Advertisement第116回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第120巻第8号

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特集 非自発入院制度の現状と課題―精神保健福祉法改正,措置入院,および臨床倫理をめぐって―
精神保健福祉士の立場から
大塚 淳子
帝京平成大学現代ライフ学部人間文化学科福祉コース
精神神経学雑誌 120: 672-679, 2018

 精神保健福祉法について,2013年改正法の附則にある見直し事項を受け,2016年1月から次回改正を睨み,検討会が設置開催されたが,津久井やまゆり園における障害者殺傷事件(相模原事件)が起きたことにより,検討内容の方向性が転換された.2017年の通常国会における法案審議は紛糾し,本稿執筆時点では,衆議院未審議で継続となっている.本稿では次回改正に向けて,精神保健福祉士の立場から,非自発的入院,特に措置入院制度の現状と課題について考える.論点としては,改正法案の検討経過中に相模原事件により検討内容が補綴され,焦点が転じたこと,その結果,措置入院制度に関して多く焦点化された法案となったこと,改正内容が治安的要素を強くもつことである.何より急務なのは,地域精神保健医療福祉の充実と考える.

索引用語:法改正の経過, 附則による見直し, 措置入院制度の運用上の課題>

はじめに
 第193回国会通常会で改正精神保健福祉法案が参議院審議を経て衆議院に回ったが,政局が絡み閉会となり,改正法案は継続審議となった.続く第194回国会臨時会は開催初日に解散となり,改正法案も廃案となっている.
 2018年1月から開会された第196回国会通常会はさまざまな問題が紛糾しており,改正法案の上程の行方は定かではない.状況によっては法改正がしばらくないことも想定される.
 第193回国会に上程された改正精神保健福祉法案についての課題を以下に挙げる.
 ①改正目的が本来の検討内容への補綴であったために歪められたこと.
 ②2013年改正法の附則に記載されたような,前回改正で残されていた検討課題を整備する内容が中心ではなくなったこと.
 ③措置入院制度に関しては,運用上の課題が非常に大きく,自治体間格差があること.
 ④地域精神保健医療福祉体制の充実が重要かつ急務であること.

I.検討経緯にみる改正精神保健福祉法案
 ここで,改正法案の検討過程を遡って確認しておきたい.整理のためにこれまでの流れを表1に記載する.
 そもそも,今も進行形の各種法制度改正は,いまだ障害者権利条約の批准に向けた国内法整備の過程にあると著者は認識する.2010年6月に行われた「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」1)との閣議決定には,精神医療に関して3点の課題が確認され,その改善のために種々の検討の機会と場が設けられたのは周知である.
 そのうち,精神保健福祉法を改正しないと課題解決に至らないのが保護者制度・入院制度に関する課題であった.保護者制度に関しては,民法の扶養義務制度の改正にまで至る問題が本質にあると著者は考える.前回改正ではひとまず,長年の課題である非自発的強制入院に関する保護者の位置づけの弊害を改正しようと保護者制度の廃止と,医療保護入院者の退院に向けた支援を入院中から地域の関係機関などと連携して行うべく,退院後生活環境相談員の設置がなされるなど,医療保護入院制度に関する内容が中心に据えられた.しかし,代わりに家族等同意が設けられるなど,新たな問題が浮上し国会で指摘され審議されたものの,そのまま施行された.家族等同意による権利侵害の生じやすさや家族関係の悪化の懸念,および市区町村長同意手続きの制約により必要な医療アクセスの保障の阻害などの問題点を巡り,施行後の諸事例により問題点がさらに把握されたことを受け,次回の改正案では,医療保護入院手続における市区町村長同意の扱いに関し見直しを行うこととしている.
 法案につながる検討の場であった「新たな地域精神医療体制構築に向けた検討チーム」(以下,検討チームとする)の第3ラウンドでは「精神障害者の地域生活の実現に向けて」3)という資料のなかに厚生労働省が示した図がある.そこには措置入院制度による入院患者への退院支援の仕組みについてのフロー案が示されていた.それは検討チームやさらには先述の閣議決定以前の「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」(2008~2009年開催)などによる措置入院制度に関する課題への指摘を受けて検討されたものと考えられる.しかし,その後,14万人も入院者がいる医療保護入院の問題を優先的な着手課題として進めるとの判断から,措置入院者の退院支援の仕組みの図は消えた.当初示されていた資料(図1)を転載しておく.
 また,検討チーム第3ラウンドのとりまとめ4)において,「措置入院制度の在り方」に関しては以下の4項目が課題として挙げられた.
 ①措置入院への保健所と相談支援との連携
 ②措置入院のもとでの強制医療介入
 ③措置入院の入院時の精神医療審査会での審査
 ④措置入院の適用と運用
 しかし,これらは改正精神保健福祉法案には結びつかず,また法以外の対応としても具体化されることはなく,非自発的入院のあり方の検討として,改正時の付帯決議に記される形で課題として残された.著者は,このときに検討や対応の進展がなかったことを非常に残念に思う.検討や対応が進んでいれば津久井やまゆり園で生じた事件(相模原事件)を防げたかどうかは定かではないが,このようなことが契機にないと前進しないことがなによりも残念である.

