電気けいれん療法(ECT)は欧米では1940年代から静脈麻酔薬が使用され,その後,骨折予防のため筋弛緩薬を用いた修正型ECT(mECT)が行われるようになった.日本では1958年に初めてmECTが行われ,精神科が総合病院の診療科の1つとして位置づけされてからは,総合病院では麻酔科と連携したmECT,精神科単科病院では静脈麻酔薬だけを用いたECTが主流となった.2002年にパルス波治療器の使用が可能となり,精神科単科病院でもmECTが行われるようになった.2018年には,麻酔科標榜医が麻酔を行った際の麻酔管理料が加算されるようになり,精神科単科病院でも麻酔科標榜医が麻酔を行うことも増えてきたが,麻酔科医確保の問題もあり,精神科医が麻酔を行っている施設もあるのが現状である.2022年にはmECTで主流であったスキサメトニウムが供給停止となり,一時,精神科単科病院でのmECT施行が困難となった.ECTでは,静脈麻酔薬自体の抗けいれん作用のため,麻酔管理の工夫も必要である.有効なけいれんを得るため,麻薬指定薬剤の使用による静脈麻酔薬の減量,経時的な麻酔深度の測定による通電のタイミングの決定などが行われている.また,症例の高齢化により,有害事象予防のための周術期管理も必要となってきている.ECTは急激な循環動態の変動をきたすため,循環作動薬を使用してその変動を最小限にしなければならない.心房細動,脳梗塞などの既往の増加,深部静脈血栓症・肺塞栓症の予防のために抗凝固薬の使用が増え,出血などにも注意が必要である.新しい薬剤や機器の導入によりECTの麻酔管理も進歩してきたが,効果的なけいれんを得ることだけでなく,有害事象の予防や対応を考え,個々の患者の全身状態や合併症に応じた周術期管理や麻酔方法を考えなければならない.
https://doi.org/10.57369/pnj.24-129
はじめに
電気けいれん療法(electroconvulsive therapy:ECT)は当初,無麻酔で行われていた3).欧米では1940年代から患者の不安を取り除くために静脈麻酔薬が使用されるようになり,けいれんによる骨折予防のために,筋弛緩作用をもつクラーレが筋弛緩薬として使用された1).クラーレは作用時間が長いことが問題であったため,1952年にHolmberg, G.とThesleff, S.が安全性の高い筋弛緩薬であるスキサメトニウムの使用を提唱し6),以後,現在までスキサメトニウムがECTの代表的な筋弛緩薬として用いられている.日本では1958年に島薗らが静脈麻酔薬と筋弛緩薬を用いたECTを行った22).その後,日本でも精神科が総合病院の1つの診療科として位置づけされるようになり,総合病院の精神科では麻酔科と連携した修正型ECT(modified ECT:mECT),精神科単科病院では麻酔設備や麻酔科医の確保が困難な状況であったために静脈麻酔薬だけを用いたECTが主流となっていた.2002年にパルス波治療器の使用が可能となり,この治療器がmECTでのみの使用が許可されているために,精神科単科病院でもmECTが行われるようになってきた7).2018年には,麻酔科標榜医がmECTの麻酔を行った際に麻酔管理料900点が加算されるようになったため,精神科単科病院でも麻酔科標榜医がmECTの麻酔を行うことも増えてきてはいるが,麻酔科標榜医の確保の問題もあり,精神科医が麻酔を行っている施設もあるのが現状である.最近の話題としては,2022年にECTで主流であった脱分極性筋弛緩薬のスキサメトニウムが供給停止となり16),供給が再開されるまでは非脱分極性筋弛緩薬のロクロニウムを使用せざるを得ない状況となったが,一時,精神科単科病院でのECT施行が困難となった.
ECTの麻酔では,静脈麻酔薬自体に抗けいれん作用があるため,麻酔管理による治療効果への影響も大きく,麻酔管理の工夫も必要である.有効なけいれんを得るための方法としては,レミフェンタニルやケタミンなど麻薬指定薬剤の使用による静脈麻酔薬の減量4)24),麻酔深度の測定を経時的に行うBispectral Index(BIS)モニターを用いた通電のタイミングの決定5)19)などが実際に行われている.
