Advertisement第121回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第126巻第11号

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特集 次世代の精神医学研究のあり方―知の統合による課題解決に向けて―
神経科学と科学技術ガバナンス
標葉 隆馬
大阪大学社会技術共創研究センター
精神神経学雑誌 126: 742-747, 2024
https://doi.org/10.57369/pnj.24-120

 科学技術研究の急速な発展は同時に,その知識が社会のなかで実装され,根付いていくために検討が必要な種々の倫理的・法的・社会的課題(ELSI)も可視化してきた.新しい知識は「誰に」「どのような」ベネフィットをもたらすのか,それは図らずも特定の層に差別や不公正を生み出すなど,リスクの不均衡な配分を生成・強化するようなことはないか,そして新しい知識のベネフィットを最大化し,リスクを最小化するためにはどのようなガバナンスが必要なのか.このような問いが各国の科学技術政策においても重要な関心事項となっている.「科学技術ガバナンス」の観点からは,科学技術をめぐるELSIや構造的課題を可能な限り早い段階から分析しながら,社会との間で論点の共有と議論を行い,その幅広いインパクトを含めて社会のなかに適切に位置づけていく道筋を洞察していくことが肝要となる.このようなELSIを含む科学技術と社会との界面にかかわるテーマ群は,近年では「責任ある研究・イノベーション(RRI)」の枠組みのもとで議論されることが増えてきている.神経科学分野の事例に目を向けるならば,このような議論は欧米におけるHuman Brain ProjectやBRAIN Initiativeなどの大規模研究プログラムとリアルタイムに並走する形で行われ,なかには「脳神経関連権(neurorights)」のように,脳神経科学の成果へのアクセスとその不利益からの自由を積極的な権利概念として提案する議論なども生じつつある.本稿では,このような神経科学と科学技術ガバナンスをめぐる国際的な文脈を整理しながら,国内における今後の課題を検討する.

索引用語:倫理的・法的・社会的課題, 責任ある研究・イノベーション, 科学技術政策, 脳神経関連権>
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