Advertisement第122回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第125巻第12号

特集 医療観察法医療における治療技法―一般臨床への般化・還元をめざして―
包括的暴力防止プログラム(CVPPP)の一般精神医療への展開
下里 誠二
信州大学学術研究院保健学系
精神神経学雑誌 125: 1049-1057, 2023
https://doi.org/10.57369/pnj.23-149

 包括的暴力防止プログラム(CVPPP)は『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律』(以下,医療観察法)の施行に伴って開発され,医療観察法の指定入院医療機関を中心に展開されてきた.その後徐々に一般精神医療にも導入され,現在では厚生労働省の精神科医療体制確保研修事業にも取り入れられている.欧米では暴力をマネジメントするトレーニングプログラムはAggression Management Training Program(AMP)と総称され,数多くのモデルがあるが,エビデンスが得られにくいこと,身体介入による事故の問題,その他強制的な介入によって起こるネガティブな心理的作用などについて,さまざまな議論がある.英国の保安病院におけるControl and Restraint(C&R)法をモデルにしたCVPPPも欧米と同じような課題を抱えており,これは強制性を伴う精神科医療のなかで,安全管理の重視か,ケアとしてのperson―centeredなアプローチの重視かという二項対立的な問題や,暴力の定義の複雑性がもたらす判断の難しさに関係している.さらに医療者,当事者双方が被害者,加害者いずれにもなりうるため,「誰の目からみた暴力なのか」という点も併せて考えていくべきである.CVPPPは近年,recovery-orientedでperson-centeredな理念をもったプログラムへと進みつつあるが,依然として存在する課題の解決には当事者と医療者が共同主体となっていくことが求められる.本稿では現在一般精神医療にも浸透しつつあるCVPPPについて,その背景や開発に至る経緯を振り返り,欧米の流れを概説するとともに,精神科における暴力のマネジメントプログラムについての将来的な展望について述べた.

索引用語:攻撃性, 暴力, 精神科看護, CVPPP>

はじめに
 本稿では,ケアという視点から暴力への対処を試みるモデルとして,『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律』(以下,医療観察法)の施行に伴って開発された包括的暴力防止プログラム〔Comprehensive Violence Prevention and Protection Program:CVPPP. 開発時点では英国のControl and Restraint(C&R)を参考にしたためイギリス英語で表記していたが,現在はアメリカ英語で統一している〕について論じる.
 精神科で起こる暴力は複雑で,一括りに語ることはできないが,ここではCVPPPの開発・普及の経緯から,精神科における暴力への対応の視点の変化を改めて顧みる.そして現在のCVPPPの理念,方法論,課題などについてふれることで,一般精神医療における暴力へのケアとしての対応技術に焦点をあてて述べたい.

