Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第126巻第4号

特集 アタッチメントとトラウマの混在病理にどう介入するか?
乳幼児の愛着の評価と養育者支援
青木 豊1)2)3)4)
1)あおきメンタルクリニック
2)東京医科歯科大学
3)早稲田大学社会的養育研究所
4)東海大学医学部
精神神経学雑誌 126: 263-271, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-043

 乳幼児虐待・ネグレクトは,児童虐待全体のなかでも比較的件数が多く,死亡率は高く,社会・情緒的予後がそれ以降の虐待・ネグレクトより悪いことが知られている.また,虐待・ネグレクトによる愛着とトラウマの混在病理は,発達病理学的観点に立てば,乳幼児期がその起点となっていることも多い.本論の目的は,テーマを「乳幼児の愛着の評価と養育者支援」とし,虐待臨床にかかわっている専門家の実践に資することである.まず,主要な文献を以下のようにまとめた.愛着の定義について明確化した.逆境体験―特に虐待・ネグレクトは,その特異的病理が愛着とトラウマの問題であるため,愛着の評価が必須である.それら評価については,愛着はその安定の程度(適応度)の観点からスペクトラムとしてとらえられ,愛着の問題は,適応度の高い順から,非安定型の愛着,特に未組織/無方向型愛着,愛着関連障害に分けられた.愛着について構造化された評価法は,愛着関係の各要素からストレンジ・シチュエーション法(SSP),Working Model of the Child Interview,Adult Attachment Interviewなどがある.逆境体験を受けている乳幼児について,愛着の評価とともにトラウマの有無,およびその後の反応(心的外傷後ストレス障害を含む)についての評価が必要である.それら評価に基づいた愛着に基礎づけられた治療について,以下の順にまとめた.介入のための基礎的知見として,愛着関係には「関係性特異性(relationship specificity)」が存する.介入は家庭から分離された場合と在宅で,支援のあり方ケースが異なる.愛着関係改善への技法は,主に養育者支援になる.欧米において治療効果にエビデンスのある愛着に基礎づけられたプログラムが多く開発されており,その一部がわが国に輸入されている.これらプログラムにはトラウマ反応へのアプローチが含まれていることが多い.上記,文献のまとめの後に,以下の2点に焦点を絞り考察した.第1に,愛着の問題と愛着関連障害を区別することが生産的であり,愛着の問題を「愛着問題スペクトラム」という概念でとらえることを提案した.第2に,乳幼児期に愛着とトラウマとの問題が併存した場合,以降の発達病理のラインの1つに,発達性トラウマ障害から複雑性心的外傷後ストレス障害に至る軌跡が想定されることを示唆した.