表1画像拡大
図1画像拡大

II.2013年改正附則第8条における見直し事項の検討経過
 2013年改正法の附則に法施行後3年を目途として,見直し事項などに検討を加え,所要の措置を構ずるものとあり,2016年1月に「これからの精神保健医療保健福祉のあり方に関する検討会」(以下,2016あり方検討会)が設置開催された.
 附則の見直し事項は以下の3点である.
 ①医療保護入院における移送および入院手続きのあり方
 ②医療保護入院者の退院による地域における生活への移行を促進するための措置のあり方
 ③精神科病院に係る入院中の処遇,退院などに関する精神障害者の意思決定および意思の表明についての支援のあり方
 措置入院制度に関する諸課題は,当初は今回も改正の焦点ではなかった.次回改正法案に結びつく検討を進める最中に生じた精神保健指定医資格不正取得問題と,2016年7月26日に起きた津久井やまゆり園の障害者殺傷事件(相模原事件)とを受けて,検討内容に精神保健指定医についてと,措置入院に係る医療の充実の2点が急遽追加された.図2に流れを示す.
 2013年の法改正時に創設された大臣告示による指針が示した内容を検討するなかで,課題とされた「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策の今後の方向性」を踏まえて,精神科医療のあり方のさらなる検討が求められ,2016あり方検討会において検討される予定であった.「医療保護入院等のあり方分科会」と「新たな地域精神保健医療体制のあり方分科会」の2つの分科会が設置され,全体のとりまとめは2016年秋をめざすとされた.各分科会の第5回では,「今後議論すべき論点」という資料が示されている.前者の第4回(7月21日)では,医療保護入院における同意者の問題や,前回改正で積み残された「代弁者」の問題などが議題に挙げられている.後者の第5回(7月15日)では,地域精神医療におけるデイケア・訪問看護・アウトリーチなどについて,また「重度かつ慢性」についての研究成果の活用方法などが議題となっている.衝撃的で痛ましい事件が起きたのは,この後になる.

