Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第7号

※会員以外の方で全文の閲覧をご希望される場合は、「電子書籍」にてご購入いただけます。
特集 精神障害と自動車運転―運転事故新法および添付文書の現状を踏まえた今後の方向性―
精神障害と自動車運転―わかっていることとは何か?―
岩本 邦弘
名古屋大学大学院医学系研究科発達老年精神医学分野
精神神経学雑誌 119: 485-492, 2017

 多くの地域で自動車運転は社会生活に必須であり,それは,服薬継続が必須となる精神障害者においても同様であるが,運転中止を求める添付文書の画一的記載や,相次いで施行された運転関連新法により,精神障害者の運転を取り巻く状況は厳しさを増している.しかしながら,これらは必ずしも証左に基づいたものではない.向精神薬や精神障害と交通事故の関連を検討する疫学研究では,ベンゾジアゼピン系薬剤との関連性が示唆されるが,交絡するさまざまな要因により因果関係の存在を示すことは困難である.一方,実車や運転シミュレータを用いた実験的研究では,一部薬剤が急性投与時に運転技能に影響することが示唆されるが,全ての向精神薬が自動車運転に持続的かつ一様に影響を与えるとする証左は見いだせない.運転技能に与える影響は,健常者よりも患者群で小さく,むしろ,向精神薬には患者群の運転技能を改善する効果も示唆されており,総じて,精神障害者の運転が危険であると結論する証左は見あたらない.現在の制度を遵守すれば,患者の自動車運転については画一的な指導しかできないが,科学的根拠に基づいた情報提供,患者の状態像に応じた個別的な助言・指導を実施できることが理想である.そのためにも,添付文書は諸外国に準拠した記載内容に変更した上で,科学的検証を継続し,患者の生活と公共の安全を考慮した議論が必要である.精神科医としても,安易な投薬や漫然処方を避け,シンプルな処方を心がけ,社会生活を考慮した薬物療法の適正化に努めなければならない.

索引用語:自動車運転, 運転技能, 交通事故, 向精神薬, 適正使用>
Advertisement

ページの先頭へ

Copyright © The Japanese Society of Psychiatry and Neurology