索引用語:愛着の問題, アセスメント, 愛着に基礎づけられた介入>

はじめに
 乳幼児期の逆境体験の代表の1つである虐待・ネグレクトは,以下に示す理由から特異性・重要性があると考えられている.第1に,全児童虐待・ネグレクト件数に占める就学前のそれは比較的大きい.厚生労働省23)が公表している児童相談所が虐待・ネグレクトとして処遇している全件数のうちで,その割合は2018年度は約46%,2019年度は約45%である.第2に,被虐待・ネグレクトで死亡している全件数のうち0歳の比率は,上記統計によれば2019年度は47.5%,3歳以下で77.0%を占めている.量,重症度ともに乳幼児虐待・ネグレクトが切迫感をもって支援しなければならない所以である.第3に予防的な観点がある.より早期の虐待・ネグレクトなどの逆境体験が,それ以降の虐待・ネグレクトより,脳に器質,機能的なより陰性の影響を与え15)35),社会・情緒的発達により重度の陰性の影響を与えるとの所見20)27)40)がある.これら状況やエビデンスは,乳幼児期の逆境体験,とりわけ虐待・ネグレクトがわが国の精神保健の重要な課題であることを示している.また,被虐待・ネグレクト乳幼児の特異的精神病理が愛着とトラウマの病理であることから13)18),これら乳幼児に対して,愛着の評価と,トラウマの有無およびトラウマ後の反応とその病理についての評価もまた必須となる.
 本論の目的は,「乳幼児の愛着の評価と養育者支援」をテーマとしてまとめ,虐待臨床にかかわっている専門家の実践に資することである.まず,逆境にさらされた乳幼児の愛着の問題について主要な文献を総括し,トラウマの問題についても同様の方法で短くまとめた.その後,以下の2点に絞って考察を加えた.第1に「愛着の問題」と愛着関連障害との区別を議論し,「愛着問題スペクトラム」という概念を提案した.乳幼児虐待・ネグレクトの評価について特に混乱がみられる「愛着の問題」について,同提案が臨床実践に資すると考えたためである.第2に,乳幼児期における愛着とトラウマの病理の併存の仕方とその後の発達病理の軌跡について考察した.
 本論は,以下の背景から作成された.第117回日本精神神経学会学術総会,シンポジウム「アタッチメントとトラウマの混在病理にどう介入するか?」において,著者は「乳幼児の愛着とトラウマの評価と親子への支援―乳幼児期における混在病理のあり方―」というテーマで発表する機会を得た.その発表の一部を本論としてまとめた.同シンポジウムでは,上記テーマに沿って,小児期逆境体験,とりわけトラウマ体験をも受けた子どもを対象として発表と議論がなされた.そのため,本論においても逆境にさらされた乳幼児について「I.文献・議論のまとめ」としてまとめ,そのなかにトラウマの問題も加えた.また,考察の第2のテーマとして,愛着とトラウマの病理双方を扱った.この考察により,被虐待・ネグレクト乳幼児についての理解が,児童から成人に至る愛着とトラウマの混在病理に対して,有用な観点を提示できると考えたためである.
 誌面の限界上,評価と支援の理論的枠組みと評価法や支援プログラムのリストを紹介し,詳細な評価の方法と観点や支援の仕方などについては記載しない.文献などからそれら詳細を調べていただければと思う.
 ちなみに本論では愛着をアタッチメントと同義として,愛着という表現で統一する.

