Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第120巻第1号

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精神医学のフロンティア
インターフェロン誘発性抑うつ状態の早期介入に向けて
川瀬 康平1)2), 池田 匡志1), 岩田 仲生1)
1)藤田保健衛生大学精神神経科学講座
2)仁大病院精神科
精神神経学雑誌 120: 3-10, 2018

 【目的】インターフェロン(IFN)療法は治療経過中に高頻度で抑うつ状態を発症することがわかっている.このIFN誘発性抑うつ状態は患者のQOLを低下させ,またIFN治療自体の中断にもつながるため,早期の介入が必要である.本研究では,日本人対象者を用いてIFN誘発性抑うつ状態の臨床的リスクの同定,臨床特性の評価を行うことで早期介入への足がかりとした.
 【方法】2012年2月から2014年7月までの期間に藤田保健衛生大学病院にてIFN療法を施行されたC型肝炎ウイルス(HCV)罹患患者69名を対象とした.IFN治療開始前に抑うつ状態評価スケールであるBeck Depression Inventory(BDI),人格傾向評価スケールのNeuroticism-Extraversion-Openness Five-Factor Inventory(NEO-FFI),およびList of Threating Events(LTE)でストレスフルライフイベント(SLE)を評価した.その後,IFN治療開始後2週目および4週ごとにBDI,治療開始後6ヵ月でLTEの再評価が行われた.また,中核症状の検討のために,BDI下位項目の評価を行った.
 【結果】18名(26.1%)に抑うつ状態が認められた.発症時期には,治療開始後2~8週と20週以降の二峰性のピークがみられた.リスク因子として,治療開始前のBDIスコア(OR=1.35,P=0.0265),神経症傾向(OR=1.16,P=0.0210)が同定された.また,IFN誘発性抑うつ状態は一般的な抑うつ状態(既報のコホートデータを使用)と比較し,「身体症状」(体重減少,食欲低下など)の変化量が大きく,対して一般的な抑うつ状態で中核症状となっていた「気分症状」(悲観,被罰感など)は治療開始前と比較して変化が認められなかった.
 【結語】IFN誘発性抑うつ状態の早期介入のためには,少なくとも治療開始後8週目まではBDIなどを用いた慎重なスクリーングが必要であり,治療開始前のBDIスコアおよび神経症傾向はそのリスク因子となる.また,IFN誘発性抑うつ状態の中核症状は一般的な抑うつ状態のそれと質が異なる.

索引用語:インターフェロン, 抑うつ状態, Beck Depression Inventory, ストレスフルライフイベント, 神経症傾向>

はじめに
 インターフェロン(IFN)療法はC型肝炎,B型肝炎,多発性骨髄腫といった多くの疾患に対して有用な治療の1つとして確立している.しかし,IFN療法は多彩な精神神経系の副作用をきたし14)21),特に抑うつ状態は30%以上の高頻度で認められることが知られている7)18).このIFN誘発性抑うつ状態は,患者のQOLを著しく低下させる.例えば,原疾患に対する治療反応が得られている場合においても,IFN療法の中断を余儀なくされるケースも多く,抑うつ状態によってIFN療法が中断される割合は,IFN治療者全体の10~14%という報告もある13).したがって,患者はもちろん臨床医にとっても,IFN誘発性抑うつ状態による治療中断の減少,QOL低下の予防・改善は切実な願いであり,IFN誘発性抑うつ状態への早期介入の必要性が叫ばれてきた.
 これまで,IFN誘発性抑うつ状態におけるリスク同定に関するさまざまな研究が行われ,臨床的リスクとして治療開始前の抑うつ度合6)8)10),人格傾向4),うつ病の既往9)などが報告されている.今回,われわれは日本人を対象とした前向き研究を行い,これらのリスクが追試可能かどうか検討を行った.また,IFN誘発性抑うつ状態の詳細な臨床特性を評価することで,早期介入への足がかりとした.

I.方法
1.倫理的側面
 世界ヘルシンキ宣言の倫理指針に則って,藤田保健衛生大学ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会の承認のもと,すべての被験者に文書を用いて十分な研究説明を行い,同意を得たうえで研究を行った.