また,症例の高齢化によって,合併症や施行時の有害事象予防のために,術前管理が必要となる症例が増えてきている.心房細動,脳梗塞などの既往の増加,精神科領域での深部静脈血栓症・肺塞栓症の予防のために抗凝固薬の使用が増えており,口腔内出血などの有害事象に対しても,さらに注意が必要となってきている.
I.静脈麻酔薬
日本でECTの麻酔で使用される頻度の高い静脈麻酔薬はプロポフォールとチオペンタールである.プロポフォールは外科手術の麻酔でも使用頻度が高く,気管支拡張作用もあるため,気管支喘息合併症例に対しても安全に使用することができる.デメリットとしては血管拡張作用が強く,急激な循環動態の変化が起こるため,心機能の低下した患者では慎重な使用が求められることと,propofol injection painという血管痛がある.また,卵・大豆アレルギーのある患者には慎重投与となっている.一方,チオペンタールは気管支収縮作用があり,重症気管支喘息患者には禁忌である.末梢血管拡張作用はあるもののプロポフォールよりも作用は弱い.けいれん時間への影響については一定の結論が出ていないが,プロポフォールからチオペンタールに静脈麻酔薬を変更することで有効なけいれんを得られることもある.
II.筋弛緩薬
ECTで主に使用されている筋弛緩薬は脱分極性筋弛緩薬であるスキサメトニウムである.筋弛緩効果は9~10分程度で消失するため,気道トラブルなどがあっても致死的な状況となる可能性が非脱分極性筋弛緩薬よりも低く,精神科単科病院でもECT施行時の筋弛緩薬として使用されている.一方,非脱分極性筋弛緩薬であるロクロニウムは現在は外科手術の麻酔で汎用されている筋弛緩薬である.効果時間は30分と長く,筋弛緩からの回復には拮抗薬であるスガマデクスの投与が必要となる.ECTで使用されることもあるが,スガマデクスの薬価が高く,複数回行われるECTではコスト面での問題もある.
このように,ECTでは主にスキサメトニウムが筋弛緩薬として使用されているが,2022年にスキサメトニウムの出荷停止期間があり入手困難となったため,ロクロニウム・スガマデクスを代替薬として使用することとなり,日本精神神経学会のECT・rTMS等検討委員会(現精神科医療機器委員会)では使用ガイドを作成した18).使用時の注意点としては,気道管理,アナフィラキシー,残存筋弛緩・再クラーレ化がある.
III.ECTにおけるロクロニウム使用時の注意点
1.気道管理
スキサメトニウムは血液中のコリンエステラーゼで分解され,9~10分前後で筋弛緩効果が消失する.そのため,静脈麻酔薬投与前に3分間以上の100%酸素投与を行っていればマスク換気が困難な状況であっても致死的な状況を回避できる可能性が高い.しかし,ロクロニウムの筋弛緩作用は30分であるため,マスク換気ができないような気道トラブルでは致死的な状況になりうる.日本麻酔科学会では「気道管理ガイドライン」を作成している15).ECTの気道管理は,基本的にマスク換気可能なグリーンゾーンだが,ロクロニウム使用による残存筋弛緩やロクロニウム・スガマデクス両薬剤によるアナフィラキシーが懸念される.日本麻酔科学会のガイドラインを参考に,状況に応じて適切な気道確保方法を選択することが望ましい.
ECTの麻酔導入時にマスク換気ができない際には,両手でのフェイスマスク保持に変更し,別の者にバッグを押してもらう,もしくは人工呼吸器を使用しての換気を試みる.また,経口および経鼻エアウェイによる気道確保も試みる.それでも難しければ気管挿管や声門上器具(supraglottic airway device:SGA)の使用を試みる.どちらを先に検討するかは,個々の症例あるいは麻酔施行者によって異なるため,これについてはそのつど,現場で判断しなければならないが,気管挿管が難しければSGAを優先して使用する.SGAでの気道確保が難しければ,速やかにスガマデクス投与を検討し,自発呼吸の回復を試みたほうがよい.SGAによる換気状態が不十分の場合には,重篤な低酸素血症と高二酸化炭素血症から発生しうる重症不整脈や心停止に備え,緊急カートも要請されるべきである.オピオイドが投与されている場合には,オピオイドの拮抗薬の投与も効果的な場合がある.