I.文献・議論のまとめ
1.乳幼児期における愛着の評価
1)愛着の定義
 「愛着(アタッチメント)」という用語は,専門家のなかでは,主に4つの意味で用いられている4)24)51).第1は,「愛着行動(attachment behavior)」,第2は,「2人の人間の間の情緒的結びつき・絆(attachment bond)」を指す.
 第3の用法は,乳幼児の行動を制御している複数のシステム〔行動制御システム(behavior control system)〕―神経学的には脳に存するシステム―の1つとして用いられる.この用法がBowlby, J.(1907/1990)に始まる愛着専門家らの用いる中核的概念である1)10)19).愛着行動制御システムは,痛み,恐怖,養育者との分離,見知らぬ人・場所などの活性化因子により活性化して,乳幼児を2つの目標に突き動かす.1つは外的な目標であり,愛着対象(親など)に接近することである.もう1つの目標は内的なもので,安全感・安心感を得ることである.感受性のある愛着対象は,(養育行動制御システムに突き動かされて)乳幼児に接近し,慰めを与える.乳幼児は養育者に接触し(抱かれ),安心感を得ることになり,乳幼児内に存する愛着行動制御システムは脱活性化して,養育者から少しずつ離れて外界を探索できるようになる(探索システムの活性化).
 第4の用法は,「愛着関係(attachment relationship)」である.養育者との関係性が乳幼児の精神保健に著しく重要であること,介入への応用に有益であることなどの理由で,この用法は,近年より重視されるようになった3)4)36)39).愛着関係とは,乳幼児と養育者の間にある多様な関係性の領域のなかの一領域で,乳幼児が慰めを求めたときに養育者が精神的に受容したり,情緒的に応答したり,安全を守ったりする領域のことを指す.
 上記の文献群では共通して4つの要素が愛着関係を構成している.すなわち,乳幼児の愛着行動制御システムが活性化した際に,乳幼児が自身と養育者をどのように表象し〔すなわち乳幼児のinternal working model(内的作業モデル)〕,行動(愛着行動)するか(この2つの要素を合わせて乳幼児の愛着と仮定する)と,養育者がどのようにその子どもの行動を表象し(養育者のinternal working model),行動(養育行動)するか,の4つの要素である.van IJzendoorn, M. H. らは膨大な実証研究を基盤に代表的な概念化モデルを提案した44).青木4)は,van IJzendoornらのモデルを改変して,特に臨床的視点から介入技法に応用できる概念化を提案している.青木4)のモデルでは,愛着関係は,養育者の愛着についての表象(内的作業モデル),養育感受性(主に子どもの愛着が活性化した際の養育者の行動),子どもの愛着の3つの要素が影響しあっていると考えられている(図14)44).愛着関係を概念化することにより,臨床家が愛着関係の改善のための介入支援の際に,どの要素に直接介入するかがより明確になるとされている3)4)36)39).例えば養育者の愛着表象に精神療法的アプローチを行うか,感受性に行動療法的なガイダンスを施行するか,などの選択である.
2)逆境体験を受けている乳幼児に対する愛着および愛着関係の評価
 愛着の発達は人間の社会・情緒的発達の基盤の1つと考えられているため19)24),一般に乳幼児精神医学・保健の領域において,欠かせない評価の1つである.小児期逆境体験の代表的なものの1つである虐待・ネグレクトによる乳幼児の特異的病理は,愛着とトラウマの問題であると考えられている13)18).そのため,本論が議論する対象乳幼児の評価には,「愛着の問題」の評価は必須である31)
 「愛着の問題」は大きく2つに大別される4).1つは,発達心理学(いわゆる愛着研究)の成果である,愛着の非安定型,とりわけ未組織/無方向型(disorganized/disoriented type:D型)の愛着である4)51).あと1つは,児童精神医学・心理学の研究から主に発した,精神疾患・障害としての愛着関連障害である.D型は,ストレンジ・シチュエーション法(Strange Situation Procedure:SSP)1)によって分類された非安定型のなかで最も安定性の低い愛着の型と考えられている.実際,被虐待・ネグレクト幼児とその養育者とでSSPを施行すると,幼児の約80%がこのD型であった12)
 しかし,この型は,SSPによって分類されたものであり,概念上は精神疾患ではない9)51).現在,公式にコンセンサスを得られている愛着に関連した障害・精神疾患,すなわち愛着関連障害は2つのみ存する.それら2つが,ICD-1047)とDSM-52)に記載されているほぼ等価の2つの障害である.1つが,反応性愛着障害であり,もう1つが脱抑制型対人交流障害である.これら2つの障害は,重度の社会的・情緒的ネグレクトが病因である点でも共通している2)47)
 まず,愛着の型としての「問題」の評価には,対象養育者がそこにいて,幼児の愛着が活性化している状況で,D型の子どもに観察されるdisorganized behaviors(以下,D行動)を評価する必要がある.分離・再会場面や,子どもが苦痛の状態にあるときの行動を評価する.構造化された評価法としてはゴールドスタンダードとしてSSPが存する1).一方,愛着関係に注目するのであれば,より多くの要素を評価する必要が生じる.van IJzendoornらのモデル44)や青木のモデル4)を参照し,子どもの愛着システム活性化時の,親の行動(感受性)を観察する必要があり5),養育者の表象―愛着表象(working model)についても評価することが望ましい5)11)49)50).後者の評価は,その養育者にそのとき(例えば,分離・再会場面)の気持ちを聞いてみることで探求することができる.半構造化面接としてはWorking Model of the Child Interview49),van IJzendoornらのモデル44)ではAdult Attachment Interview(AAI)26)がある.また,愛着関連障害の評価については,DSM-52)の症状記載が利用できる.
 さて,愛着が逆境体験によってどの程度の傷害を受けているかについて,評価することもまた臨床上重要となる4)9)31).そのため,D型の愛着の問題と,愛着関連障害とが,どのように重なりあるいは異なっており,愛着の問題の重症度の観点からどのように位置づけられるのかを仮定することは,臨床家に大きな手助けとなる4)9).非安定型愛着をもった乳幼児は,特定の養育者に愛着は形成しているものの,この安定度が低い.一方,2つの愛着関連障害はともに,重度の社会的ネグレクトのために,愛着の形成がないか形成不全がみられる51)52).そのため,Boris, N. W. ら9)は,型分類のD型の愛着よりも,愛着関連障害のほうが,愛着の適応度は低いと推測し,愛着の型と関連障害というそれぞれの範疇を,愛着の適応度の程度順に仮説的に配置した(図2).この仮説は,Zeanah, C. H. らの行った膨大な縦断研究(BEIP study)29)を経ても,妥当性が維持されている.これら研究では,例えば反応性愛着障害の子どもの多くが特定の養育者への愛着がなく,そのためSSPによる分類では,分類不能の子どもが多かった29)
3)乳幼児の精神病理についてその他必須の評価
 被虐待・ネグレクト乳幼児の特異的精神病理が愛着とトラウマの病理であることから13)18),トラウマの有無とトラウマ後の反応〔主にトラウマ後に生じる急性ストレス反応から心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder:PTSD)の諸症状までを指す〕からその精神病理・障害についての評価もまた必須となる.幾多の研究を経て32),2013年,DSM-5に6歳以下のPTSDの診断基準が記載されることにより,いわば公式に乳幼児期にPTSDが同定できることがコンセンサスを得た2)
 乳幼児期におけるトラウマとは,DSM-5に記載されている「実際にまたは危うく死ぬ,または重症を負うような出来事,自分または他人の身体の保全に迫る危険を,その人が体験するあるいは目撃する,あるいは,主要な養育者が死に瀕したことを知る」2)ことが中核概念であり,トラウマ後の反応とは,同診断基準のPTSD症状に記載されているものを示す.
 乳幼児期PTSDの疫学的調査はまだ十分ではない.しかし,欧米の疫学についての報告から,支援が必要な群の乳幼児において,PTSDの発生率はおおよそ25~50%に達している32)33).また,より早期により長く情緒的ネグレクトを受けた子どもと,より早期により長く虐待・ネグレクトを受けPTSDになった子どもの脳の機能的・器質的ダメージがより大きいとの研究が積み重なっている14)15).これらを総合すると,逆境体験をもつ乳幼児について,愛着の評価と併行して,トラウマの有無と,トラウマ後の反応の評価を行うことは必須といえる31).それについてはDSM-52)に明瞭な症状記載があり,評価の助けとなる.

2.愛着に基礎づけられた介入・支援
 1.に示した知見などから,逆境体験により「愛着の問題」をもった乳幼児に,愛着に基礎づけられた支援が必要なことは言を俟たない3).以下,支援のための基礎になる知見,処遇により異なる支援の大枠,介入・支援の概念化,いくつかの愛着に基礎づけられた支援のリスト,トラウマ後の反応についての対応の順に文献をまとめる.
 乳幼児期には対人関係において,関係性特異性が際立っている5)25)45)50).関係性特異性とは同一の乳幼児の異なる養育者との関係は独立しており,互いに影響を与えないとの概念である5)50).愛着関係もその1例である.例えば,同一乳幼児の母親への愛着の型と父親へのそれは必ずしも一致しない5)25)45)50).このことから,支援は問題となる愛着関係の改善あるいは,安定した愛着の新生を目標とすることになる3).乳幼児への個人療法(例えば,週1回の遊び治療)は,最も効果が少ない5)44).治療者との週1回の安定した関係は,養育者との愛着関係に影響を与えず(関係性特異性),乳幼児の発達支援に与える影響は極端に限られていることが推測される5)
 虐待・ネグレクトが同定された場合は,処遇として在宅での支援か,家庭からの分離かが選択される.在宅が選択された場合,虐待者と被虐待乳幼児の間にはすでに「愛着関係の問題」が生じており,乳幼児の愛着の型としてはすでに記したようにD型であることが80%以上と予想できる12).そこで,養育者との愛着関係自体の改善を目標とした介入が行われる.その介入のリストを後述する.分離が行われた場合,現在愛着の形成中の乳幼児に,感受性のある愛着対象(代替養育者)を与える必要がある51)52).それは里親であり,施設職員である.関係性特異性をもつ時期にある乳幼児は,代替養育者に愛着を新生すると考えられている31).その新生を促すため,里親支援が必要であり28)29),施設における愛着に基礎づけられたプログラムも有効であるとのエビデンスもある6).再統合が試みられる場合,在宅の状況と同様,虐待者と乳幼児の愛着関係の改善を目標とした介入が行われることが望まれる.
 スターン, D.N. は愛着関係(図1)を改善するために,いくつかの治療の「入り口」を概念化した38).それらは,養育者のworking model(愛着表象),養育者の養育行動,乳幼児―養育者のインターアクション,乳幼児のworking modelである.すでに記したように乳幼児への個人療法は乳幼児のworking modelを「入り口」とするが,この効果が最も低い5)44).純粋に養育者のworking modelを入口とする方法に,表象志向的親―乳幼児精神療法がある38).同療法は軽症の虐待ケースに適応されることがある5)38).しかし,欧米における同介入の対象はローリスク,すなわち乳幼児以降の発達の危険因子を多くはもっていない中産階級家族(典型的には虐待・ネグレクトはなく,経済的にも安定している)であることが多く,本論で扱うハイリスク対象(乳幼児以降の発達の危険因子を多くもっている群で,典型的には虐待・ネグレクトも多く,経済的には貧困層が多い)にはより効果が低いとされている38).養育者が自分の心のありさまを言葉で表すことが比較的得意である(精神・心理療法適応例)必要があるためである5)38).したがって,ハイリスクのサンプルに対する愛着に基礎づけられた介入は,より養育者の養育行動あるいはインターアクションを治療の「入り口」とし,養育者の愛着表象をも組み込む形の介入が多い5)38).エビデンスが一定程度まで示されている治療には以下のものがある.
 Steele, H. ら37)が編じた『Handbook of Attachment-Based Interventions』には,欧米で開発され,エビデンスが一定程度ある21個のプログラムが紹介されている.愛着に基礎づけられたアプローチの重要性と,欧米らしく個々の地域のチームが独自性を発揮し,プログラムを開発した結果が乱立している.プログラムの例は,「安心感の輪」子育てプログラム21)46),Video-Feedback Intervention to Promote Positive Parenting(VFI-SD22)17)22),Attachment and Biobehavioral Catch-Up(ABC)16),Child-Parent Psychotherapy41),Minding the Baby(MTB)34)などである.
 これら介入は愛着関係を改善すべく,多くの技法を応用・開発している.例えば,心理教育的アプローチ(すべてのプログラム),モデリング(より適応的な養育法を示す,Child-Parent Psychotherapyなど),ライブでの養育ガイダンス(すべてのプログラム),母親の愛着表象(working model)への精神分析的アプローチ(Child-Parent Psychotherapy)などである.
 これらの多くは,正式な訓練(講義やスーパービジョン)を受け,実施のいわば「許可」が必要となる.わが国でも,例えば,「安心感の輪」子育てプログラムは北川ら21)によって実施され,わが国で訓練が一部受けられる.近藤22)は,VFI-SDを輸入実行している.しかし,いまだ愛着に基礎づけられたプログラム全体の広がりは,わが国において十分ではない.
 上記介入プログラムは愛着に基礎づけられているが,同時にトラウマの病理へのアプローチも含んでいるものもある.例えば,Child-Parent Psychotherapy41),MTB34)などである.すでに述べたように,ハイリスク群を代表する虐待・ネグレクトの生む特異的病理が,愛着とトラウマの病理であるために,トラウマの病理の改善に同時に取り組むことは自然の成り行きである.

