Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第123巻第1号

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総説
トラウマ記憶を処理する心理療法―EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)―
市井 雅哉
兵庫教育大学
精神神経学雑誌 123: 11-19, 2021

 EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)は,Shapiro, F. によって1989年に発表され,WHOのPTSDの治療ガイドラインにも記されている,実証された,妥当な心理療法である.欧米で注目され,日本においても普及してきている.子どもへの適用のRCT,うつ病やパニック障害への適用のRCTを紹介した.眼球運動の有用性もメタ分析で証明されている.EMDRの治療の進み方を説明し予測する,適応的情報処理モデルについて解説した.これは,人間の脳がもつ自然治癒の力を仮定し,トラウマがその過程を妨害し,その妨げを両側性刺激で解除するという考え方である.また,過去のトラウマイメージと現在の単純な繰り返しである刺激に注意を向ける二重注意も重要な要素である.眼球運動以外にも数多くの手続き要素が治療的である.眼球運動のもつメカニズムに関して,認知心理学,学習理論,脳生理学など,視点の異なるいくつかの仮説があり,盛んに議論が行われている.治療の進め方としては,より古い過去の記憶から順に扱うようにして,8段階,そして過去,現在,未来という3分岐を扱う.幼少期に父親から虐待を受けた40歳代後半女性で,EMDRで治癒した事例を提示した.そして最後に,EMDRの限界についても言及した.

索引用語:EMDR, PTSD, 適応的情報処理, 二重注意, メタ分析>
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