2.アナフィラキシー
周術期の重篤な有害事象の1つとして,アナフィラキシーがある.日本アレルギー学会は,「アナフィラキシーとは,アレルゲン等の侵入により,複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され,生命に危機を与え得る過敏反応」「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシーショック」と定義している14).全身麻酔中のアナフィラキシーの原因の50~70%が筋弛緩薬ともいわれている12).日本麻酔科学会では「アナフィラキシーに対する対応プラクティカルガイド」を作成している17).
筋弛緩薬であるロクロニウムのアナフィラキシーは麻酔開始の早い段階でアレルギー反応がみられるが,筋弛緩拮抗薬であるスガマデクスは通常,手術の終わりに投与されるため,今までであれば予期しない時間帯にアナフィラキシーが起こりうる23).ECTであれば,施行室から退室した後に起こることも考えられる.ニュージーランドでの観察研究では,スキサメトニウムとロクロニウムによるアナフィラキシーの推定発生率がそれぞれ0.048%,0.04%20),また,日本ではスガマデクスによるアナフィラキシーの発生率は0.039%と推定されており,ロクロニウム,スガマデクス,スキサメトニウムによるアナフィラキシーの発生率はほぼ同等であると報告されている13).スガマデクスによるアナフィラキシーは用量に関連するともいわれており2),アナフィラキシーの発生率を低下させるためには最小有効量を投与するのが望ましいが,ECTの場合にはロクロニウムを投与してから早期に筋弛緩を拮抗しなければならないために高用量のスガマデクスの投与が必要と考えられ,さらに注意が必要である.
アナフィラキシーの初期治療としては,気道の確保・呼吸の補助・循環の維持を図ることが重要であり,適切なアドレナリンの投与と高濃度酸素の吸入,十分な補液を行う.アナフィラキシーショックでは,心肺蘇生に準じた治療が必要となる.ECT施行時のアナフィラキシーおよびアナフィラキシーショック発生時にも同様の治療が必要である.6~8 L/分で100%酸素投与を行い,低酸素血症を防ぐ.血圧低下については,軽度の場合にはエフェドリンやフェニレフリンなどの昇圧薬を使用し,皮膚粘膜所見が全身的で,血圧低下が改善しないときには,アドレナリンを投与する(低血圧:0.2 μg/kgを静脈内投与.循環虚脱:0.05~0.3 mgを静脈内投与.静脈路がないとき:0.3 mgを筋肉注射).また,血圧が回復するまで輸液を行い,可能であれば18ゲージなど,通常のECT施行時の静脈ルートよりも太い静脈路を確保する.重症アナフィラキシーショックの死亡症例では,喉頭・咽頭浮腫や舌の浮腫の発現頻度が高いため,そのような所見がみられた際には積極的に気管挿管も行い,喉頭・咽頭浮腫の程度を確認したうえで抜管時期を決定する.
3.残存筋弛緩・再クラーレ化
スガマデクスの投与量が十分でないと筋弛緩作用が残存する残存筋弛緩,再クラーレ化が起こりうる.残存筋弛緩とは筋弛緩薬が残存しているために筋弛緩状態が継続した状態のことである.安定した呼吸状態になく,呼吸抑制,誤嚥など術後肺合併症のリスクファクターとなる.筋弛緩が継続している状態では,嚥下反射が消失し誤嚥しやすい状況になる.誤嚥した内容物によっては,肺炎・窒息・急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)などの重篤な有害事象を引き起こす可能性がある.再クラーレ化とは,いったん回復した神経筋収縮反応が再度低下する状態を指す.ロクロニウムではこの再クラーレ化をきたす可能性がある.術後,回復して安定したはずの呼吸状態が,病棟に戻ってから再度悪化し,呼吸停止などの致死的な状況に陥ることもある.このような状況に陥らないためには,筋弛緩モニターの使用により,筋弛緩の程度を確認し,適切な用量のスガマデクス投与により筋弛緩が十分に回復の確認したことを確認することが勧められる.
