精神医療・保健福祉システム委員会は,47都道府県による精神疾患の医療計画の内容を分析した.「精神疾患が医療法における医療計画の重要疾病として記載されるにあたっての日本精神神経学会理事会見解」(2011年9月28日)を踏まえて,計画に関連する協議の場,医療情報公開,数値目標の3つの観点から検証した.2012年度に策定された47都道府県医療計画を収集した.また,各都道府県所管課担当者に精神疾患の計画策定のプロセスについての質問紙を送り回答してもらった.回答した45自治体のうち精神疾患計画策定作業部会の開催回数は平均3.0回で最多は7回(3ヵ所),2回以下は15ヵ所,うち7ヵ所は開催していなかった.47都道府県の医療計画において,精神疾患に関する地域医療連携を進めるための協議の場を記載しているところも半数に満たなかった.各種医療機能を担う医療機関の名称の記載については,「精神科救急担当医療機関」「認知症疾患医療センター」の名称は多くの医療計画で記載されていた.しかし,各種精神疾患に関連した医療機能とそれを担う医療機関の名称については,計画に記載しているところは約半数にとどまった.数値目標については,「1年未満入院患者平均退院率」は大多数の自治体で記載され,「自殺死亡率」や「認知症疾患医療センター数」も比較的多く記載されていたが,「医療保護入院患者1年以上入院率」はほとんど記載されず,「人口10万人当たり年間医療保護入院患者数」や「保護室隔離を受けている患者の割合」も少なかった.都道府県間に計画内容の差はあるが,総じて,計画策定を通じた精神疾患の医療の改善はやっとその緒についたところである.医療法に基づく精神疾患の医療計画は,精神保健福祉法第41条「指針」,障害者総合支援法の障害福祉計画,介護保険法の介護保険事業(支援)計画などと密接に関連し連動している.これらの指針や計画を全体として関連づけながら,精神疾患の医療計画の推進と評価,見直しを継続していくことが求められている.
※※共著者
1)関西大学人間健康学部
2)横浜市総合保健医療センター
3)岡山市こころの健康センター
4)川崎市立川崎病院精神神経科
5)医療法人社団翠会八幡厚生病院
6)医療法人卯の会新垣病院
7)帝京平成大学大学院臨床心理学研究科
8)熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野
9)地精会金杉クリニック
10)医療法人聖美会多摩中央病院精神科
11)北見赤十字病院精神科
12)大海クリニック
13)徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部精神医学分野
14)独立行政法人国立病院機構仙台医療センター精神科
15)宮城県立精神医療センター
16)国立精神・神経医療研究センター病院精神科
17)成田赤十字病院精神神経科
18)桜ヶ丘記念病院精神科
19)医療法人社団正心会よしの病院
20)社会医療法人城西医療財団城西病院
21)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
22)代々木の森診療所
23)社会医療法人財団松原愛育会松原病院
24)群馬大学大学院医学系研究科
25)東邦大学医学部精神神経医学講座
26)みのクリニック
27)一般財団法人仁明会精神衛生研究所
28)佐賀大学医学部精神医学講座
29)山口大学医学部神経精神医学講座
30)京都府立洛南病院
受理日:2015年11月30日
はじめに
日本精神神経学会(以下,本学会)は2011年9月28日に「精神疾患が医療法における医療計画の重要疾病として記載されるにあたっての日本精神神経学会理事会見解」10)を公表した.以下,重要な部分を引用する.
「都道府県が策定する医療計画に精神疾患に対する記載が義務づけられる.この作業を今後の精神科医療の改善に向けたものにし,保健・医療・福祉などにかかわるさまざまな機関,団体,職能間の合意のもとで計画内容が確認され,目標が共有され,実効性のあるものとするために,以下の3点が重要である.
第1に,精神科医療従事者,関連保健福祉サービスなどの関係者,住民・患者などが共同で精神疾患の医療計画策定に向けて協議する場を設定する必要がある.
