Advertisement第116回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第121巻第1号

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特集 精神科医が知っておきたい抗てんかん薬の使い方・付き合い方
抗てんかん薬と精神症状
西田 拓司
国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター
精神神経学雑誌 121: 19-23, 2019

 てんかんは抑うつ,不安,幻覚,妄想,情動不安定,易刺激性など多彩な精神症状を伴うことが知られており,その一部には抗てんかん薬が関与していると考えられている.近年,本邦でも多くの新規抗てんかん薬が使用できるようになり,抗てんかん薬治療の潮流は大きく変わった.ところが,新規抗てんかん薬の一部はその使用頻度が高まるなかで,精神症状を惹起あるいは悪化させることが多いことがわかってきた.本邦では,成人てんかん診療の担い手が精神科から神経内科や脳外科に移りつつある.てんかん診療を行う精神科医が減少する今後,逆説的に,一般精神科診療のなかで,てんかんに伴う精神症状に対応する機会が増えることになる.てんかんに伴う精神症状,特に抗てんかん薬が関連する精神症状の知識は精神科医にとって必須である.

索引用語:抗てんかん薬, 精神症状, 抑うつ, 精神病, 易刺激性>

はじめに
 てんかんは抑うつ,不安,幻覚,妄想,情動不安定,易刺激性など多彩な精神症状を伴うことが知られており,その一部には抗てんかん薬が関与していると考えられている.近年,多くの新規抗てんかん薬が使用できるようになり,従来から用いられてきた抗てんかん薬と比較して副作用が少ないことが期待され,抗てんかん薬治療の潮流は大きく変わった.2018年に刊行された日本神経学会のてんかん診療ガイドライン8)では,部分発作(焦点性発作)に対する第一および第二選択薬に多くの新規抗てんかん薬が含まれている.ところが,新規抗てんかん薬の一部はその使用頻度が高まるなかで,精神症状を惹起あるいは悪化させることが多いことがわかってきた.本邦では,成人てんかん診療の担い手が精神科から神経内科や脳外科に移りつつある10).以前であれば,てんかんに精神症状が伴ったとしても,てんかん診療を行っている精神科医療の枠組みのなかで対応が可能であった.しかし,てんかん診療を行う精神科医が減少する今後,逆説的に,一般精神科診療のなかで,てんかんに伴う精神症状に対応する機会が増えることになる.本稿では,てんかんに伴う精神症状,特に抗てんかん薬が関連する精神症状について概説する.

I.てんかんに併存する精神症状
 てんかん患者にはさまざまな精神症状が出現することが知られている4)5)13).特に統合失調症様の幻覚妄想を示す精神病,うつ状態,不安状態,自閉スペクトラム症,心因性非てんかん性発作は出現頻度が高く,臨床上重要である(表1).本邦では精神科医が成人てんかん診療を担ってきた歴史があり,てんかんに併存する精神症状に対する関心は高く,これまでも質の高い研究が行われてきた9).一方,最近,海外ではてんかんに併存する精神症状はその生活の質(quality of life:QOL)に対するインパクトの大きさから注目されている.特にてんかん患者の抑うつはQOLと強く相関することが明らかになった1)6).実際,精神症状を伴う場合,てんかん発作に対する介入だけでは,てんかん患者のQOL向上や社会参加につながらないことが多く,てんかんに併存する精神症状の適切な診断と介入が重要である.
 臨床上,てんかんに併存する精神症状を3つの軸で考えるとわかりやすい().まずは心理・社会面との関連,次にてんかん発作(てんかん病態)との関連,そして,治療との関連である.この治療と関連する精神症状のなかに抗てんかん薬による精神症状が含まれることになる.

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II.日本神経学会てんかん診療ガイドライン2018
 2018年,日本神経学会よりてんかん診療ガイドライン8)が刊行された.これまでのガイドラインと比較して,てんかん診療における新規抗てんかん薬の位置づけが明確にされた.それによると,新規発症成人てんかんの第一選択薬として従来から挙げられてきた部分発作に対するカルバマゼピン(CBZ),全般発作に対するバルプロ酸(VPA)に加えて,部分発作にはラモトリギン(LTG),レベチラセタム(LEV),ゾニサミド(ZNS),トピラマート(TPM)が新たに追加された(表2).また,第二選択薬として部分発作にはガバペンチン(GBP),ラコサミド(LCM),ペランパネル(PER),強直間代発作にはLTG,LEV,TPM,ZNS,PERが新たに追加された.高齢者てんかんでは,合併症のある部分発作に対して,LEV,LTG,GBPの新規抗てんかん薬のみが推奨されている(表3).
 精神症状のリスクを有する患者の抗てんかん薬治療に際し,まず,難治てんかん,辺縁系発作,精神障害の家族歴や既往のある例では,精神症状合併のリスクがあり,抗てんかん薬の多剤併用,急速増量,高用量投与に注意するとしている.そして,精神障害併存例で使用を避ける抗てんかん薬,使用を考慮してよい抗てんかん薬が挙げられている(表4).使用を避ける抗てんかん薬として,うつ病性障害に対してフェノバルビタール(PB),プリミドン(PRM),ZNS,TPM,LEV,不安障害に対してLTG,LEV,精神病性障害に対してフェニトイン(PHT),エトスクシミド(ESM),ZNS,TPM,LEVが挙げられている.一方,使用を考慮してよい抗てんかん薬として,うつ病性障害に対してLTG,双極性障害に対してPHT,CBZ,LTG,オクスカルバゼピン(OXC),不安障害に対してクロナゼパム(CZP),クロバザム(CLB),GBPが挙げられている.ガイドラインでは精神障害併存例での薬剤選択として使用を避ける抗てんかん薬が挙げられているが,精神科医が関与する実臨床では,むしろ,てんかん患者の精神症状の出現や悪化に際して,該当する抗てんかん薬との関連を疑うことが重要と考えられる.

