認知症を的確に早期診断し,治療・対応・ケアに結びつけていくことは精神科医にとって喫緊の課題である.認知症の鑑別には大きく2つの段階に分けることができる.すなわち,まず第1段階として認知症か否かの鑑別があり,認知症以外の疾患の中核は精神・神経疾患である.第2段階は,認知症であると考えた場合,認知症内のいかなる臨床診断になるかの鑑別である.本稿では,主にこの第1段階に焦点をあて,認知症と他の精神疾患を鑑別することの意義と課題について述べた.当然ながら,両者を鑑別することの意義は疾患ごとの早期の適切な治療・対応につなげることである.しかし,今日的視点からは,両者は単に鑑別の対象のみならず,むしろ併存や精神疾患から認知症への移行,あるいは危険因子としての役割もクローズアップされている.したがって,横断面の診断のみならず,慎重に中長期的な縦断経過をみていく必要がある.その点をふまえたうえで,認知症と他の精神疾患との鑑別,特に気分障害,妄想性障害,発達障害についてコツとポイントを述べた.認知症と老年期うつ病の鑑別には,アパシーと抑うつなどの臨床症候を的確に捉え,失語や視空間認知障害などの神経心理学的所見を参照することが有用である.老年期の妄想症(遅発性パラフレニア)は近年,very late-onset schizophrenia-like psychosisとして注目されているが,少なくとも一部は認知症に移行することが知られている.臨床画像相関や臨床病理相関からは,アミロイドパチー,シヌクレオパチー,タウオパチーといった多様な背景をもつことが想定される.これらの高齢者で比較的よくみる病態以外に,最近では高齢発症の双極性障害や,高齢になって顕在化してきた発達障害(自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症,発達性読み書き障害)との鑑別が問題となるケースが増えてきている印象がある.
認知症と他の精神疾患との鑑別診断のポイント:概論
慶應義塾大学予防医療センター
精神神経学雑誌
126:
442-447, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-073
https://doi.org/10.57369/pnj.24-073
<索引用語:老年期うつ病, 老年期双極性障害, アパシー, 老年期妄想性障害, 発達障害>