第2に,計画作成には,現状の把握・分析が不可欠であり,関係者が行政機関とともに地域全体の精神科医療の現状を調査し,把握・分析するとともに,その情報を公開することが重要である.
第3に,計画に定めるさまざまな医療機能の達成状況を検証するために,数値目標を設定することが必要である.その数値目標に関するデータは継続的に把握・分析され,目標達成状況の検証が可能なものでなければならない.」
さらに,「医療計画の見直しにより,精神疾患が詳細な医療計画策定の対象になろうとしている状況のもと,精神科医療の関係者はこれを好機と受け止め,国民の理解をより喚起し,医療および関連保健福祉サービスの改革に活かしていかなければならない.さらに,障害者制度改革が並行して進められている今日,精神障害者の権利保障など広い視点から精神科医療のあり方が検討され,精神疾患の医療計画に取り組むことが,医療の質そのものを高めるためにも重要であろう.なお,日本精神神経学会は,学術団体として,これらの動きに対し積極的に意見を述べていくとともに,精神科医療・保健・福祉の改善への具体的な提言を行っていく予定である」と述べた.
2012年度に全国の都道府県において医療法に基づく医療計画の策定が行われた.計画策定に先立ち,2012年3月には厚生労働省より「医療提供体制の確保に関する基本方針」(平成24年3月22日厚生労働省告示第146号)1),「医療計画策定指針」(平成24年3月30日医制局長通知)2),「疾病又は事業ごとの医療体制構築に係る指針」(平成24年3月30日医制局指導課長通知)3)が示されている(ただし,通知に添えられた2つの指針は,医療法第30条の8の「厚生労働大臣は技術的事項について,都道府県に対し必要な助言をすることができる」という規定に基づくもので,法的な拘束力があるわけではない).
こうした方針・指針も参照しつつ,本学会精神医療・保健福祉システム委員会では,上記の理事会見解を踏まえて医療計画の内容を検討した.その結果を報告するとともに,今後の精神科医療の改善に資するための提言を行う.
I.都道府県医療計画(精神疾患に関する計画)の検討方法
医療計画の内容の検討のため,まず各都道府県に依頼して,2012年度に策定し刊行された医療計画の冊子を本学会事務局まで送付してもらった.返送がなかった2自治体については,当該自治体のホームページから医療計画をダウンロードし,47都道府県全ての医療計画を収集した.
収集した各都道府県の医療計画について,本学会精神医療・保健福祉システム委員会の委員が分担して,以下の項目について詳細に記載内容の検討を行った.①精神疾患に関する地域医療連携(保健・福祉との連携を含む)を進める協議の場,圏域の策定について,②医療施設間の連携を進める地域医療連携パスについて,③医療情報の公開に関し各種の医療機能を担う医療機関の名称を明示しているか,④医療情報(各種の医療機能とそれを担う医療機関名など)の公開の方針・予定,⑤どのような数値目標を記載しているか,⑥どのような精神疾患を対象に計画を記載しているか,⑦どのような状況(課題)を対象に計画を記載しているかなどである.
また,文書として刊行されている医療計画では得られなかった情報を得るため,2013年6月に全都道府県の医療計画策定の所管課担当者宛に質問紙を送付し,精神疾患の計画策定のプロセス(作業部会の設置状況,構成メンバー,開催回数など)について情報を収集した.質問紙には45自治体から回答を得た.
これらの情報をもとに,「日本精神神経学会理事会見解」(2011年9月28日)で重要な点として挙げた,(1)精神科医療従事者,関連保健福祉サービスなどの関係者,住民・患者などによる精神疾患の医療計画に向けた協議の場,(2)精神科医療の現状の調査,把握・分析,その情報の公開,(3)検証可能な数値目標の設定の3つの観点から各都道府県の精神疾患の医療計画を分析した.