表2画像拡大表3画像拡大表4画像拡大

III.抗てんかん薬の精神面への影響
 従来から使用されてきた抗てんかん薬のなかでも,ESM,高用量のPHTが精神病症状,PB,PRMが抑うつや易刺激性と関連することが知られていた.近年,副作用が少ないとされ広く普及してきた新規抗てんかん薬が精神的副作用に関しては必ずしも少なくないことが明らかになってきた.Perucca, P.とMula, M.の総説11)によると,新規抗てんかん薬を含む多くの抗てんかん薬が精神面にネガティブな影響を及ぼすことがあることが示されている(表5).一方,抗てんかん薬で精神面にポジティブな影響を及ぼすものとして,CBZ,VPA,LTGの気分安定作用が知られている.
 米国で行われた抗てんかん薬の精神面(抑うつ,精神病,不安,自殺念慮),および行動面(易刺激性,攻撃性,爆発性など)に対する副作用を調査した大規模な後方視的研究2)によると,LEV,ZNSはこれらの副作用が多く,CBZ,GBPは少なかった.精神的副作用の内容として,LEVは易刺激性,攻撃性,抑うつ,不安が多く,ZNSは抑うつが多かった.また,オーストラリアからの報告3)では,てんかんに併発する精神病性障害98名のうち14名(14.3%)が抗てんかん薬誘発性であり,その関連因子として,女性,側頭葉の関与とともに,LEVを使用していること,CBZを使用していないことが挙げられた.また,新規抗てんかん薬のなかで服薬中断を要する精神的副作用は,PER,TPM,ZNS,LEVの順で多くみられたとする報告もある12).精神的副作用の内容としてはPER,TPMは抑うつ,易刺激性,ZNSは抑うつ,攻撃性,LEVは易刺激性,情動不安定が多かった.また,抗てんかん薬関連の精神的副作用の危険因子としては,精神疾患の既往,精神疾患の家族歴,急速な増量,知的障害,発達障害などが挙げられる7)14)

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おわりに
 てんかん患者にみられる精神症状は抗てんかん薬との関連が少なくないと考えられる.臨床上,精神症状がみられるてんかん患者を診療する際,精神症状と抗てんかん薬の関連を疑う必要がある.精神症状との関連が示唆される抗てんかん薬が使用されている場合は,抗てんかん薬の変更を考慮する.
 一方,抗てんかん薬の使用と精神症状の厳密な因果関係の確定は難しい.特定の抗てんかん薬の使用後,どの程度の期間で精神症状が出現すれば関連があるとするのか,抗てんかん薬の中止後の精神症状改善の確認がされているのかなど,抗てんかん薬に関連する精神症状の厳密な定義はない.今後の課題として,各抗てんかん薬と精神症状の関連を比較するための統一した基準が必要である.

利益相反
 著者は大塚製薬株式会社,ユーシービージャパン株式会社,エーザイ株式会社から講演料として謝礼を得ている.

文献

1) Boylan, L. S., Flint, L. A., Labovitz, D. L., et al.: Depression but not seizure frequency predicts quality of life in treatment-resistant epilepsy. Neurology, 62 (2); 258-261, 2004
Medline

2) Chen, B., Choi, H., Hirsch, L. J., et al.: Psychiatric and behavioral side effects of antiepileptic drugs in adults with epilepsy. Epilepsy Behav, 76; 24-31, 2017
Medline

3) Chen, Z., Lusicic, A., O'Brien, T. J., et al.: Psychotic disorders induced by antiepileptic drugs in people with epilepsy. Brain, 139; 2668-2678, 2016
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4) Clancy, M. J., Clarke, M. C., Connor, D. J., et al.: The prevalence of psychosis in epilepsy: a systematic review and meta-analysis. BMC Psychiatry, 14; 75, 2014
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5) Fiest, K. M., Dykeman, J., Patten, S. B., et al.: Depression of epilepsy: a systematic review and meta-analysis. Neurology, 80 (6); 590-599, 2013
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6) Gilliam, F.: Optimizing health outcomes in active epilepsy. Neurology, 58(8 Suppl 5); S9-20, 2002
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7) Mula, M., Trimble, M. R., Lhatoo, S. D., et al.: Topiramate and psychiatric adverse events in patients with epilepsy. Epilepsia, 44 (5); 659-663, 2003
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8) 日本神経学会監修:てんかん診療ガイドライン2018.医学書院,東京,2018

9) 西田拓司, 井上有史: 精神科領域におけるてんかん研究. 精神医学, 46 (3); 224-233, 2004

10) 西田拓司: てんかん診療の現状と課題. 精神経誌, 114 (8); 957-959, 2012

11) Perucca, P., Mula, M.: Antiepileptic drug effects on mood and behavior: morecular targets. Epilepsy Behav, 26 (3); 440-449, 2013
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12) Stephen, L. J., Wishart, A., Brodie, M. J.: Psychiatric side effects and antiepileptic drugs: observations from prospective audits. Epilepsy Behav, 71; 73-78, 2017
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13) Trimble, M. R., Schmitz, B.: The Neuropsychiatry of Epilepsy, 2nd ed. Cambridge University Press, New York, 2011(吉野相英監訳: 臨床てんかんnext step―知的障害・自閉症・認知症から併発精神障害まで―. 新興医学出版社, 東京, 2013)

14) White, J. R., Walczak, T. S., Leppik, I. E., et al.: Discontinuation of levetiracetam because of behavioral side effects: a case-control study. Neurology, 61 (9); 1218-1221, 2003
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