I.CVPPPで扱う暴力
 暴力はわれわれの周りにあふれており,現代は暴力に向き合う時代である.戦争や紛争といった多くの犠牲者を伴う暴力の問題から,いじめや虐待といった問題,さらにはヘイトスピーチ,SNSへの暴力的書き込み,差別に起因するマイクロアグレッションと呼ばれるような問題も存在している.労働環境でも暴力は大きな問題であり,米国の国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health:NIOSH)は,タイプI:無関係な人による犯罪,タイプII:当事者などからの暴力,タイプIII:労働者間の暴力,タイプIV:労働者のパートナーなどからの暴力という4つのworkplace violenceの類型26)を示し,また対策についても指針を出している.病院ではタイプIIの暴力が救急部門などを中心に関心が高まっており38),さらには認知症介護や身体介護の現場での介護者への暴力,そして介護者への影響41)なども注目されている.さらにはタイプIIIに該当する同僚からの暴力32)ということも議論されるようになった.
 精神科で起こる暴力は世界的にも長きにわたる重大な関心事である.看護学の分野では,今なお暴力は研究の一大関心領域であり,主に2通りの焦点のあて方がある.1つは精神科での暴力に対する専門的なケアとしての対応に関する議論であり6),もう1つは労働衛生的な意味で従業員の被暴力体験を扱うworkplace violenceの問題として職員を守る方法の検討である.本稿では前者を扱うが,一般精神医療で起こる暴力のなかには後者のような警察対応が必要な場合があり,労働安全の視点から暴力に対して毅然と対応することが求められる.通報や応援,記録体制などの整備など必要な体制づくりについては職能団体などから出されている指針を参考にするとよい.
 さて,精神科での暴力については,暴力が引き起こすトラウマという問題を抜きにしては語れなくなってきた41).当事者自身がさまざまな暴力にさらされて受けたトラウマが反応として職員への激しい攻撃になることもある.われわれは全員が傷つく状況から抜け出す方法を求めている.他方,今もなお起こる障害者への虐待問題は,目にみえる虐待にとどまらず,治療方針や規則に従わせるような医療者から当事者への強制力の行使という形で医療を強制されること自体に潜む暴力性にも目を向けるべき問題である.さらには暴力について,何を暴力とするか,は実に曖昧である.さしあたり単純に「人または物に対して脅威を与える攻撃的行動」としておくとしても,暴力は,権力関係や,欲求,不満,憎しみなどさまざまに張り巡らされた力(force)の均衡が突き出た状態であり,その事象ごとに力が公共の場を壊すものである.そして暴力はその責任性,意図性,加害性,正当性など,さまざまな概念層がさまざまな程度で混ざり合うことによって暴力性の色調がきまる複雑な問題である12).この複雑性は「暴力」「暴力性を帯びたもの」「暴力ではないもの」を明確に区分することを困難にし,暴力へのケアを難しいものにしている.

II.精神科病院における暴力対応の歴史とCVPPPの始まり―英国C&Rから学んだもの―
 わが国では精神科病院での暴力への介入は専ら看護者,特には(屈強な)男性看護者に任されてきた.日本で最古の精神看護学の教科書といわれる1901(明治34)年の『癲狂院における精神病看護学』には,「止むを得す手を下さざるべからす其の手を下すときは看護人は必ず患者を勞わるの心を以てせさるべからす…」28)と,身体的介入の基本的態度が伝えられている.しかし,現実には「暴力への対応」については議論されることなく20)27),男性看護者の間で口頭伝達的に伝えられてきた.ここでも看護者に保安要員としての役割を求めようとするものと,そうではなくケアとしての対応方法を探そうとするものがあったが,実際には男性看護者には前者が期待された.こうした考え方の違いは世界的にも同様で,Björkdahl, A.ら3)はバレエダンサー的アプローチ,すなわち芸術的な感受性,非言語的なメッセージを大事にして,ケアしようとするものと,ブルドーザー的アプローチ,患者個人より病棟の安全を第一に,病棟を守ることを重視し,力を盾として保護するアプローチという比喩表現を用いている.前者は当事者中心のケアを重視し,後者は暴力を排除し管理する立場であるが,前者は「スタッフの権利擁護はないのか」という声が上がりやすく,後者は当事者に敵対的な姿勢が生じやすくなる.
 こうしたなか,医療観察法の成立に伴い,著者は2002年厚生労働省精神科急性期医療等専門家養成研修として半年間,英国で学ぶ機会を得た.このとき看護師のコースだけに暴力のマネジメントプログラムであるC&Rという1週間のトレーニングが組まれていた.C&Rは刑務所のC&R Prison Serviceを改変したもので29),文献検討やディスカッションの時間もあったが,大部分は身体的介入の練習であった.身体的介入のひとつひとつの動きに合わせて「Thank you for your cooperation」と当事者に声をかけることも手順の1つであり,それまで系統的な技術を知らなかった著者にとっては,このことのほうが重要であると感じられた.当初日本でこれを伝えたものの,あまり意識化はされなかったように思うが,兎にも角にも欧米で取り組まれていた暴力への系統的アプローチの方法は,日本のCVPPPのモデルとなった.