II.精神疾患の医療計画に関する協議の場とその関連事項
1.精神疾患の医療計画のための協議の場
まず,質問紙より明らかになった都道府県における精神疾患の医療計画策定のためのワーキング会議(以下,作業部会とする)の開催状況を述べる.なお,ここで述べる作業部会とは精神疾患に関するもののみを意味しており,医療計画全体について検討する会議や都道府県の職員のみで行った会議は含めていない.なお,精神保健福祉審議会など既存の会議を精神疾患の医療計画の協議に活用している都道府県があり,それらの会議は作業部会に含めた.
作業部会の開催回数は,回答のあった45自治体について集計したところ,平均は3.0回で,最多開催回数は7回で3ヵ所あった.開催回数が2回以下のところは15ヵ所(33.3%)であり,うち7ヵ所は作業部会が開催されていなかった.そのようなところは県庁職員が主となって計画案を作成し,作業部会で協議するのではなく県庁の職員が関係者(精神科病院協会など)から個別に意見聴取を行うなどして,他の疾患や事業を含めた計画全体の案を検討する会議(医療審議会,医療計画策定委員会など)で決定していた.
作業部会の構成メンバーは,多くの自治体では精神科医療の提供側の団体や機関(精神病院協会,精神科を設置する主要な病院や大学,診療所協会,職能団体)から構成されていた.一部の自治体では利用者側の代表が構成メンバーに含まれていた.47自治体のうち家族会の代表が含まれていたのは18ヵ所(38.3%),患者(当事者)の会の代表が含まれていたのが5ヵ所(10.6%)であった.また作業部会の構成メンバーに家族会や患者会は含まれていなくとも,それらの会から別途意見を聴取することを9ヵ所で行っていた.
精神疾患の医療計画策定の作業部会の所管部署を調べたところ,医療計画全体の担当部課(医療政策課,医務課,医療薬務課など)とは別の課,例えば障害保健福祉課や保健予防課などの部署が担当した自治体が大半だった.つまり他の主要4疾病や5事業とは異なる部署で精神疾患の計画の検討がなされたことになる.
次に,医療計画の策定後に精神疾患に関する地域医療連携(保健・福祉との連携を含む)を進める協議の場をどこが担うかについてだが,精神疾患の医療計画の中で都道府県レベルでの協議の場を記載しているところは47自治体のうち5ヵ所(10.6%),二次医療圏・保健所圏域・市町村などの地域レベルで協議する場について記載しているところは13ヵ所(27.7%)だった.
2.精神科医療における圏域の設定
医療計画において医療機関の機能や連携について記載し,実際に地域医療連携の効果を高めていくためには,精神疾患の医療においても圏域を設定して,圏域内の関係者の協議の場を組織していくことが必要であろう.しかし大部分の精神疾患の医療計画は都道府県を1つの単位として記載されていた.精神病床の基準病床数が都道府県を範囲として設定されているため,圏域の設定まで議論が進んでいないのが現状のようである.
ただし精神科救急と認知症疾患に関しては圏域を別に設定した自治体があった.精神科救急の圏域の設定は39ヵ所で言及され,30ヵ所で二次医療圏より少ない圏域数を設定しており,そのうち26ヵ所は2つから4つの圏域を設定していた.認知症疾患の圏域については20ヵ所で言及され,それらの自治体は認知症疾患医療センターと絡めた圏域を設定していた.
3.地域医療連携
他の診療科や一般開業医(かかりつけ医)がうつ病,認知症疾患などの診療を担うことは珍しくなく,必要に応じて精神科との連携が図られるような地域の医療機関の連携体制の構築は重要である.また,入院治療を担当する病院と外来や在宅医療を担当する医療機関との連携が,円滑な入退院および治療の継続性を図るために必要となる.地域医療連携パスについては47自治体のうちの20ヵ所(42.6%)で言及されていた.大部分は認知症疾患に関連したものであった.わずかにうつ病を挙げるところがみられ,例えば富山県では「かかりつけ医と精神科医の連携に関するマニュアル」を作成していると記載されていた.
III.精神科医療の現状の調査,把握・分析,その情報の公開
1.各種の医療機能を担う医療機関について
各種の医療機能を担う医療機関の記載状況を図1に示す.
「精神科救急を担う医療機関の名称」と「認知症疾患医療センターの名称」は多くの医療計画で記載されていた.
「その他の医療機能を担う医療機関の名称」についてはさまざまな機能が取り上げられており,都道府県別に一括して表1に記した.
約半数の自治体が,それぞれの自治体におけるさまざまな精神疾患に関連した医療機能を医療計画の中に具体的に盛り込む姿勢を見せている.例えば児童・思春期関連が18ヵ所,アルコール・薬物依存症関連が16ヵ所と比較的多くの自治体が取り上げている.また身体合併症への対応が可能である病院名を11ヵ所で記載していた.
2.今後の医療情報公開の方針
今後どのように医療情報の公開に取り組んでいくのかを調べた.45自治体中11ヵ所(24.4%)で医療情報公開の方針・予定などの記載があったが,「定期的に情報収集し,可能な限り最新の情報を住民に提供します」「医療機能情報を県民に積極的に提供します」といった具体性に欠ける内容が多かった.
IV.検証可能な数値目標の設定
1.数値目標の設定状況
今回の調査ではじめに設定した11項目の数値目標の記載状況を図2に示す.
「1年未満入院患者平均退院率」は大多数の自治体で記載され,「自殺死亡率」や「認知症疾患医療センター数」も比較的多く記載されていた.一方で「医療保護入院患者1年以上入院率」はほとんど記載されず,「人口10万人当たり年間医療保護入院患者数」や「保護室隔離を受けている患者の割合」も少なかった.
11項目の調査だけでは数値目標の記載内容の実態が十分把握できないため,全都道府県の医療計画の精神科医療に関する数値目標を別途抽出して検討した結果を以下に示す.数値目標が明確に示されていない3自治体を除いた44自治体について集計し,合わせて366項目を得た.最多は「1年未満入院者の平均退院率」が41,そして「認知症疾患医療センター(地域・基幹型)の整備数」の31,自殺死亡率(人口10万当たり)の29と続いた.
2.医療計画記載内容と数値目標との関連
「どのような精神疾患を対象に計画を記載しているか」「どのような状況(課題)を対象に計画を記載しているか」について,結果を表2に示す.記載対象の精神疾患として,認知症,気分障害,アルコール・薬物依存症,児童思春期の精神疾患については大部分の自治体が取り上げていた.発達障害については32ヵ所(68%)で言及されていた.統合失調症,高次脳機能障害,てんかんについては,記載している自治体は6割以下であった.
記載対象の状況(課題)に関しては,「精神科救急医療体制」「身体合併症の治療体制」「外来・訪問医療を通じた地域生活,社会生活の支援」「地域移行・退院支援」「精神科などの専門医療機関への早期受診(予防・アクセス)」「精神疾患の種類に対応した専門医療の提供」については大部分の自治体で言及されていたが,「医療観察法に関わる医療」を取り上げた自治体は28ヵ所(60%)にとどまった.
次に,精神疾患や状況(課題)の計画記載状況と数値目標との関係を調べたところ,数値目標は,記載された医療計画の内容全体を網羅してはいなかった(表2).「認知症」「精神科などの専門医療機関への早期受診(予防・アクセス)」「精神疾患の種類に対応した専門医療の提供」「外来・訪問医療を通じた地域生活,社会生活の支援」「精神科救急医療体制」は多くの自治体の計画の中で言及され,数値目標としても記載される傾向があった.「高次脳機能障害」「てんかん」「医療観察法に関わる医療」は計画でふれる自治体は少なく,それに関連した数値目標も少なかった.一方で医療計画内に記載があっても,それが数値目標に挙げられていない内容もあった.
「統合失調症」の用語を含む指標はなかったが,例えば「在院期間5年以上かつ65歳以上の退院患者数」の大部分は統合失調症患者であると想定され,統合失調症関連の指標であるととれなくもない.また厚生労働省は気分障害関連施策としてかかりつけ医等こころの健康対応力向上研修の促進や自殺対策を挙げており,気分障害関連の数値目標も実質的には多く記載されている.しかし児童思春期の精神疾患,アルコール・薬物依存症,発達障害,てんかん,高次脳機能障害については数値目標としては記載されず,記載されても「これから医療整備を行う」といった内容が大半だった.
状況(課題)別では,「精神科などの専門医療機関への早期受診(予防・アクセス)」や「地域移行・退院支援」は,数値目標でも多く取り上げられたが,「精神科救急医療体制」「身体合併症の治療体制」は医療計画で大半の自治体がふれていても,数値目標に挙げていないところが多かった.
V.考察および医療計画に関連した精神科医療改革への提言
1.精神疾患医療計画の分析結果に関する考察
47都道府県の精神疾患に関する医療計画を,関係者による協議の場,精神疾患医療の現状の把握と情報の公開,検証可能な数値目標の設定の3つの観点から分析した.
第1の精神疾患医療計画に関する協議の場であるが,作業部会を開催していない都道府県が7ヵ所あり,計画策定後に精神疾患に関する保健・福祉との連携を含む地域医療を進める協議の場についても多くの自治体が記載をしていなかった.地域医療連携を考える上で,医療機関の連携のほかに,保健所などの公衆衛生機関で取り組まれる地域の保健予防活動・啓発活動,障害福祉施策による生活支援との連携も欠かせない.これらを所管する行政部署は多岐にわたり,統括する組織がない.医療保健福祉が一体化した体制を構築することが,スムーズな入退院や地域生活の支援に結びつくと考えられ,精神疾患医療計画に関する協議の場の確立は今後の重要な課題である.
「精神疾患の医療体制の構築に係る指針」3)は,「圏域を設定するに当たっては,二次医療圏を基本としつつ,障害保健福祉圏域,老人福祉圏域等との連携も考慮し,それぞれの医療機能及び地域の医療資源等の実情を勘案して弾力的に設定する」としている.精神疾患の医療計画においても従来の都道府県の範囲での計画にとどまらず,精神疾患や医療機能の種類に応じて,住民に身近な圏域を設定して,実効性のある地域医療連携の姿を追求していくことが求められている.
第2の精神疾患医療の現状把握と情報の公開であるが,医療情報の公開の意義は,地域住民にとって必要となるさまざまな医療機能を担う医療機関名を公表するとともに,地域の医療の現状を地域住民および医療・保健・福祉・教育・労働・司法などさまざまな領域の関係者が認識できるようにし,適切な医療機関選択と地域全体の医療機能の向上を図っていくことにある.
精神科医療における特有の機能に措置入院,応急入院があるが,「措置入院指定病院の名称」「応急入院指定病院の名称」を記載している自治体は少なかった.患者・家族のみならず,医療関係者,保健・福祉関係者,市区町村担当者など幅広い人々が精神科医療の現状を認識するために情報の公開が望まれる.厚生労働省は医制局長通知2),医制局指導課長通知3)などの中でうつ病・自殺対策を重視しており,「気分障害を専門的に診療する医療機能」は重要な情報である.しかしこうした医療機能をもつ医療機関を選定するには,各自治体で事前に選定条件の取り決めを行った上で調査を実施して医療計画に記載することが必要となる.選定基準に難しさがあるため,「気分障害(うつを含む)を専門的に診療する医療機関の名称」を医療計画に記載しづらかったと考えられる.
これら個別の疾患もしくは状況に対する医療機能をもつ医療施設名を明示していくことは,患者本人やその家族のみならず,医療・保健・福祉などの関係者にとっても有益なことであり,各種の医療機能の把握と公開が進展することを期待する.また,後述のように,一般病床と療養病床については医療法に基づき病床機能の報告とその結果の公開が制度化されたが,精神科医療と一般の医療の格差をなくすためにも,精神病床について類似の制度化を図ることが望まれる.
第3の検証可能な数値目標の設定について述べる.2012年3月30日の医政局指導課長通知「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について」3)において,現状把握のため43項目の指標が例示されたが,これらのうち「非定型抗精神病薬加算1(2種類以下)」「向精神薬の薬剤種類数(3剤以上処方率)」「抗精神病薬の単剤率」「精神障害者社会復帰施設等の利用実人員数」「精神科デイケア等の利用者数」「精神病床を有する一般病院数」「副傷病に精神疾患を有する患者の割合」「精神科身体合併症管理加算」「在宅通院精神療法の20歳未満加算」の10項目については,記載した自治体はなかった.
医療計画の実効性を高めるために,医政局長通知2)は「疾病・事業ごとのPDCAサイクルを効果的に機能させる」と述べている.PDCAサイクル,すなわちPlan(計画),Do(実行),Check(評価),Act(改善)の4段階を繰り返しながら計画を改善させていくことが求められており,数値目標の設定は,計画目標達成状況の検証可能性と関連するものといえる.2013年8月に開催された「第3回PDCAサイクルを通じた医療計画の実効性の向上のための研究会」4)の資料には,研修会の開催時期が遅く,研修会の内容をすでに策定が進行中だった医療計画に反映させることが難しかったことや,都道府県担当者ごとのITスキルの差があること,資料内容を把握して活用するところまで至らなかったのではないか,という意見が記載されている.医療計画の客観的評価を経時的に行うことはPDCAサイクルに求められる条件であり,必要であれば数値目標の内容を改良する柔軟な姿勢が必要である.また医療計画の関係者間での技術や経験の共有・蓄積を通してPDCAサイクルを動かすシステムを洗練させ,目標達成状況の検証可能性を高める努力が必要である.
また,2014年度に策定された障害福祉計画においては,後述のように入院中の精神障害者の地域生活への移行のための新たな数値目標が設定されている.こうした動きに連動して精神疾患医療計画の数値目標を更新していく必要がある.
2013年度から全国都道府県で新たな医療計画が開始された後も,精神科医療の今後のあり方にかかわる重要な動きが続いている.今後,精神疾患の医療計画を発展させ,精神科医療改革に結び付けていくためにも,そうした動きと関連づけて計画を見直していくことが求められている.
2.精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律(精神保健福祉法)と精神疾患医療計画との関連
2013年6月に成立した精神保健福祉法の一部改正で同法41条に盛り込まれた規定に基づき,厚生労働省告示「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針」5)が2014年3月7日に発出された.そこでは入院医療中心の精神科医療から地域生活を支えるための精神科医療の実現に向けていく旨が示されており,地域に密着した医療モデルへの転換を求めている.本指針は4つの大項目から構成されている.すなわち,「第一 精神病床の機能分化に関する事項」「第二 精神障害者の居宅等における保健医療サービス及び福祉サービスの提供に関する事項」「第三 精神障害者に対する医療の提供に当たっての医師,看護師その他の医療従事者と精神保健福祉士その他の精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識を有する者との連携に関する事項」「第四 その他良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供の確保に関する重要事項」である.本学会としても,2014年7月19日に,本指針が精神科医療の制度改革に結実していくことを強く求めていく旨の見解を表明している.
この指針の内容は精神疾患の医療計画と密接に関連するものである.ただし精神保健福祉法には,この指針をどのような手続きで具体化していくかは明示されていない.今後,本指針の内容を具体化するための方策を,各都道府県の実情に応じて医療計画の見直しや次期医療計画において策定していくことが求められる.すなわち,精神保健福祉法の第41条に基づく指針と,医療法に基づく医療計画とを連動させて,精神科医療の改革に結び付けていくことが要請されている.
