周産期において,妊産褥婦はさまざまな心理社会的変化を体験し,新たなアイデンティティへの変換や対象喪失に対処することを余儀なくされ,それが心理的危機となりうる.この心理的危機において妊産褥婦は,抑うつや不安を呈しやすい.この抑うつや不安は,発達過程における正常範囲内のものから病的な水準に達するものまである.妊産褥婦とパートナー・家族に対して,周産期に生じやすい心理状態や適切な支援方法についての心理教育・家族教育を行っておくことが望ましい.さらに,スクリーニングや面接を実施し,病的水準に達する抑うつや不安を評価しながら,多職種連携による包括的なケアを提供することが必要である.ケアの内容は,周産期の治療方針についての自己決定プロセスへの援助,悲嘆のプロセスの促進,役割の変化への適応促進,ソーシャルサポートの構築,ボンディング形成のサポート,育児スキルの獲得,セルフケアの推奨などである.多職種連携による包括的なケアにより,妊産褥婦は全般的な心理社会的機能が向上し,パートナーや家族からの適切な援助が得られ,周産期の心理的危機を乗り越えていくことが可能になるものと考えられる.
妊産褥婦の抑うつ・不安に対する多職種連携による包括的ケア
兵庫医科大学精神科神経科学講座
精神神経学雑誌
120:
25-31, 2018
<索引用語:うつ病, 不安, 妊娠, 産後, 多職種連携>