III.Aggression Management Training Programの流れ
1.Aggression Management Training Program
 CVPPPのようなトレーニングプログラムはAggression Management Training Program(AMP)と総称されることがある15).世界中に多くのプログラムが存在し,その多くは企業化され管理されて具体的な内容は公開されていないが,予防,ディエスカレーション,身体的介入,クライシスマネジメント,報告,デブリーフィング,トラウマ,セルフコントロール,施設のプロトコルなどが含まれているとされる.CVPPPは書籍として(修正すべき点は多々あるにせよ)公開されている点でも稀有なプログラムといえる.ほとんどのプログラムは予防より危機管理に焦点をあてていて,ブレイクアウェイ法や身体的介入法が含まれている2).AMPの効果研究ではアウトカムは発生件数や強制介入率が用いられるが,エビデンスは明確ではない.一方,他の指標として看護師の態度や自信の変化が検討されており4),少なくとも態度や自信の変化にはつながるという報告が多い.
 英国では国立医療技術開発機構(National Institute for Health and Care Excellence:NICE)が精神科の暴力に対するガイドラインを出しており,最新版は2015年版24)であるが,その前の2005年版23)には,当時のイングランドのトレーニングコースの50%で痛みの利用(意図的に当事者に痛みを与える方法)について伝えているとされ,最終手段としての身体的介入時に「痛みを与えることのないよう,あらゆる努力をすべき」「意図的に痛みを与えることは治療上の価値がなく,スタッフ,サービス利用者,その他を直ちに救助するためにのみ正当化される」と表記された.Person―centered careが必要であるとは記載されているが,この時期には身体的介入の方法論に焦点があたっていた印象であった.著者が受講したC&Rの練習でも,「この技術を当事者に知られてしまうと,対策されてしまうから当事者には知られてはいけない」と非公開で行われており,秘密裏に保安的抑制術を習う,という姿勢を反映していた.
 しかし,2015年版のupdate edition25)では,身体的介入が当事者にとって,恐怖,痛み,怒りなどの否定的な態度,トラウマにつながることについて言及され,スタッフにも否定的感情が起こることが記述されている.徒手拘束に対する痛みの利用には記述はないが,制限的介入全般について痛みを与えるために用いてはならないとされている.リスクアセスメントを当事者とともに行うこと,制限的介入に関するadvance decision(拒否したい制限的介入の事前指示)あるいはadvance statement(自分の希望,感情,信念,価値観を表明しておくもの)といった事前の意思決定を尊重するよう求めており,当事者参加という姿勢を強くしている.身体的介入とそのトレーニングについては必要と考えながらも,全体的にはアセスメントやディエスカレーションなど制限的介入を予防する方法が強化された.
 こうした流れのなか,精神科における権威主義的な文化の存在が,患者の攻撃性と暴力の重要な危険因子3)として,AMPでもtrauma-informed careやperson-centerednessの重視4)5),recovery-orientedであること8),また,当事者の視点を取り入れるべきという主張がなされるようになっている.NICEのガイドラインもこうした流れを受けて2019年に修正が加えられている.英国ではお互いをよく知ることなどが重視されたSafewards11)や,コントロールするのではなく,ケアするという姿勢のRESPECT18)も推奨されるようになってきた.これらはCVPPPでも同様に強調していることであり,CVPPPのあり方も世界的な時流に乗っていると考えている.