3.障害者総合支援法の障害福祉計画と精神疾患医療計画との関連
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)で定められている障害福祉計画に関し,厚生労働省は2014年3月7日に障害保健福祉関係所管課長会議を通じて「第4期障害福祉計画に係る国の基本指針について」6)を示した.そこでは,3年ごとに計画策定をPDCAサイクルとして定着させることを求め,成果目標として次の4点を設定することとしている.「施設入所者の地域生活への移行」「入院中の精神障害者の地域生活への移行」「障害者の地域生活への支援」「福祉施設から一般就労への移行」である.「入院中の精神障害者の地域生活への移行」では,3つの指標を設定している.すなわち,①入院後3ヵ月時点の退院率の上昇(各都道府県で64%以上),②入院後1年時点の退院率の上昇(各都道府県で91%以上),③在院期間1年以上の長期患者数の減少(2017年6月末時点の長期在院者数を2012年6月末時点の長期在院者数から18%以上減少)である.
障害福祉計画において設定されたこれらの数値目標は,本来なら医療法の医療計画策定において議論し,書きこむべき目標であろう.精神科医療関係者が主体的に取り組むべき課題だからである.今後,医療計画の数値目標にもこれらの目標を記載し直して,精神科医療関係者に周知すべきである.
なお,障害福祉計画では,PDCAサイクルを実行するため,毎年の指標の達成状況の確認を求めているが,計画を実行する市町村では,これらの指標の確認ができない.これらの指標は「精神保健福祉資料」(630調査)をもとにし,都道府県単位で出されており,市町村では把握できない.指標を達成するには精神科病院の努力が重要である.インセンティブを高めるため,また,市町村計画に活用できるよう,これらの成果目標の達成状況を病院単位で数値化して公表する制度をつくることも望まれる.
4.医療法による病床機能報告制度,地域医療構想と精神疾患医療計画との関連
2014年6月25日,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」が公布された7).「効率的かつ質の高い医療提供体制を構築するとともに,地域包括ケアシステムを構築することを通じ,地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するため,医療法,介護保険法等の関係法律について所要の整備等を行う」8)もので,これにより,医療法,介護保険法などが同時に改正された.
医療法の改正では,病床機能の報告制度が創設され,医療機関の病床(一般病床および療養病床)が担っている医療機能の現状と今後の方向を選択し,病棟単位を基本として,都道府県に報告する仕組みが設けられた.医療機能の名称は「高度急性期機能」「急性期機能」「回復期機能」「慢性期機能」の4区分であり,医療機関は各医療機能の内容に照らして,病棟ごとにこの中からいずれか1つを選択する.
都道府県は2015年度以降,地域医療構想を策定する.地域医療構想は,地域の医療需要の将来推計や病床機能報告制度により医療機関から報告された情報などを活用し,圏域ごとに,各医療機能の将来の必要量などを含む地域の医療提供体制の将来のめざすべき姿を示すもので,医療計画の一部として策定することになる.都道府県内に圏域を定め,その地域にふさわしいバランスのとれた医療機能の分化・連携を進め,医療資源の適正な配分を図り,今後,増大する医療・介護サービスの需要に対応できる地域医療提供体制を構築することをめざす.医療機関による自主的な取り組みや医療機関相互の協議を実効的なものとし,機能分化・連携を進め,地域医療構想に記載する必要量に向けて病床数を収斂させていく.
病床機能報告制度は精神病床には適用されていないが,精神病床の機能分化については,精神保健福祉法第41条に基づく「指針」に基づき検討がなされているところである.医療法による病床機能報告制度および地域医療構想の策定に連動させて,精神病床についても同様の手法で,都道府県や医療圏域での需要の推計および将来のめざすべき姿を示していくことが求められよう.
