Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第120巻第2号

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特集 カタトニア(緊張病)の治療を問い直す
カタトニアの「操作的診断・治療」化
上田 諭
東京医療学院大学保健医療学部リハビリテーション学科
精神神経学雑誌 120: 93-98, 2018

 カタトニアは,「精神疾患によるもの」と「それ以外の身体的疾患によるもの」を含む症候群である.その治療は,まず基礎疾患を同定することが求められる.現行のカタトニア治療では,その点があいまいになっている傾向が強い.FinkとTaylorによる『Catatonia:A Clinician’s Guide to Diagnosis and Treatment』(2003)が始まりである.鈴木一正による邦訳『カタトニア―臨床医のための診断・治療ガイド―』(2007)は精神科臨床を変えた.本書では,カタトニアの基礎疾患は統合失調症よりも気分障害が多く,さらに中枢神経疾患も珍しくないことが説かれた.強調されたのは,それまで「緊張病」に通常行われていたハロペリドールの点滴治療が,悪性症候群を招きかねない不適切な方法であることだ.代わりに,ベンゾジアゼピン(BZ)と電気けいれん療法(ECT)が適切であることが示された.日本の新たな「カタトニア」臨床の始まりであった.ところが,本書は治療法を強調するあまり,前提となる基礎疾患の鑑別がおろそかになった.現れたのは,カタトニアの「操作的診断・治療」化ともいうべき現象である.伝統的な治療技法になかった「BZチャレンジ」という手法も浸透し始めた.少量のBZを投与し,カタトニアなら反応があるとする鑑別法である.診断基準に挙げられている症候がいくつかあれば,このBZチャレンジを行って「カタトニア」を判別し,BZの投与を始め,ECTを準備する.そこでは,症候学的な検討と基礎疾患の鑑別はしばしばおろそかにされる.カタトニアの基礎疾患の鑑別は必須であり,基礎疾患の治療がまず優先されるべきなのは言うまでもない.中枢神経系の急性疾患の見逃しは,時に致命的な経過をとる.BZやECTがその死期を早める危険もある.カタトニアが症候群である以上,症候を見分け,疾患鑑別を行って治療することが不可欠と思われる.

索引用語:カタトニア, 双極性障害, 悪性カタトニア, ベンゾジアゼピン, 電気けいれん療法>
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