2.AMPとしてのCVPPP
 CVPPP自体もやはり2005年開始当時からケアと安全管理という二項対立的な様相のなかで逡巡してきた.めざしていたのはケアでありながら,どこかで医療者のための戦略的な記述に向かってしまいそうになる.ケアのために,と言いながら当事者がこんな暴れ方をしたらどうしたらいいか,という練習になり,「暴力という方法しか取れないでいる当事者」ではなく「加害者としての当事者」像が強くなる.最初のCVPPPのテキストの刊行の際,向谷地19)は「大人数でかかわり,抑制してケアする.濃厚なケアが暴力のサイクルを回す.必要なのは『助けに来たよという援軍としての姿勢』である」という羅針盤を示してくれた.それでも危機管理としての身体的介入に焦点があたり,CVPPP=制圧術という意識のほうが強くなっていた.
 中井21)はCVPPPについて「だからつい患者さんと対立するような感じを持ってしまいます.今度はじめて,暴力についてのテキストブック(『医療職のための包括的暴力防止プログラム』医学書院)が出ましたけれども,これも最初はちょっとそういう感じがありました」と述べている.「最初は」としていたのは日本初の取り組みに対する深い仁恕によるもので,本当は「今でもまだまだ」と仰りたかったのではないかと慮っている.
 身体的介入の技法が注目されるにつれ,「CVPPPはケアの方法である」という建前はありつつも,SNSなどでは「CVPPPは武闘家」「演習はとっくみあい」「現場では抑えつけるしかない」といった表現も散見された.実は欧米でも似たような過程を経ており,Paterson, B.30)らはC&Rについて,「C&Rという用語自体が身体的拘束を意味するようになった」と憂慮している.C&Rに関してはControl and RestraintからCare and Responsibilityとして再ブランド化する動きもあったようだが,実質は変化がなかった13).CVPPPも,通称CVと呼称されているが,「今からシーブイかける」などと使われるときには身体介入=CVなのであり,無意識のうちに徒手拘束術を意味している.
 しかし,そもそも身体的介入法は,権力勾配のなかでの力(force)の行使という問題を含み,それはマイノリティへの暴力的振る舞いにつながることにもなる.このため常にどうやってそれに抗うかということと向き合う必要がある.著者はこれに対して,「当事者とともにどうやってこの問題にアプローチするか」に取り組んできた.CVPPPが暴力という複雑でセンシティブな問題にあって,あらゆる立場の人とともに考えることができるツールになるべく,進めてきた34-36)43).2019年には新たにテキストを発刊34)し,3名の当事者の体験も掲載した.攻撃性をケアする自信をもてることが当事者へのネガティブな態度を減少させること33),CVPPPが当事者の攻撃に対するネガティブな態度を減らすこと15)も報告してきた.それでも身体的介入をしたくなる可能性9),ケアの名のもとに介入が正当化される危険10)という指摘にも真摯に向き合う必要があると考え,プログラムが身体的介入の方法をもつべきかどうか,について著者はこれからも考え惑うつもりでいる.

IV.暴力をケアするための方法論としてのCVPPP
1.CVPPPの現在と暴力をケアすることの理念
1)CVPPPの展開
 CVPPPは,医療観察法が施行された際の従事者研修に取り入れられた.基本はCVPPPトレーナー養成コースという4日間24時間のプログラムで,修了者はCVPPPトレーナー(欧米に倣って自施設内でプログラムを利用できる)に認定される.現在は一般社団法人日本こころの安全とケア学会によって認定されている.当初,このコースをファシリテートできるCVPPPインストラクターには,主に指定入院医療機関のスタッフがあたっていた.さらに日本精神科看護協会も研修に取り入れたこともあって,2021年までに1.3万人以上がトレーナー養成研修を受講するに至った.うち約1万人は指定入院医療機関で行われた研修を受講した(このなかには日本精神科看護協会の支部との共催のものも含んでいる).また厚生労働省「精神科医療体制確保研修(精神科病院における安心・安全な医療を提供するための研修)事業」では,「医療観察病棟を有する病院を中心に普及してきた包括的暴力防止プログラムの実績を評価し,精神科病院等に勤務する幅広い職種を対象として,当該プログラムにおける基本的考え方の普及を図るとともに,精神科病院における安心・安全の医療環境を確保する取組の一層の普及・推進を図る」となっている.
 現在,CVPPPの研修は,あくまでケアの方法を検討するものとして,すべての演習で手順の習得ではなく手順のなかに必要なケアの要素を検討するものとしている.そのため,演習では常に必要なケアは何かを検討する.抑え方ではなく支え方を考え,触れた手を通じて伝わるメッセージに焦点をあてる.力で抑えるのではなく,伝わる温かさ16)がリスクを下げる.実は新しいCVPPPのこのスタイルには抵抗も多かった.なかには「医療者は守られないのか」「当事者を守るためには手技が必要でそれを覚えるまではケアだとか言っていられない」という反応もあった.しかし当事者が安心できれば暴力のリスクは減るはずであり,それでも抑え方のほうが重要だというのは,身体的拘束の際に「とにかく安全に縛ってしまうまでは配慮などしていられない」と言っているのと同じなのではないだろうか.
2)CVPPPの理念
 暴力をケアする立場と業務の効率性を求める立場では自ずとその考え方が変わる().CVPPPの理念は「当事者も援助者もともに同じ『人』としてperson(persona)-centered22)と考え,互いに尊重され守られるべき存在」である.援助者は苦しんでいる当事者の味方となり,ケアする者として援軍となることが最も攻撃性や暴力行動のリスクを下げる34).味方,という表現が正鵠を射ているかはわからないが,Sullivan, H. S. のいう「同じコミュニティの成員」22)としての立場であって,接遇の話とは違うという主張と,業務をこなす,ということだけではなく,揺れ動きながらともに過ごすことが求められるという意味をもっている.