IV.Bispectral Index(BIS)モニタリング
BIS値とは脳波の周波数変動とamplitudeを解析して鎮静度を数値化(0~100)したもので,数値が高いほど覚醒度が高い.40~60が全身麻酔時の至適深度である.通電前のBIS値と質の高いけいれんには関連があり,また,静脈麻酔薬投与から通電までの時間が長いほうが効果的なけいれんを得られると報告されている5).術中覚醒とならない必要な鎮静レベルを保った状態で通電を行うのに,BISモニタリングが使用されることがある.また,BIS値が60以上で通電を行ったほうが有効なけいれんを得られるという報告もある19).BIS値は直前の1分間の脳波から数値を算出しているため,急激な脳波変化をとらえるには適してはいないが,参考にすることは可能である.後述する麻薬指定薬剤の使用時に静脈麻酔薬を減量する際にも術中覚醒の予防に有効である.
V.麻薬指定薬剤の使用
有効なけいれんが得られないときにテオフィリンやフルマゼニルの投与が行われることもあるが,遅発性のけいれんやけいれん重積の報告もある.そのため,近年では麻薬指定薬剤であるレミフェンタニルやケタミンの使用によって,静脈麻酔薬の使用量を減らす方法がとられるようになってきている4)24).レミフェンタニルは超短時間作用性オピオイド鎮痛薬であり,作用発現まで時間が短く(約1分),消失も早い(5~10分).有害事象として筋硬直や声門閉鎖があり,マスク換気が困難となるため,そのような場合には速やかに筋弛緩薬を投与する必要がある.
ケタミンはけいれん閾値を上昇させないため,ECTでの鎮静薬として単独もしくは他の静脈麻酔薬に併用して使用される.有害事象としてせん妄や幻覚,高血圧や頻脈,口腔内分泌物の増加などがある.また,脳圧亢進作用があるため,脳圧亢進患者には禁忌である.
VI.循環作動薬の使用
ECTでは通電直後は副交感神経刺激により一時的な徐脈,時には心静止も観察される9).この後,交感神経が活性化され頻脈となり,このときに不整脈やST変化が起こることもある.一方,血圧は静脈麻酔薬による血管拡張作用で下がり,通電により惹起された交感神経の活性化により血圧が上昇する.このようにECTは急激な循環動態の変動をきたすために致死的な状態ともなりうる.近年では症例の高齢化もあり,循環器疾患合併の症例も多くなってきているため,循環作動薬を使用することで変動を最小限にコントロールしている.ECTで使用頻度の高い循環作動薬および,その血圧・心拍数に対する効果を図に示した.
β拮抗薬は高血圧や頻脈を安定化させる.半減期の短いエスモロール,ランジオロールが使用されることが多い.エスモロール,ランジオロールともに心拍数を安定化させるが降圧作用は小さい.通電前に使用するとランジオロールはけいれん時間を短縮させないが21),エスモロールは短縮させるとの報告がある25).
Caチャネル拮抗薬は血圧を下げる作用がある.ニカルジピンは血管拡張作用が強く,後負荷を軽減させるため,β拮抗薬や硝酸薬と比べ通電後の心収縮能を低下させないという報告もある8).
心静止や徐脈の予防に抗コリン薬であるアトロピンの予防投与を行うこともあるが,使用による頻脈性不整脈に注意しなければならない.
VII.循環器疾患合併のECT
ECTでは,通電後に急激な頻脈・高血圧が起こるため,高血圧の合併があれば内服薬と血圧コントロールの状態を確認しておく.また,施行当日の服薬も事前に相談しておく.動脈硬化,脱水があると血圧変動も大きいため,麻酔導入時の血圧低下には注意しなければならない.虚血性心疾患の合併では,術前の問診で運動能力を聞いておく.運動耐容能が4 METs以上であればおおむね手術には耐えられるといわれている.通電による頻脈から虚血になることもあるため,術前の心拍数コントロール,麻酔導入時の低血圧(特に拡張期圧)に注意が必要である.心房細動の合併した症例では,抗凝固療法がしっかりと行われているか術前採血でプロトロンビン時間-国際標準化(prothrombin time-international hormalized ratio:PT-INR比),リズムよりも心拍数のコントロールができているか確認しておく.