図1画像拡大
図2画像拡大

II.考察
 以下,2点に絞って考察を加えた.第1に「愛着の問題」と愛着関連障害との区別を議論し,「愛着問題スペクトラム」という概念を提案した.乳幼児虐待・ネグレクトの評価において特に混乱がみられる愛着の問題について,同提案が臨床実践に資すると考えたためである.第2に「アタッチメントとトラウマの混在病理にどう介入するか?」のテーマを背景に,愛着とトラウマの病理の併存の仕方とその後の発達病理の軌跡について考察した.被虐待・ネグレクト乳幼児に対する臨床についての理解が,児童から成人に至る愛着とトラウマの混在病理に対して,有用な観点を提示できると考えたためである.

1.「愛着の問題」と愛着関連障害との区別について―愛着問題スペクトラム―
 愛着に問題がある場合,その子どもを「愛着障害」と表現することがよくみられる.すでに述べたように「愛着の問題」と愛着関連障害は一致しない.これら混乱を避けるためにも,愛着の安定度・適応度を考慮し,愛着の適応度の視点から「愛着問題スペクトラム」を想定することは意義があると考えられる7).程度や質の異なる逆境体験を受けた乳幼児は,程度や質の異なる「愛着の問題」をもつに至る.ここで提案する「愛着問題スペクトラム」は,以下の順序で適応度が低下していく.すなわち,非安定型の回避型,抵抗型,D型,愛着関連障害の順である.安定型の愛着のみが,「愛着問題スペクトラム」には含まれないとする.明示すべき点は,「スペクトラム」という用語を含んだ「自閉スペクトラム症」とは異なり,「愛着問題スペクトラム」は障害ではない.同スペクトラムの最重症の非適応度をもつものに愛着関連障害が含まれる.このスペクトラム概念を仮定することで,愛着に問題が生じた際,程度・質を臨床家・支援者は評価することができ,介入計画を立てやすい.例えば,非安定型でも回避型,抵抗型の場合,見守りとしてのフォローアップと必要な支援が計画されるかもしれない.D型は,より詳細なアセスメントと,場合によっては緊急の処遇が必要かもしれない.愛着関連障害と診断されれば,愛着の未形成あるいは形成不全という最重度の問題が想定され,緊急の家庭からの分離が推奨される51)52)
 これら愛着問題スペクトラムへの介入・支援は,すでに述べたように,愛着に基礎づけられた治療を含むことが望まれる.同治療では,子どもを介入の「入り口」とはせず,養育者により近い要素(養育者の愛着表象,養育者の養育行動,養育者と子どものインターアクション)を「入り口」とすることが多い.そのため,乳幼児期においては,愛着に基礎づけられた介入は,「養育者支援」の色合いが濃い.

2.愛着とトラウマの病理の併存の仕方とその後の発達病理の軌跡
 これまでまとめたように,乳幼児期の虐待・ネグレクトの特異的病理は愛着とトラウマの病理である13)18).この2つの病理が同時に生じる可能性も高い.例えば,深刻な身体的虐待などがそうである.さらにそれらが長期にわたり複数回起こることも多い.ここに乳幼児期においても長く議論されてきたトラウマ―愛着問題が生じる30)
 これら病理は発達を経て,少なくともその一部が発達性トラウマ障害(developmental trauma disorder),複雑性PTSDに進展してゆく可能性がある.なぜなら,第1に,現時点ではICDとDSMにはいまだ掲載されていない発達性トラウマ障害は,複数の被虐待歴を含む逆境体験をもつ子どもの病理と想定されており,トラウマと愛着の問題を含んでいると考えられているためである42)43).第2に,ICD-1148)に掲載された複雑性PTSDは,長期反復性外傷(特に対人関係トラウマ)後の症候群であり48),PTSDの病理と安定した愛着スタイルの形成不全が病理の中核と考えられている8)ためである.今後,乳幼児期の愛着―トラウマ問題が,重度の複雑な病理をもつ子どもの発達性トラウマ障害と成人の複雑性PTSDの起源と位置づけられる可能性は高い7).この発達精神病理の軌道を想定することで,複数の長期的な逆境体験を受けた個人の病理をより的確に把握し,より有効な治療を行いやすくなる可能性がある.そのため,乳幼児期のトラウマ―愛着問題について,その病理の成り立ちや構造,精神疾患・精神障害としての位置づけなどを含めた多くの疑問に対して研究・議論が期待される.