図2画像拡大

III.補綴された検討内容と変更された目的
 2016年8月8日の閣僚会議の結果,「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」(以下,検証・検討チーム)が設置されたが,共生社会政策を所管する内閣府ではなく,厚生労働省に設置された段階で,医療などに対応を大きく求めてくることになると想定され,また国民へのメッセージとなった.
 検証・検討チームは9月14日に,措置入院中の診察や措置解除後の対応,そして社会福祉施設等の防犯対策に検討の焦点をおいた「中間とりまとめ」5)を公表した.それに対し10月に開催された関係団体ヒアリングでは,多くの団体から,検証・検討内容の精神保健医療福祉の仕組みの検討への偏重,本事件と精神疾患との因果関係が判明しないうちの拙速な検討や報告の危険性への懸念などの意見が挙がった.このような意見を受けて,検討会構成員からは,医療観察法制定の経緯にふれ,不幸な事件を契機としてできた法制度の効を認める発言や,検証実施の責任としての報告の義務などが述べられた.
 不幸な事件が起きたことで整備される法制度に効があるというが,それ以上に,不幸な事件を契機に議論されることおよびその内容が,傷つき体験や不安を増し,社会から疎外される存在を生む実態について認識をもつべきである.権利条約の批准に向けた検討のように前向きの検討過程で執り行うことと明らかに異なり,障害があってもあたりまえに地域で暮らすという,遅々としながらも推進されてきたノーマライゼーションや共生社会の促進を後退させる要素があることは事実である.
 検証・検討チームの報告書6)は精神保健医療が再発防止の対策の責任をもつ内容でまとめられ,ページ数も多く割かれている.政府は,加害者の発言にみられた差別思想を許さず共生社会をめざすとしているが,本検討のプロセスや内容に政策差別があり,大きな矛盾と言わざるを得ない.しかも,拙速な検討や法制化は,医療観察法成立当時を想起させられたが,今回も結果としては加害者は起訴されており,第一義的に医療が対応にあたる問題ではないと考える.本検証結果が2016あり方検討会に接ぎ木された形となり,法案につながる検討の方向性を歪めたとりまとめ7)に至ったと認識する.
 すでに,2017年の第193回国会通常会における参議院審議の状況は周知と思われるが,改正法案の趣旨説明に配布された資料(すでに削除された)には,犯罪防止,再犯予防,治安維持目的が謳われており,本記述を巡り議論が紛糾し,資料訂正および主旨説明のやり直しとなった.いまだ精神保健福祉法に対し,社会的防衛を医療に負わせる姿勢が内在することが露骨に浮かび上がり,精神保健福祉士の立場でなくとも看過できない問題である.当初予定より審議に長く時間をかけた参議院では修正2)のうえ可決された.

IV.非自発的入院(措置入院)制度における課題
1.自治体による措置運用格差
 著者が精神科病院に勤めていた2001年に,医療観察法に反対する活動で北海道に招かれた際に,措置入院制度の自治体運用格差の著しさを知り愕然とした.著者の所属病院では当時,年間で45件前後の措置入院を受け,なかには重大他害行為が要件となった患者も6~10人ほど存在し,その後何人かの支援を担当し,かかわった.しかし,北海道の措置件数は少なく,かなり異なる状況であった.通報から診察に至る件数の違いを聞き,理由が気になったことを覚えている.問題は診察医師の確保などの体制なのか,通報の基準やそれを受ける警察の判断基準や,日頃からの医療と警察の連携のあり方なのかなど,多くの疑問を抱いたことがいまだ記憶にある.暮らしている(通報された)自治体によって処遇に違いが生じるシステムの運用は,医療導入や地域生活維持支援に関する権利の不平等性であるとの認識をもった.

2.適切な情報などの不足が招く事態
 著者の病院勤務時代に,民間移送会社を利用するように保健所から勧められたという家族から電話相談を受けた.業務終了直前の電話で長くなったので詳細に記憶している.
 「自宅に業者が来たら,息子にどう説明したらいいのか?」「突然知らない人が家に来て部屋に入るわけですよね」「考えたらわからなくなって,今から相談に行っていいか?」前夜から考え始めて不安と困惑に陥った父親からの電話を受け,結局,来院を待ち,説明の仕方を相談することとなった.
 家族は相談先で「暴れたら通報して措置か医療保護入院にすることをきっかけに治療導入できる」と言われていたが,実際の段取りを想像して悩み,相談したことで,対話の必要性に関して理解を深め,結果的には息子と話ができた.翌日に業者が来た際に,本人と話し合い,受診に至り任意入院になった.すべてがこのように進むわけではないが,必要なのは,適切な情報や相談体制,時間と人員,そして当事者の意思決定と,意思表明支援の研修などだと考える.

3.入院中からの手厚いケアと保健所マンパワーの充実
 自傷等の行為が激しい場合,同居の家族などへの支援も欠かせない.支援がなければ退院後に自宅へ帰ることが難しくなる.また,他害の場合は周辺トラブルが生じている,もしくは帰来先がないなどの状況には措置入院時からのソーシャルアセスメントおよび関係機関連携などが重要となる.
 また,措置解除後に即座に退院に至る事例もあるが,医療保護や任意入院に形態を切り替えて治療を継続することが多く,適宜のケア会議や外出外泊などの体験の機会も必要となる.生活保護受給の患者は必ず福祉事務所の担当者が存在するため,入院中からの連携や協働が可能であるが,保健所は強制入院時に支援する立場になることもあり,いったん入院してしまえばかかわりを継続することは難しくなる.そのため入院中は医療機関にお任せになりやすく,退院時に改めてかかわることや,住所地が決まってから連絡するようにという事例が多い.入院中も保健所とのかかわりが途切れないようにするために,精神保健福祉相談員の必置もしくは専任体制の確保を求めたい.

