神症状に対応できる精神療法となる.
 Dewald, P. A.1)によれば,治療は通常,支持的精神療法と表出的精神療法の2つを極とする精神力動的精神療法スペクトラム(psychodynamic therapy spectrum)内に位置するとされる.この支持的―表出的連続体では,支持的要素が強い順に,支持的な関係,カウンセリング,支持的精神療法,支持的―表出的精神療法,表出的―支持的精神療法,精神分析とされる.
 このうち,支持的精神療法に表出的な要素を加えた支持的―表出的精神療法では,(i)症状を改善し,自己評価や自我機能,適応スキルの維持や再獲得,改善のために直接的な手法を用いる.(ii)こうした目標を達成するのに必要な範囲内で,現実のあるいは転移上の対人関係,および過去と現在の情緒的反応または行動パターンを検討する.力動的精神療法を学んだ臨床家が行っている支持的精神療法は,これに相当するかもしれない.
 また,認知行動療法や家族療法など特化された精神療法では,長時間のセッションでのパッケージ化された治療となっているため,日常の保険診療による精神科臨床における短時間の診療では実施困難である.このため,通常の支持的精神療法に特化された精神療法の技法や工夫を取り入れ,「○○療法的アプローチ」を実践しているのが実情であろう.そのため,近年,支持的精神療法は力動的精神療法や認知行動療法など他の特化された精神療法の技法や治療的工夫を統合的に組み入れ,包括的な介入法となっている6)
 今回の特集では,精神科一般臨床で行われている支持的精神療法について,不安症,物質使用症,摂食障害,心的外傷を診ていくために必要な治療技法や工夫を各専門家から解説するが,臨床家は日常診療の自分自身の支持的精神療法について点検し,磨きをかけていくことが必要と思われる.

おわりに
 一般精神科診療で行われている支持的精神療法について概説を行った.支持的精神療法において,支持的精神療法の基本的なアプローチを自分がどのように実践しているか,患者の病態に合わせて治療関係を構築・維持する基本的な支持的なアプローチと,再適応のための変化をもたらす介入をどのようなバランスで行っていくかについて絶えず観察と評価が必要である.
 せっかく特化された精神療法の技法や治療的工夫を学んでも,診察時間の短い精神科外来診療のなかでそのまま実践することは困難であるが,それを通常の支持的精神療法の技法にどのように組み込んで行うか,統合的アプローチを絶えず意識しながら,診察を行う必要がある.

 編  注:本特集は第119回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに永田利彦(壱燈会なんば・ながたメンタルクリニック)を代表として企画された.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) Dewald, P. A.: Psychotherapy: A Dynamic Approach, 2nd ed. Basic books. New York, 1971

2) Gabbard, G. O.: Psychodynamic Psychiatry in Clinical Practice, 5th ed. American Psychiatric Association Publishing, Washington, D. C., 2014 (奥寺 崇, 権 成鉉, 白波瀬丈一郎ほか監訳: 精神力動的精神医学―その臨床実践―, 第5版. 岩崎学術出版社, 東京, 2019)

3) 井村恒郎, 池田由子: 心理療法. 臨床心理 (日本応用心理学会編, 心理学講座第7巻). 中山書店, 東京, 1954

4) Novalis, P. N., Rojcewicz, S. J. Jr., Peele, R.: Clinical Manual of Supportive Psychotherapy. American Psychiatric Press, Washington, D. C., 1993

5) Werman, D. S.: The Practice of Supportive Psychotherapy. Brunner/Mazel, New York, 1984 (亀田英明訳: 支持的精神療法の上手な使い方. 星和書店, 東京, 1988)

6) Winston, A., Rosental, R. N., Pinsker, H.: Learning Supportive Psychotherapy: An Illustrated Guide. American Psychiatric Association, Arlington, 2012 (大野 裕, 堀越 勝, 中野有美監訳: 動画で学ぶ支持的精神療法入門. 医学書院, 東京, 2015)

Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology