Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第119巻第11号

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特集 精神科臨床が根差す揺るぎない大地,「臨床精神病理学」のススメ
「DSM」世代の精神科医には,どんな「伝統的精神医学の知恵」が求められるのか
須賀 英道
龍谷大学短期大学部社会福祉学科
精神神経学雑誌 119: 862-869, 2017

 精神医学において,エビデンス根拠に基づいたヒエラルキーモデルによって研究レベルが評価されるようになって久しい.臨床研究でも,メタアナリシス・システマティックレビューがレベル1で最も高く,症例報告がレベル5といった高低の評価差が生まれることも,統計学的手法を基盤としたバイオロジカルな研究分野では必然といえる.しかし,こうしたエビデンス視点が常識化されてくると,エビデンスデータベースにある診断・治療を用いた診療姿勢をベストとし,データベースにないこれまでの先人たちの臨床経験が過小評価されていくことも否めない.特に,症例報告の評価レベルが低くなると,学術見解を求められる精神科医にとって,症例に対する診療経験への優先順位はますます低くなることが懸念される.一人の患者にみられる病態とその意味づけを求めていた,記述的精神医学を基本とした伝統的精神医学の姿勢とは大きくかけ離れてきている.こうした傾向をさらに後押ししているのがDSM診断である.DSMの当初のコンセプトは,操作的診断による疾患概念の放棄であり,伝統的精神医学診断のもつ意味づけ(妥当性)が失われていても,信頼性の向上によって予防・治療という実践に利用できるといった簡明な方向性があった.そのときの精神科医の多くは,利用目的によって道具を使い分けるといったポストモダニズム的認識によってDSM診断を行っていた.しかし,研究対象を中心に用いられたDSMが,エビデンスデータベース志向と還元によって,臨床現場でも使われるようになると,DSM診断のコンセプトが独り歩きを始める.DSM-5では,操作的診断であったDSM診断に意味づけが求められ,疾患カテゴリーの視点で捉えるような物象化傾向がみられているのがその現れといえる.個別症例の診療経験から得られる見識とその蓄積がいかに重要であるか,いま一度精神医学の基本から考えなおしてみたい.

索引用語:伝統的精神医学, DSM-5, エビデンス精神医学, 精神科診断>
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