おわりに
 乳幼児の精神病理,特に愛着の観点から,評価,治療,支援,アプローチをまとめた.逆境体験にさらされ,愛着に問題をもっている子どもに対して,早期介入の必要性を強調したい.これら子どもはその時点ですでに精神病理をもっている可能性が高く,それ以降の社会・情緒的発達が大きな危機にさらされているからである.
 また,本論で主に対象とした家族は,ハイリスクな家族である.愛着に基礎づけられたアプローチは,多機関による多次元的・包括的支援を構成する1つの要素と考えられる.わが国において,支援資源は発展途上である.そのため,これらアプローチが不十分にしか行われていない状況であろうと推測される.愛着(の問題)の評価,それに対する支援,トラウマの併存問題の解明とその評価・支援について,わが国においても,多くの試みと研究が求められる.

 編  注:本特集は第117回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに小平雅基(総合母子保健センター愛育クリニック)を代表として企画された.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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25) Main, M., Weston, D. R.: The quality of the toddler's relationship to mother and to father: related to conflict behavior and the readiness to establish new relationships. Child Dev, 52 (3); 932-940, 1981

26) Main, M., Kaplan, N., Cassidy, J.: Security in infancy, childhood and adulthood: a move to the level of representation. Growing Points of Attachment Theory and Research (ed by Bretherton, I., Waters, E.). University of Chicago Press, Chicago, p.66-104, 1985

27) Manly, J. T., Kim, J. E., Rogosch, F. A., et al.: Dimensions of child maltreatment and children's adjustrment: contributions of developmental timing and subtype. Dev Psychopathol, 13 (4); 759-782, 2001
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28) 御園生直美: 乳幼児虐待における里親支援. 乳幼児虐待のアセスメントと支援 (青木 豊編). 岩崎学術出版社, 東京, p.192-209, 2015

29) ネルソン, C. A., フォックス, N. A., ジーナー, C. H.: ルーマニアの遺棄された子どもたちの発達への影響と回復への取り組み―施設養育児への里親養育による早期介入研究 (BEIP) からの警鐘― (上鹿渡和宏, 青木 豊, 稲葉雄二ほか監訳). 福村出版, 東京, 2018

30) 奥山眞紀子: アタッチメントとトラウマ. アタッチメント―子ども虐待・トラウマ・対象喪失・社会的養護をめぐって― (庄司順一, 奥山眞紀子ほか編). 明石書店, 東京, p.143-176, 2008

31) 奥山眞紀子, 青木 豊: 虐待とネグレクト. 乳幼児精神保健の基礎と実践 (青木 豊, 松本英夫編). 岩崎学術出版社, 東京, p.104-113, 2017

32) Scheeringa, M. S., Zeanah, C. H., Myers, L., et al.: New findings on alternative criteria for PTSD in preschool children. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry, 42 (5); 561-570, 2003
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33) Scheeringa, M. S., Zeanah, C. H.: Reconsideration of harm's way: onsets and comorbidity patterns of disorders in preschool children and their caregivers following Hurricane Katrina. J Clin Child Adolesc Psychol, 37 (3); 508-518, 2008
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34) Slade, A., Simpson, T. E., Webb, D., et al.: Minding the Baby: Complex Trauma and Attachment-Based Home Intervention. Handbook of Attachment-Based Interventions (ed by Steele, H., Steele, M.). Guilford Press, New York, p.151-173, 2018

