Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第5号

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総説
死別関連精神障害の研究動向―診断学と精神病理学の周辺から―
清水 加奈子1)2), 加藤 敏3)4)
1)自治医科大学附属病院精神科
2)Division of Psychopathology and Clinical Intervention, Department of Psychology, University of Zurich
3)自治医科大学
4)小山富士見台病院
精神神経学雑誌 121: 329-343, 2019

 2018年6月に最終版として公表された疾病および関連保健問題の国際統計分類第11版(ICD-11)では,ストレス反応症候群カテゴリーの一疾患として,新たに「遷延性悲嘆障害」の名が連ねられた.これは,大切な人を亡くしたあと,故人を慕う強い思い,あるいは執着する思いが漸減することなく遷延し,日常生活に支障をきたす状況を指す.死別反応が複雑化あるいは遷延化した病的悲嘆の問題は,20世紀初頭より,主に精神分析学の見地から研究されてきており,その理論的支柱背景と実証研究による妥当性検証の結果を併せ,今回,「遷延性悲嘆障害」が登場したのである.またこの病態は,ストレス反応症候群に位置づけられることからも,主要には心因性かつ神経症性の病態が想定されている.臨床精神医学,精神病理学的見地からは,死別にまつわる精神障害は,Pichot, P. やWinokur, G.,また笠原・木村による分類などで明示されているように,死別反応の遷延例のみならず内因性うつ病(メランコリー)に至る病態,あるいは精神病症状を呈する病態を考慮する布置をもつ.そこで,本稿では,「遷延性悲嘆障害」の概念とともに,これまで精神医学において検討されてきた死別体験に関連する疾患を包括的に捉え,死別関連精神障害という問題意識で検討した.まず「遷延性悲嘆障害」の臨床事例を取り上げ,「遷延性悲嘆障害」の意義,成立過程について考察したのち,これまでの精神科診断分類における死別関連精神障害の位置づけを検討した.死別関連精神障害として,「遷延性悲嘆障害」に加え,「死別メランコリー」,さらに「死別精神病」が挙がることを論じた.また,従来から盛んに討議され続けてきた精神分析学的見地からの病的悲嘆研究の展開を論じた.

索引用語:遷延性悲嘆障害, 死別反応, 病的悲嘆, うつ病, 死別関連精神障害>
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