2.暴力をケアする方法
1)リスクアセスメント
 CVPPPは特徴的なリスクアセスメントとして瞬間的なリスクアセスメントを設定している.これは医療者が安心して手を差し伸べることができるように安全な範囲からかかわることができるように判断するものである.次に,医療者が一方的に判断しないよう,お互いを知ることを重視する.例えば「話が入らない」「聞く耳をもたない」という表現には,当事者が医療者に従わないという一方的な判断がなされている.お互いを知ることは当事者と医療者の考える保護因子のずれ14)に気がつくのに役立つ.
2)ディエスカレーション
 ディエスカレーションは,「怒りを和らげ,攻撃性を回避することを目的とした技術(言語的および非言語的なコミュニケーションスキルを含む)であり,頓用薬はディエスカレーション戦略の一環として使用できるが,頓用薬単独での使用はディエスカレーションではない」24)とされ,単なるコミュニケーションではなく,あらゆる方略を含む.CVPPPでは,「リスクアセスメントの技術で落ち着いてかかわること」に加え,言語的には「発語行為1)のなかにある『力』を意識しつつ,感謝や謝罪といった誠実さを示し,発語媒介行為に目を向けること」,非言語的には「あらゆるメッセージを受け止め,応答すること」「用意した答えではなく誠実さ」44)を重視する.当事者とともに落ち着いて安心した環境をつくるもので,ここでは共同的コミットメント17)概念の利用可能性が模索されている.
3)身体的介入
 CVPPPには身体的介入技術がある.身体的介入法は何よりも介入中のディエスカレーションを重視するため,身体的介入法の練習は「手順を覚えること」ではなく「当事者が安心できる方法」をひたすら考えるものとしている.しかし,腹臥位,手を背後に回すことなどを禁止31)とする国もあり,今後も検討が必要である.また著者は,伝統的に看護のなかで使われていた,いわゆるエスコートと呼ばれる両側から当事者を支える手法にCVPPP的な理論を加えて改良し,現在実験研究として検証中であるが,これもまた身体的拘束の一部とみなされるのであって,簡便な方法として乱用されないようにする必要がある.
4)ブレイクアウェイ
 ブレイクアウェイは叩かれる,つかまれるなど攻撃から身をかわす方法として護身術的な意味合いをもつ技術である(それゆえに医療者に受け入れられてきたのかもしれない).しかし現在は,ブレイクアウェイのなかに,どのように次のケアの方法を見いだそうとするかを重視した演習を組み立てることで,単なる護身術との差別化を図っている.
5)振り返り
 実際の暴力事象のあとに振り返りがなされることが多く,当事者に対してはつい反省を求めるもとになることがある.CVPPPでは当事者が穏やかな日常を取り戻すために強制せず,「振り返らせる」ことをしないように注意している.当事者もその生活体験やスティグマからトラウマを負っているが,当事者の激しい攻撃性にさらされると,支援者もまた大きなストレスを負うことがある.支援者の傷つきが暴力のサイクルとならないように,CVPPPではまず,理念をしっかりもつことを前提に,仲間同士のサポートが自然に形成されることをめざすものであり,暴力的な衝動に身をゆだねない回路を考えていく40)方法をこれからも検討する必要があると考えている.

