Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第5号

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臨床報告
前頭葉症状が長年にわたって先行した進行性核上性麻痺の1臨床例
吉池 卓也1)2), 上田 諭3), 高橋 正彦4), 須田 潔子5), 古田 光5), 小山 恵子5)6)
1)東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野
2)国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所成人精神保健研究部
3)日本医科大学精神医学教室
4)大倉山記念病院精神科・物忘れ外来
5)東京都健康長寿医療センター精神科
6)楓の森メンタルクリニック
精神神経学雑誌 116: 359-369, 2014
受理日:2013年10月25日

 進行性核上性麻痺(PSP)は,下方注視麻痺,姿勢の不安定性,パーキンソニズム,前頭葉性の認知機能障害を臨床的特徴とする神経変性疾患である.多彩な症候が様々な組合せで出現し,初期にしばしば眼球運動障害が出現しないため,臨床診断が困難となる.PSPの臨床亜型のうち人格変化や行動異常で発症し前頭側頭型認知症(FTD)と酷似した臨床像を示す一群は,まず精神科を受診する可能性がある.今回,長期にわたり眼球運動障害が出現することなく前頭葉症状が優位の病像で経過したためFTDとの鑑別を要した1臨床例を報告する.症例は入院時58歳の男性である.45歳頃から元来の性格にそぐわないギャンブルへの傾倒,女性への馴れ馴れしさが出現し緩徐に進行した.52歳から記憶障害,遂行機能障害,思考の緩慢さが目立つようになり,職場で性的逸脱行動を反復したため,57歳時に精神科を受診した.臨床像と機能画像所見に見合うFTDの診断のもと外来に通院した.ところが,初診8ヵ月後に下方注視麻痺,転倒を伴う姿勢の不安定性が出現し,無為・無関心,記憶障害が目立つようになったため,診断再考を目的に入院となった.この時点で特徴的な症候がそろいPSPの臨床診断に至ったが,PSPの診断を得るまでに発病後13年もの期間を要した.本例は,初期にFTDに矛盾しない前頭葉症状を示す患者が,後に眼球運動障害を呈しPSPの臨床像を完成する場合があることを示す.前頭葉症状をもつ患者の鑑別診断としてPSPは不可欠な一疾患と考える必要がある.

索引用語:臨床病理亜型, 進行性核上性麻痺, 症例報告, 前頭側頭型認知症>
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