電気けいれん療法(ECT)は欧米では1940年代から静脈麻酔薬が使用され,その後,骨折予防のため筋弛緩薬を用いた修正型ECT(mECT)が行われるようになった.日本では1958年に初めてmECTが行われ,精神科が総合病院の診療科の1つとして位置づけされてからは,総合病院では麻酔科と連携したmECT,精神科単科病院では静脈麻酔薬だけを用いたECTが主流となった.2002年にパルス波治療器の使用が可能となり,精神科単科病院でもmECTが行われるようになった.2018年には,麻酔科標榜医が麻酔を行った際の麻酔管理料が加算されるようになり,精神科単科病院でも麻酔科標榜医が麻酔を行うことも増えてきたが,麻酔科医確保の問題もあり,精神科医が麻酔を行っている施設もあるのが現状である.2022年にはmECTで主流であったスキサメトニウムが供給停止となり,一時,精神科単科病院でのmECT施行が困難となった.ECTでは,静脈麻酔薬自体の抗けいれん作用のため,麻酔管理の工夫も必要である.有効なけいれんを得るため,麻薬指定薬剤の使用による静脈麻酔薬の減量,経時的な麻酔深度の測定による通電のタイミングの決定などが行われている.また,症例の高齢化により,有害事象予防のための周術期管理も必要となってきている.ECTは急激な循環動態の変動をきたすため,循環作動薬を使用してその変動を最小限にしなければならない.心房細動,脳梗塞などの既往の増加,深部静脈血栓症・肺塞栓症の予防のために抗凝固薬の使用が増え,出血などにも注意が必要である.新しい薬剤や機器の導入によりECTの麻酔管理も進歩してきたが,効果的なけいれんを得ることだけでなく,有害事象の予防や対応を考え,個々の患者の全身状態や合併症に応じた周術期管理や麻酔方法を考えなければならない.
ECTの麻酔管理の変遷―最新の麻酔管理を中心に―
東京都立病院機構東京都立豊島病院精神科
精神神経学雑誌
126:
799-805, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-129
https://doi.org/10.57369/pnj.24-129
<索引用語:電気けいれん療法, 麻酔, 筋弛緩薬, 抗凝固薬>