Advertisement第117回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第6号

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特集 同意取得が困難な事例を対象とした症例報告や研究における問題点と課題
児童虐待刑事事件の生物・心理・社会要因に関する質問紙調査―妥当性,安全性および倫理的配慮―
黒田 公美, 白石 優子
理化学研究所脳神経科学研究センター親和性社会行動研究チーム
精神神経学雑誌 123: 333-341, 2021

 不適切養育やそのおそれのある養育者と家族をよりよく支援するためには,背景にある生物・心理・社会要因や支援ニーズに関して,当事者に直接尋ねることが望ましい.そこで著者らは2016年より,児童虐待事件で受刑中の養育者(同居人含む)に質問紙調査を行っている.刑事事件の当事者を対象とする調査では,同意取得や個人情報保護などにおいて,精神疾患の臨床研究と同様,研究倫理上の配慮が極めて重要である.本研究は研究倫理審査委員会の承認を受け,法務省矯正局と各矯正施設に調査の意義や手続き,質問紙内容について説明し,実施許可の得られた施設を対象とした.実名報道で実刑判決の確定した児童虐待事案を収集,各施設に当事者宛の研究協力依頼を郵送し,返信があった受刑者に説明同意書を送付し,約4年間で36人から研究参加への同意を得た.対照群として広告などを介し178人の一般養育経験者の協力を得た.質問紙は生活歴,ベック抑うつ尺度,逆境的小児期体験(WHO版),SCID-II,トラウマ体験,育児ストレス尺度短縮版,事件当時のストレス要因などから構成,必要に応じ抜粋・改変を行い,計400問以上を使用した.これらを心理的負担の少ない順に3回に分割して郵送,不明瞭な回答については再確認した.研究の妥当性や協力者の安全性を勘案し配慮した点は,①余罪の追及につながるおそれのある事実の聴取は避ける,②過度の心理的負担を避けるため,各質問紙に「気分が悪くなるなどの場合にはすぐにやめてください」と明記,特に事件当時についての質問紙には破棄してもよい旨表書きをつける,③事件自体や判決に関しては中立的立場をとる,などである.その結果,36人中31人の研究協力者から最後まで回答を得,さらに「参加して自分自身や事件を振り返ることができた」など好意的な感想を予想外にも複数得た.本稿では本研究の経緯について,特に研究倫理の観点から考察する.

索引用語:児童虐待, 司法精神医学, 研究倫理, 同意書>
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