35) Stamoulis, C., Vanderwert, R. E., Zeanah, C.H., et al.: Early psychosocial neglect adversely impacts developmental trajectories of brain oscillations and their interactions. J Cog Neurosci, 27 (12); 2512-2528, 2015
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36) Steele, H., Steele, M., Fonagy, P.: Associations among attachment classifications of mothers, fathers, and their infants. Child Dev, 67 (2); 541-555, 1996
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37) Steele, H., Steele, M. (Eds): Handbook of Attachment-Based Interventions Guilford Press, New York, 2018

38) スターンD. N. (馬場禮子, 青木紀久代訳) : 親―乳幼児心理療法―母性のコンステレーション―. 岩崎学術出版社, 東京, 2000

39) Suess, G. J., Grossmann, K. E., Sroufe, L. A.: Effects of infant attachment to mother and father on quality of adaptation in preschool: from dyadic to individual organization of self. Int J Behav Dev, 15 (1); 43-65, 1992

40) Thompson, R. A.: Early Attachment and Later Development: Reframing the Questions. Handbook of Attachment: Theory, Research, and Clinical Applications (ed by Cassidy, J., Shaver, P. R.). Guilford Press, New York, p.330-348, 2016

41) Toth, S. L., Michl-Petzing, L., Guild, D., et al.: Child-Parent Psychotherapy: Theoretical Bases, Clinical Applications, and Empirical Support. Handbook of Attachment-Based Interventions (ed by Steele, H., Steele, M.). Guilford Press, New York, p.296-317, 2018

42) van der Kolk, B. A.: Developmental trauma disorder: toward a rational diagnosis for children with complex trauma histories. Psychiatr Ann, 35 (5); 401-408, 2005

43) van der Kolk, B. A.: The Body Keeps the Score: Brain, Mind and Body in the Healing of Trauma. Penguin Books, London, 2014 (柴田裕之訳: 身体はトラウマを記録する―脳・心・体のつながりと回復のための手法―. 紀伊國屋書店, 東京, 2016)

44) van IJzendoorn, M. H., Juffer, F., Duyvesteyn., M. G.: Breaking the intergenerational cycle of insecure attachment: a review of the effects of attachment-based interventions on maternal sensitivity and infant security. J Child Psychol Psychiatry, 36 (2); 225-248, 1995
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45) van IJzendoorn, M. H., De Wolff, M. S.: In search of the absent father: meta-analyses of infant-father attachment: a rejoinder to our discussants. Child Dev, 68 (4); 604-609, 1997
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46) Woodhouse, S. S., Powell, B., Cooper, G., et al.: The Circle of Security Intervention: Design, Research, and Implementation. Handbook of Attachment-Based Interventions (ed by Steele, H., Steele, M.). Guilford Press, New York, p.50-78, 2018

47) World Health Organization: The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines. World Health Organization, Geneva, 1992 (融 道男, 中根允文ほか監訳: ICD-10精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン―, 新訂版. 医学書院, 東京, 2005)

48) World Health Organization: 6B41 Complex posttraumatic stress disorder. 2018. ICD-11 Mortality and Morbidity Statistics (https://icd.who.int/browse11/l-m/en) (参照2024-02-07)

49) Zeanah, C. H, Benoit, D.: Clinical applications of a parent perception interview in infant mental health. Child Adolesc Psychiatr Clin N Am, 4 (3); 539-554, 1993

50) Zeanah, C. H., Boris, N. W., Scheeringa, M. S.: Psychopathology in infancy. J Child Psychol Psychiatry, 38 (1); 81-99, 1997
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51) Zeanah, C. H., Boris, N. W.: Disturbances and disorders of attachment in early childhood. Handbook of Infant Mental Health, 2nd ed (ed by Zeanah, C. H.). Guilford Press, New York, p.353-368, 2000

52) Zeanah, C. H., Gleason, M. M.: Annual research review: attachment disorders in early childhood: clinical presentation, causes, correlates, and treatment. J Child Psychol Psychiatry, 56 (3); 207-222, 2015
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