Advertisement第120回日本精神神経学会学術総会

論文抄録

第116巻第12号

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教育講演
第110回日本精神神経学会学術総会
特定妊婦と地域連携―精神科医の関与のあり方は?―
石川 博康
中通リハビリテーション病院精神科
精神神経学雑誌 116: 1019-1027, 2014

 特定妊婦とは平成21年4月に改正施行された児童福祉法において定義された法律用語である.特定妊婦はその後関連する行政通知などで補足され,今日では児童虐待予防のための公的な地域ネットワークの支援対象にも位置づけられている.特に平成24年11月30日の2つの厚生労働省通知は重要である.特定妊婦に該当するかどうかを判断する主要項目の1つに「精神疾患」が挙げられ,かつ出生後に児童虐待のおそれがある場合には,本人の同意のない医療機関から市区町村などへの情報提供が守秘義務違反の免責対象になるとされた.後者の通知により,医療者は親のプライバシーと児童虐待のおそれに直面する胎児のいずれをより保護すべきかについて判断を迫られる立場となった.しかし,出生後の児童虐待のおそれのみならず,特定妊婦それ自体についても,公の判断基準はいまだ示されていない.胎児虐待(fetal abuse)は,患者の同意を欠く地域連携を正当化する代理マーカーの役割を果たし得るだろう.
 親権能力とは,親権を行う前提とされる法理論上の概念で,この能力は本邦の児童虐待領域においてほとんど議論されて来なかった.特定妊婦の支援者が支援に際して事理弁識能力や親権能力を考慮に入れることは,児童虐待を予防するための実際的な選択肢を付け加え得る.なぜなら,本邦では,親が未成年の場合には親権代行が明確に規定されているが(民法第833条と第867条),精神障害と知的障害を理由に制限行為能力者となる場合については規定がないからである.単独親権者が親権能力を欠くなど事実上親権を行う者がいないとき,その者の子の権利は法的能力のある他者によって保障されるべきで,通常は未成年後見人により保障される.法的保護の適用において精神科医の貢献は不可欠であり,その貢献がなければ子の権利が形骸化する事態を生じ得る.特定妊婦の支援には,広範かつ正確な法的知識が重要である.

索引用語:特定妊婦, 地域連携, 胎児虐待, 親権能力, 未成年後見>
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