VIII.QTc延長とtorsades de pointes
向精神薬にはQT時間を延長させる薬剤があり,多形性心室頻拍TdP(torsades de pointes)が発生する可能性を念頭に入れておかなければならない.薬剤誘発性のTdP移行へのリスク因子としては,QTc>500 ms,女性,低K血症,除脈,心房細動の除細動直後,うっ血性心不全,左室肥大,糖尿病,高い薬物血中濃度,未診断の先天性QT延長症候群,DNA多型などがあるが,ECTによってQT dispersion(12誘導間のQT間隔の空間的ばらつき)が増大し,致死性不整脈の誘発につながっている可能性もある26).リスク軽減のためには,事前に突然死の家族歴・失神の既往などの病歴聴取をしておく,ECT施行前のECG,薬剤による高度のQT延長があれば中止あるいは変更,薬剤を変更した際に再度ECGを行うなどが必要である.通電前にオピオイドであるレミフェンタニルを投与することによって,QT dispersionの増大を抑えることができるという報告もある10).
IX.ECTと抗凝固薬
近年は抗凝固薬を内服している患者が増えてきており,ECTでも内服している症例数が増えてきている.症例の高齢化による心房細動,脳梗塞などの既往の増加や,精神科領域での深部静脈血栓症,肺塞栓症の治療・予防によるものと考えられる.近年使用頻度が増えてきている薬剤に直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)がある.ワーファリンなどは用量設定に採血による凝固系の評価が必要であったが,DOACは特別なモニタリングが必要なく,一定の用量で投与可能であり容易に使用できる.適応疾患は,非弁膜性心房細動による血栓・塞栓症予防,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)および肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)の治療・予防であり,長期臥床・身体拘束などのDVT・PEの予防として服用可能で精神科領域での使用頻度も増えてきている.
出血リスクがあるため,通常の手術であれば術前にDOACの内服を中止するが,ECTでは出血リスクが少ないと考えられ,継続されていると考えられる.また,ECT対象となる症例は長期臥床・身体拘束中であることも多く,DVTやPEのリスクから継続されていることも多い.抗凝固薬内服中のECT施行時の注意点として,口腔内の出血がある.ECT施行時には歯牙や舌の損傷の有害事象が最も多いという報告もある11).精神疾患患者は口腔ケアが十分でないことも多いため,動揺歯や脱落している歯の有無,義歯も術前に確認し,通電時のマウスガード挿入には注意しなければならない.抗凝固薬内服中であると,歯牙の脱落や口腔内の損傷で出血がなかなか止まらず,止血のための外科的処置が必要となることもある.さらに,抗凝固薬内服中で高血圧合併・出血の既往の症例では出血のリスクも高くなるため,ECT施行時の血圧コントロールも必要となってくる.
おわりに
このように,新しい薬剤や機器の導入によりECTの麻酔管理も進歩してきているが,効果的なけいれんを得ることだけでなく,有害事象の予防や対応を考え,個々の患者の全身状態や合併症に応じて周術期管理や麻酔方法を考えなければならない.
編注:本特集は第119回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに髙橋英彦(東京科学大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野)と鮫島達夫(福井記念病院)を代表として企画された.
なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
1) Bennett, A. E.: Preventing traumatic complications in convulsive therapy by curare. JAMA, 114 (4); 322-324, 1940
2) BridionⓇ Prescribing Information (https://www.merck.com/product/usa/pi_circulars/b/bridion/bridion_pi.pdf) (参照2024-09-03)
3) Cerletti, U., Bini, L.: Un nuevo metode di shockterapie "L'elettroshock". Boll Accad Med Roma, 64; 136-138, 1938
4) Fond, G., Bennabi, D., Haffen, E., et al.: A Bayesian framework systematic review and meta-analysis of anesthetic agents effectiveness/tolerability profile in electroconvulsive therapy for major depression. Sci Rep, 6; 19847, 2016
5) Hanss, R., Bauer, M., Bein, B., et al.: Bispectral index-controlled anaesthesia for electroconvulsive therapy. Eur J Anaesthesiol, 23 (3); 202-207, 2006
6) Holmberg, G., Thesleff, S.: Succinyl-choline-iodide as a muscular relaxant in electroshock therapy. Am J Psychiatry, 108 (11); 842-846, 1952
7) 一瀬邦弘: わが国の電気けいれん療法 (ECT) の現況―日本精神神経学会ECT検討委員会の全国実態調査から―. 精神経誌, 113 (9); 939-951, 2011
8) Kadoi, Y., Saito, S., Takahashi, K., et al.: Effects of antihypertensive medication on left ventricular function during electroconvulsive therapy: study with transthoracic echocardiography. J Clin Anesth, 18 (6); 441-445, 2006