3.現在の取り組みと課題―当事者と創るもの:共同行為論的ケア―
 CVPPPのような身体的介入を含むプログラムは,われわれ医療者がもっている力を意識しなければ,当事者を抑圧し,トラウマを与えてしまう可能性がある.Foucault, M.7)のいう監視と処罰の構造に意識を向け,アイヒマン的思考欠如42)に陥らず,優位―劣位という対立構造からはなれたところで,暴力を考えていくことがCVPPPのめざすところである.このことを考えるとき,Foucaultが教育や病院にその権力性をみたように,あるいはSullivanのいうような「看護部の神々しい力」39)のように病院組織のなかにもともとある力にも目を向けていく必要がある.
 CVPPPは人の行為に制限を加えるため,そこには絶えず哲学的な省察が求められる.現在,著者は科学研究費助成金基盤研究(C)「当事者とともに安心の場を創る改良型CVPPP」に取り組んでいる.このなかでは,暴力をめぐる哲学的概念の検討,また,言語哲学からみたコミュニケーションといった理論の整理を行う一方,WRAPアドバンストファシリテーター増川ねてる氏にCVPPPトレーナー養成研修に参加してもらい16),一般社団法人精神障害当事者会ポルケ山田悠平氏と意見交換する37)などして,当事者とともに創るCVPPPをめざしている.増川氏からは「どうしても自分には暴れてしまいそうになる時がある.そんな時優しい手で止めてほしい」というCVPPPをクライシス・プランにおける選択肢の1つとして位置づける提案があり,山田氏は一般精神医療における権力勾配のある構造に目を向け,理論を考えるべきという.これらの取り組みから,暴力に対しても相互のコミットメント17)を通じて相互の尊重につながるようなケアの方法を模索していくことが,CVPPPのめざすべき道であると考えている.
 暴力は当事者も医療者も,そして周囲の人たちも被害者にも加害者にもなるという複雑な様相を呈するが,皆が共同行為として共同主体性をもってこの問題や対応法を考えることをめざしたい.しかしながら,誰でも過去に受けたトラウマ体験の直接の行為者としての相手を許すことができないのは当然でもある.医療観察法のなかで語られた看護のジレンマを通じてCVPPPは一般精神医療でもこの複雑な問題に取り組みたいと思う.

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おわりに
 今後,CVPPPは,例えば認知症者あるいは強度行動障害による暴力的行動(暴力と呼ぶべきかについても慎重に検討されるべきであるが)へのケアの方法や地域における暴力への対応などについても考えていく必要がある.
 暴力対応をするために看護師が行動することについては,周囲からは「また抑えて連れていくんだ」などと表現されているだろう.CVPPPがめざすべきは,周りの人に「助けに行くんだ」と思ってもらえる介入法になっていくことである.

 編  注:本特集は第118回日本精神神経学会学術総会シンポジウムをもとに田口寿子(神奈川県立精神医療センター)を代表として企画された.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

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40) 高木俊介: 対人支援のダイアローグ―オープンダイアローグ, 未来語りのダイアローグ, そして民主主義―. 金剛出版, 東京, p.121-136, 2022

41) 高橋慎一: 障害者介助と暴力についての試論. 賃金と社会保障, 1687-1688; 12-23, 2017

42) 戸谷洋志: スマートな悪―技術と暴力について―. 講談社, 東京, 2022

43) 宇田川 健: 第1回日本こころの安全とケア学会学術集会, 学会長企画パネルディスカッション, 緊急時のケアも見える化しよう. 日本こころの安全とケア学会誌, 1 (1); 23-29, 2019

44) 横田 泉: 精神医療のゆらぎとひらめき. 日本評論社, 東京, p.148-149, 2019

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