Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第117巻第9号

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資料
精神科病院の長期在院患者の退院動態と関連要因
河野 稔明1)2), 白石 弘巳3), 立森 久照2), 小山 明日香2)4), 長沼 洋一2)5), 竹島 正2)
1)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所司法精神医学研究部
2)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神保健計画研究部
3)東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科
4)熊本大学医学部附属病院神経精神科
5)東海大学健康科学部社会福祉学科
精神神経学雑誌 117: 713-729, 2015
受理日:2015年3月10日

 入院中心であったわが国の精神科医療では,在院長期化が依然として問題となっている.本研究では,その解決に資する長期在院患者の実態把握のため,全国の精神科病院を対象に質問紙による実態調査を行った.無作為に半数を抽出した733病院に依頼し,178病院(24.3%)の協力を得た.(1)在院1年以上の患者のうち1年後に在院継続中(A群)と退院済(B群)の,主診断×入院形態別の患者数,および(2)B群患者の個別詳細(各病院退院順に連続20名まで,計2,480名分;解析では(1)の患者数に基づき重み付け)について回答を求めた.(1)より求めた年間退院率(B群/[A群+B群])は,全体では16.3%であった.主診断別には認知症(27.8%)が最も高く,統合失調症(13.5%)が最も低かった.地区ブロック別には近畿,九州が高く,関東,中国・四国が低かった.患者・医療機関属性を調整した多変量解析では,同じく認知症,近畿,九州のほか,急性期型特定入院料の取得が退院のしやすさに,民間病院であることが退院のしにくさに有意に関連したが,入院形態は有意な関連を示さなかった.(2)を重み付けして求めた退院先の構成割合は,地域が約3分の1(自宅15.6%,施設18.1%)にとどまり,転院(47.4%)および死亡(18.2%)が約3分の2を占めた.転科を伴う転院でも大半は精神科に戻ることを前提とし,退院患者の4割以上は実質的に精神科での入院治療を続けていた.また,年齢とともに自宅への退院は急激に減少し,代わりに転院や死亡が著しく増加した.本調査は回収率が低く,実施から時間が経過しており,また患者の重症度の影響を検討していないという限界があるが,長期在院患者において,その大半を占める統合失調症では退院しにくいこと,認知症は最も退院しやすいが転院や死亡が多いことなどが示された.患者の年齢や状態に応じた適切な計画に基づき,効果的な退院促進と在院長期化の予防に取り組むことが期待される.

索引用語:退院率, 長期在院, 精神科病院, 退院先, 改革ビジョン>
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