9) Kadoi, Y.: Selection of Anesthetics and Muscle Relaxants for Electroconvulsive Therapy. Anesthesia Management for Electroconvulsive Therapy (ed by Saito, S.). Springer, Berlin, p.49-65, 2016
10) 景山めぐみ: 修正電気痙攣療法に伴うQT dispersionの増大に対するレミフェンタニルの抑制効果. Dokkyo J Med Sci, 40 (1); T37-45, 2013
11) Martin, D.: Dental issues related to ECT. The ECT Handbook, 3rd ed (ed by Waite, J., Easton, A.). RCPsych Publications, London, p.87-93, 2013
12) Mertes, P. M., Alla, F., Tréchot, P., et al.: Anaphylaxis during anesthesia in France: an 8-year national survey. J Allergy Clin Immunol, 128 (2); 366-373, 2011
13) Miyazaki, Y., Sunaga, H., Kida, K., et al.: Incidence of anaphylaxis associated with sugammadex. Anesth Analg, 126 (5); 1505-1508, 2018
14) 日本アレルギー学会anaphylaxis対策特別委員会: アナフィラキシーガイドライン. 2014
15) 日本麻酔科学会: 日本麻酔科学会気道管理ガイドライン2014 (日本語訳)―より安全な麻酔導入のために―. 2014 (https://anesth.or.jp/files/pdf/20150427-2guidelin.pdf) (参照2024-09-03)
16) 日本麻酔科学会: スキサメトニウム注射剤の安定供給について. 2023 (https://anesth.or.jp/users/news/detail/63c1062b-55c4-4251-a0b1-10219dcdd4c6) (参照2024-09-03)
17) 日本麻酔科学会安全委員会アナフィラキシーに対する対応プラクティカルガイド作成ワーキンググループ: アナフィラキシーに対する対応プラクティカルガイド. 2021 (https://anesth.or.jp/files/pdf/response_practical_guide_to_anaphylaxis.pdf) (参照2024-09-03)
18) 日本精神神経学会: 修正型電気けいれん療法 (m-ECT) の筋弛緩法におけるロクロニウムとスガマデクスの使用ガイド. 2023 (https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/guide_20230920.pdf) (参照2024-09-03)
19) Nishihara, F., Saito, S.: Adjustment of anaesthesia depth using bispectral index prolongs seizure duration in electroconvulsive therapy. Anaesth Intensive Care, 32 (5); 661-665, 2004
20) Reddy, J. I., Cooke, P. J., van Schalkwyk, J. M., et al.: Anaphylaxis is more common with rocuronium and succinylcholine than with atracurium. Anesthesiology, 122 (1); 39-45, 2015
21) Sakamoto, A., Ogawa, R., Suzuki, H., et al.: Landiolol attenuates acute hemodynamics responses but does not reduce seizure duration during maintenance electroconvulsive therapy. Psychiatry Clin Neurosci, 58 (6); 630-635, 2004
22) 島薗安雄, 森 温理, 徳田良仁: 電撃療法時におけるSuccinylcholine Chloride (S. C. C) の使用経験. 脳と神経, 10 (3); 183-193, 1958
23) Takazawa, T., Miyasaka, K., Sawa, T., et al.: 日本でのスガマデクス使用とスガマデクスによるアナフィラキシー発生の現状. APSF Newsletter, 1 (3); 11-12, 2018 (https://www.apsf.org/ja/article/日本でのスガマデクス使用とスガマデクスによる/) (参照2024-09-03)
24) Takekita, Y., Suwa, T., Sunada, N., et al.: Remifentanil in electroconvulsive therapy: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci, 266 (8); 703-717, 2016
25) van den Broek, W. W., Leentjens, A. F., Mulder, P. G., et al.: Low-dose esmolol bolus reduces seizure duration during electroconvulsive therapy: a double-blind, placebo-controlled study. Br J Anaesth, 83 (2); 271-274, 1999
26) Yamaguchi, S., Nagao, M., Ikeda, T., et al.: QT dispersion and rate-corrected QT dispersion during electroconvulsive therapy in elderly patients. J ECT, 27 (3); 183-188, 2011