4.入院制度の違いによらないケアおよび本人選択が可能な体制を
 本来,入院形態を問わず,治療導入時から方針を決定する場に本人参加を原則とし,丁寧な良質の医療提供を行うことが求められる.また,措置入院などの非自発的入院の場合,やむを得ず本人同意が得られないときなどは権利擁護の観点から,意思表明および個人情報の共有に係る本人同意などを保障するために弁護士や第三者などの関与が可能な仕組みを講ずるべきと考える.検討チーム第3ラウンドで挙がっていた「代弁者」はその後,定義づけや担い手の問題などがあり,検討から外れている.形を変えて,検討されたのがアドボケーターである.2018年度から障害保健福祉推進事業の研究成果を受けて,創設施行されることになっているアドボケーター事業は,権利擁護の仕組みとは相いれない内容がうかがえ,反対意見8)や問題点を指摘する声が挙がっている.
 非自発的入院者の入院中からの手厚いケアや地域移行および定着支援には量と質を伴う人員体制の充実が,実効性を担保する財源確保とともに不可欠である.医療観察法への反対の理由の1つには,数少ない特別な機関を広域設定し退院支援を難しくさせるより,一般精神医療を底上げして対応できるようにすることが重要と考えたことがある.政府が言及した,一般精神医療を底上げし,両輪の軸にするとの約束はいまだ果たされていない.

おわりに
 所用でかつて勤務したクリニックに向かった際に,15年ぶりにクリニック前の横断歩道上で再会した方がいた.デイケア参加の帰りという彼は,医療観察法施行前に,10代で殺人という重大な他害行為による入院鑑定の結果,措置入院となり,著者が担当した方である.措置解除まで,医療保護入院から任意入院への切り替えまで,退院まで,いずれも非常に長い年月の経過を要した.都の施設入所による退院の選択肢は断られ断念となった.グループホームでは共同生活の難しさと管理される感覚の忌避から続かず短期間で退所となり,何度も地域生活をあきらめざるを得ないかと本人もチームもくじけそうになった.しかし,毎回,突きつけられる支援課題に取り組んだ結果,退院,地域生活に漕ぎ着けたものの,そこからが本格的な地域内支援チームによる支援開始となり,本当に大変だったと実感する.結局,本人の意思を尊重し,福祉的な資源などを活用するよりも,一般市民の利用するような場や機会に支えられての生活が長かった.少し歳を重ねてクリニックのデイケアに通っているという彼と,2人で再会を喜び,横断歩道で手を取って躍り上がった.大切なのは監視や管理ではなく,見守りや市民社会の生活を享受できるように支援することであるとの実感は強い.個人的には,医療保護入院が廃止でき,せめて非自発的入院の一本化が図られることを望むと同時に,非自発的入院制度に関しては費用負担も含み,公的責任による仕組みを構築するべきと考えている.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

文献

1) 閣議決定資料: 障害者制度改革の推進のための基本的な方向について. 2010年6月29日 (www8.cao.go.jp/shougai/suishin/pdf/kihon.pdf) (参照2018-05-18)

2) 閣法 第193回国会34精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案 (http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g19305034.htm) (参照2018-05-18)

3) 厚生労働省: 新たな地域精神医療体制の構築に向けた検討チーム第23回資料. 精神障害者の地域生活の実現に向けて (http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001rf2j.html) (参照2015-10-13)

4) 厚生労働省: 新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チーム第3ラウンドとりまとめの公表について (http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002e9rk.html) (参照2018-06-18)

5) 厚生労働省: 相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム (中間とりまとめ) (http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000136814.html) (参照2016-10-14)

6) 厚生労働省: 相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム報告書 (http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000145268.html) (参照2016-12-06)

7) 厚生労働省: これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会報告書 (http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000152029.html) (参照2017-02-17)

8) 大阪精神医療人権センター: 意見書―精神科病院に入院中の人々のための権利擁護システムの構築を求め, 日本精神科病院協会によるアドボケーターガイドラインに反対する― (https://www.psy-jinken-osaka.org/proposal/) (参照2017-11-18)

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