2.対象者と評価項目
 2012年2月から2014年7月までの期間に藤田保健衛生大学病院にてIFN療法を施行されたC型肝炎ウイルス(HCV)罹患患者を登録対象とした.対象者の除外基準は以下とした;①進行性肝疾患(Child-Pugh分類BまたはC),②重篤疾患の既往(悪性腫瘍,虚血性心疾患,自己免疫性疾患),③妊娠,④薬物またはアルコール依存,⑤過去のIFN療法で副作用の出現.また,IFN治療開始前のベースラインの時点で,抑うつ状態評価尺度であるBeck Depression Inventory(BDI)2)が10点以上であった場合も除外対象とした.
 IFN治療開始前に,すべての対象者はBDI,人格評価尺度であるNeuroticism-Extraversion-Openness Five-Factor Inventory(NEO-FFI)5),過去6ヵ月間の深刻な病気や怪我,近親者の死などのストレスフルライフイベント(SLEs)の有無を確認するList of Threatening Events(LTE)3),またMini-International Neuropsychiatric Interview(MINI)19)の評価が行われた.ベースラインでの評価の後,IFN療法としてPegIFN-α-2aもしくはPegIFN-α-2b(それぞれ180 μg/週,80 μg/週の皮下注射)が投与され,併用薬としてリバビリン(600~1,200 mg/日)もしくはテラプレビル(2,250 mg/日)の経口投与が行われた.IFN療法の治療期間(24~72週)は①HCV遺伝子型,②ウイルス反応性(血漿中HCV-RNA量で決定),③副作用の有無,で総合的に判断された.
 BDIは治療開始後2週およびその後4週ごとに繰り返し評価され(研究期間中の全体のBDI回答率は89.1%),LTEは治療開始後6ヵ月で再評価を行った.

3.統計解析
 既報1)に従いBDI≥10点を抑うつ状態と定義した.症例対照デザインにするため,経過観察中に一度でもBDI≥10を示す患者を抑うつ状態群に,一度もそのカットオフを超えない患者を対照群(非抑うつ状態群)と2群に分割,治療開始前のBDIスコア,NEO-FFIの各項目,年齢,性別,IFN療法の治療歴を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った.また,BDI下位項目の変化量(ベースラインと治療経過中のワーストポイントの比較)の解析にはWilcoxon符号順位和検定を行った.すべての統計解析にはRおよびSPSS statistics 21(IBM)を用いた.有意水準はP<0.05とした.

II.結果
1.対象者の選択と臨床背景
 IFN療法が施行された76名の患者が初期候補者となったが,2名は研究参加への同意が得られなかった.ベースラインでBDI≥10点であった5名は除外対象となったが,その他除外基準に該当する候補者はおらず,また,ベースラインに評価を行ったMINIにおいていずれの基準も満たさなかった.最終的に,69名の患者(男37名,女32名;平均年齢±SD 57.7±11.1歳)が解析対象者となった(表112)

2.IFN治療期間中の抑うつ状態発症率
 治療期間中,18名(26.1%)が抑うつ状態を呈し,抑うつ状態群に分類された.なお,併用薬の違いによる抑うつ状態の発症率に有意差は認められなかった(P=0.0983).抑うつ状態の発症時期においては,治療開始後2~8週までと20週以降という二峰性のピークを認めた(図112).特に着目すべきことは,2~8週までに抑うつ状態を発症した群では,抑うつ状態発症前にSLEsを経験した対象者は確認できなかった一方,20週以降に抑うつ状態を発症した群では,4名(66.6%)がSLEsを経験していた.

3.リスク因子
 IFN誘発性抑うつ状態のリスク因子を同定するため,IFN療法開始前因子(ベースラインのBDIスコア,NEO-FFI下位項目,年齢,性別,IFN療法の治療歴)を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った.解析の結果,ベースラインのBDIスコア〔odds ratio(OR)=1.35,P=0.0265〕,NEO-FFI下位項目における神経症傾向(OR=1.16,P=0.0210)が有意となり(表212),既報を支持する結果を得た6)8)10)

