Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第122巻第4号

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特集 精神疾患の背後に発達障害特性を見いだしたとき,いかに治療すべきか
ある入院症例を通して発達障害を有する患者のトラウマ関連症状を考える
岩垂 喜貴
医療法人財団青渓会駒木野病院
精神神経学雑誌 122: 296-302, 2020

 著者が所属していた国立国際医療研究センター国府台病院児童精神科は児童・思春期の専門病棟を有する診療科である.したがって診療対象は入院治療を必要とするような小児患者が多い.本稿ではこのような治療構造のなかで経験した1つの症例から発達障害を有する患者のトラウマ関連症状とその治療についての考察を行う.小児期にトラウマとなるような出来事にくり返し曝露された場合,その症状がADHD様症状,衝動性の悪化や感情調整の問題などの発達障害類似の症状となって現れることはよく知られている.したがって個々の症例に臨床の場で出会った時点でどこまでが発達障害由来の症状なのかどうかを見きわめることは困難である.治療経過のなかで判断するしかないもののその境界は不鮮明であることも多く,診断に迷うことも多い.また小児の場合,トラウマ曝露後の症状は他者との健康な愛着関係が存在する場合に予後良好であることが多い.しかし,生物学的要因によって幼少期から保護者との愛着関係形成に困難を抱えやすい発達障害児では,トラウマ曝露後に症状が遷延化および複雑化することが少なくない.そして経過のなかで社会的に孤立していったり,新たなトラウマに曝露される頻度も高くなる.このような場合において,より症状が重篤化し入院治療が必要となる.多くの場合,入院治療は長期化し治療にも難渋する.結果的にはそれぞれの小児の発達障害特性を理解しながら,個々の見立てをスタッフ間で共有し,治療構造を維持できるよう努力を地道に続けることで治療活路が開かれる.この土台になっているのが,①発達特性,②トラウマ,③愛着の3方向からの小児の病態理解である.

索引用語:発達障害, トラウマ, トラウマ関連症状, 入院治療>
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