5.介護保険法の地域支援事業および在宅医療の推進と精神疾患医療計画との関連
介護保険法の改正では,地域支援事業(市町村が介護保険サービスの給付とは別に行う介護保険関連事業)の見直しが図られた.新たに,地域支援事業に「認知症施策の推進」「医療と介護の連携の推進」「地域ケア会議の開催」といった事業が位置づけられ,市町村で実施することが定められた.
認知症施策の推進では,「認知症初期集中支援チーム」や「認知症地域支援推進員」の設置などに取り組む.2018年度には全ての市町村での実施(小規模市町村では共同実施を可とする)が求められている.精神疾患の医療計画の中で記載された認知症に対する施策についても,こうした介護保険法改正に基づく動きと連動して,今後見直しを図っていくことが要請される.
在宅医療と介護の連携の推進のための事業も,介護保険法地域支援事業の中に位置づけられ,市町村が中心となって,地域の医師会などと連携しつつ取り組むことになる.2015年度から施行し,市町村の準備期間を考慮して順次実施し,2018年度には全ての市町村で実施する(小規模市町村では事業の共同実施も可).
あわせて在宅医療の充実を図る必要もある.2013年度からの医療計画において,在宅医療の提供体制についても必須記載事項となり,その整備目標などを定めることとなったが,今後,さらに介護保険法の地域支援事業と連動させて計画を見直す必要が生じている.認知症などの高齢患者が増えつつある精神科医療としても,こうした動きに積極的に関与することが望まれる.
おわりに
今回の調査を通して全都道府県の医療計画を,「計画に関連する協議の場」「医療情報公開」「数値目標」の3つの観点から検証した.都道府県間に計画内容(量・質)の差はあるが,総じて,医療計画を通した精神疾患の医療の改善はまだその緒についたばかりであるといわざるをえない.計画を推進していく中で,その実効性を高めるための活発な議論を行い,地域事情に合った医療計画に今後も改定しつつ,その成果を評価する体制が根付いていくことを希望する9).ここで述べた提言をその際に参考にしていただけると幸いである.
医療法に基づく精神疾患の医療計画は,精神保健福祉法(第41条「指針」),障害者総合支援法(障害福祉計画),介護保険法〔介護保険事業(支援)計画〕などの関連する指針・計画と密接に連動している.これらの指針や計画を全体として関連づけながら,関係者が精神科医療の改革に向けて合意を形成し,その推進と評価を行うための重要な手段として活用していくことが求められるであろう.
なお, 本論文に関連して開示すべき利益相反はない.
謝 辞 本調査に際しては各都道府県の医療計画の関係部署のご協力がなければ成立しなかった. 本調査にご協力いただいたことをこの場を借りて御礼申し上げる.
1) 厚生労働省告示第146号: 医療提供体制の確保に関する基本方針. 2012
2) 厚生労働省医制局長通知: 医療計画について. 2012
3) 厚生労働省医制局指導課長通知: 疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について. 2012
4) 厚生労働省: 第3回PDCAサイクルを通じた医療計画の実効性の向上のための研究会. 2013 (http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000020517.html) (参照2016-01-21)
5) 厚生労働省告示第65号: 良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針. 2014 (http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/syofuku/files/2014-0409-1331.pdf) (参照2016-02-15)
6) 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課: 障害保健福祉関係所管課長会議資料. 2014 (http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/43095/1/06_shiryo3.pdf) (参照2016-01-21)
7) 厚生労働省医政局長・社会・援護局長・老健局長通知: 「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」の一部施行等について. 2014
8) 厚生労働省: 地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案の概要. 2014 (http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/186-06.pdf) (参照2016-01-21)
9) 黒田研二: 医療法にもとづく医療計画策定と地域精神科医療改革. 精神医学, 54; 977-982, 2012
10) 日本精神神経学会理事会: 精神疾患が医療法における医療計画の重要疾病として記載されるにあたっての日本精神神経学会理事会見解. 2011 (https://www.jspn.or.jp/activity/opinion/2011/2011_09_28kenkai_seishinshikkan.html) (参照2016-02-15)