4.BDI下位項目
 IFN誘発性抑うつ状態の詳細な臨床特性を把握するため,BDI下位項目の変化量の解析を行った(ベースラインのスコアと治療経過中のワーストポイントの比較).IFN誘発性抑うつ状態群において9項目(悲しさ,喜びの喪失,激越,活力喪失,睡眠障害,倦怠感,食欲低下,体重減少,身体愁訴)で有意な変化を認めた(表312).BDIは21下位項目から構成され,その項目によって「気分症状」と「身体症状」に分類されるが,今回の解析で有意差を認めた項目の多くは「身体症状」に偏っていることが判明した(図2).また興味深いことに,憂うつ気分といった一般の抑うつ状態で多く認められる項目が有意な変化を示していなかった.
 したがって,「IFN誘発性抑うつ状態と一般の抑うつ状態では中核症状が異なる」という仮説を立て,両群でのBDI下位項目変化量の効果量を比較した.一般の抑うつ状態のデータにはわれわれが過去に行った看護師を対象としたコホート研究のデータを使用した11)20).この解析の結果,IFN誘発性抑うつ状態群において大きな効果量で変化していた睡眠障害,食欲低下,体重減少といった「身体症状」は,一般の抑うつ状態群では有意な変化はあったものの,比較的小さな効果量しか示していなかった(表4).対して,IFN誘発性抑うつ状態群では有意な変化を認めなかった憂うつ気分,挫折感,罪責感,被罰感,自己嫌悪,自己批判といった「気分症状」は,一般の抑うつ状態群において大きな効果量で変化していた(表4).この結果から,IFN誘発性抑うつ状態は「身体症状」が中心であり,「気分症状」が中心となる一般の抑うつ状態とは中核症状が異なるということが示唆された.

表1画像拡大
図1画像拡大
表2画像拡大表3画像拡大
図2画像拡大
表4画像拡大

III.考察
 本研究において,われわれは以下の結果を示した.
 ①IFN誘発性抑うつ状態の発症時期が治療開始後2~8週までと20週以降の二峰性のピークとなっている.
 ②治療開始前のBDIスコアとNEO-FFIにおける神経症傾向がIFN誘発性抑うつ状態の臨床的リスクになる.
 ③IFN誘発性抑うつ状態の中核症状は「身体症状」であり,一般の抑うつ状態と質が異なる.
 まず発症時期について,今回示された2~8週までのピークは既報と一致する結果であった6)10)16)17).しかし,20週以降のピークは既報では認められていないものであった.ここでわれわれは,20週以降の群の6名中4名(66.7%)が抑うつ状態発症前にSLEsを経験していたことに着目した(2~8週の群はSLEsを経験していた対象者は0名).SLEsが一般の抑うつ状態の確定的なリスクとして報告されている15)20)22)ことを鑑みた場合,20週以降の群は純粋にIFN療法によって抑うつ状態が誘発されたのではなく,IFN療法とSLEsという両面の影響があった可能性が示唆される.これらのことを踏まえると,IFN療法開始後少なくとも8週までは(抑うつ状態誘発に対してIFN療法の影響が強いと想定される期間),抑うつ状態発症について慎重に評価を行うべきであり,BDIといったスクリーニング評価尺度を積極的に用いて早期介入につなげるべきであると考察する.
 次に,われわれはベースラインのBDIスコアとNEO-FFIにおける神経症傾向をIFN誘発性抑うつ状態の臨床的リスクとして同定した.しかし,それぞれのオッズ比は1.1~1.3程度であり,実臨床の場で抑うつ状態発症のスクリーニングとして有用といえる結果ではないと考えられる.
 最後に,われわれはBDI下位項目の変化量の解析を行うことで,IFN誘発性抑うつ状態の中核症状が一般の抑うつ状態とは異なることを示した.IFN誘発性抑うつ状態は睡眠障害,食欲低下といった「身体症状」が中核症状であり,一般の抑うつ状態で認められるよう「気分症状」は前景化しにくいという独特の臨床特性をもつ可能性が示唆された.「「気分症状」が前景化しにくい」ということは,内科主治医およびコンサルトを受けた精神科医が精神症状と判断しにくい状況を生み,結果的に早期介入を困難にすると考えられる.したがって,IFN療法の治療経過中,内科主治医および精神科医はBDIなどのスクリーニング評価尺度を用いながら,患者が訴える「身体症状」に十分に注意を払うことが求められる.

おわりに
 今回,われわれはIFN誘発性抑うつ状態のリスク同定および臨床特性の検討を行った.その結果,特にIFN誘発性抑うつ状態の症状独自性を示すことができたことは有意義であり,また,臨床感覚と合致するものである.このような症状独自性をもとにして,例えばIFN誘発性抑うつ状態専用のスクリーニング評価尺度を作成することなどができれば,早期介入への足がかりとなり臨床的価値も高いといえる.今後はサンプルサイズを拡大し,より確度の高い結果を示すことで,IFN誘発性抑うつ状態への早期介入,ひいては抑うつ状態による治療中断率や患者QOLの改善につなげることが望まれる.

 本論文はPCN誌に掲載された最新の研究論文12)を編集委員会の依頼により,著者らが日本語で書き改め,その意義と展望などにつき加筆したものである.

 本研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による公的援助を受けて行われた.

 なお,本論文に関連して開示すべき利益相反はない.

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